10月、岡山・美作市で誰もがモータースポーツを楽しめることを目指した実証実験が行われた。手話による実況など、さまざまな取り組みは、レース観戦の魅力を伝えられたのか。 

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耳が聞こえなくても…画面右下からの熱い“手話実況”で大興奮

10月、美作市の岡山国際サーキットで行われたスーパー耐久レース。注目レーサーの1人が、「モリゾウ」というレーシングネームで参戦したトヨタ自動車の豊田章男社長だ。

予選終了後、豊田社長が姿を現すと…。 

トヨタ自動車・豊田章男社長:
モリゾウを手話で表現するとどうなるの?

聴覚障害がある男性:
これがモリ(森の手話表現)。ゾウは、指文字で表現

トヨタ自動車・豊田章男社長:
(手話で)モリゾウ。お~これ覚えよう

豊田社長が手話をしている訳は、このレースである実証実験が行われたためだ。そのテーマは、「誰もがモータースポーツを楽しめるために」。
一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の助成で行われたもので、約30年、手話放送に取り組むOHKも参加した。

そのメインの取り組みが、“手話実況”だ。 

実況・解説音声(手話): 
メインストレートからブレーキングして第1コーナー。今、右に曲がっています。続いて左に大きく曲がっていくのが第2コーナーですね。ここ非常に難しい。出口が下っている。ちょっと下っていて滑りやすい

画面右隅に表示されている手話による実況。国内のモータースポーツで、史上初めて行われた。

手話実況を担当する 早瀬憲太郎さん:
(聴覚障害者は)いつもスポーツは映像を眺めるだけ。興奮する実況の様子は字幕では伝わらない。健常者と比べると、スポーツの楽しみは半減して残念

担当するのは、早瀬憲太郎さん。聴覚障害者のオリンピック「デフリンピック」に自転車競技で出場したアスリートだ。

レース配信チャンネルのアナウンサーや解説者のコメントを、まず2人の健常者が手話通訳する。その手話とレースの映像、アナウンサーの表情を見て、早瀬さんが感情豊かに手話で実況。スピード感や鋭いコーナリングの興奮を伝える。

実況・解説音声(手話):
速いタイムを出したい思いからギリギリを攻めるんですよね。チームの成績もさることながら、ドライバーも自らの誇りにかけ、ミスなく速いタイムを出す。ドライバーの資質をアピールする

配信映像を見た聴覚障害者:
レースのルールや概要、タイヤの状態などくわしい話がわかり、知識が広がった

配信映像を見た聴覚障害者:
手話実況を見ると、選手の様子など、さらに深く選手の情報を知ることができ面白かった。知らなかった世界が広がった

そして、無事に実況は終了した。

手話実況を担当する 早瀬憲太郎さん:
きょうから始まると思う。今後、手話の解説・実況が当たり前になってほしい。「実況ってこんなこと言ってるの?」、「スポーツの世界は楽しい」と感じたと思う。これをきっかけに、野球やサッカーなどでも手話実況を見たいという声が上がったらいい

サーキットを触って実感したり QRコードで気軽に情報収集も可能

今回の実証実験でOHKは、手話実況のほかにも3つの取り組みを行った。

備前焼で作ったコースの模型では、実際のコースと似たザラザラした感触や高低差を再現し、視覚障害者などに触ってサーキットを感じてもらう。

体験した視覚障害者:
複雑ですね意外と。最初は、楕円(だえん)形のコースを単純にグルグル回ると思ってたが、こんなにグネグネ曲がっているとは知らなかった。ここが一番高いな。音で楽しむだけでしたから、今までは

体験した視覚障害者:
小さい時は少し見えていて、その時はF1中継が好きでテレビで見ていたが、見えなくなってからは…。今どの辺りを走っているのかイメージしながら解説していただけたらいい

そして、QRコードを使って手軽に情報にアクセスする「シュワQ」。手話、字幕、音声付きのユニバーサル対応動画でコースなどを紹介する。 

体験した聴覚障害者:
手話だったら気持ちが伝わっていい。様子がよくわかるね。(このような)情報保障がいろんな場所にあれば、わたしたちも安心できる

また、サーキット周辺の宿泊施設で実験したのは、スマホを通じて遠隔で手話通訳者を呼び出せるシステムだ。聴覚障害者と手話のできない健常者とのコミュニケーションを可能にした。

旅館スタッフの音声(手話に通訳):
岡山県新見市の名牛「千屋牛」を使ったすき鍋です。すき焼きの汁を全部飲むことができる

聴覚障害者の手話(音声に通訳):
そうですか。これ全部おだしを頂けるんですね

旅館スタッフ:
はいそうです

遠隔手話通訳を使った聴覚障害者:
今まではそれぞれの料理の内容を聞きたかったが聞きにくく、遠慮して黙って食べることが多かった。情報があって食べると本当においしい

「誰もが楽しめるモータースポーツを」 実証実験から見えたこと

健常者と障害者が歩み寄り、情報から誰一人取り残されないモータースポーツ観戦を目指す取り組みに対し、トヨタ自動車の豊田社長は次のように語る。 

トヨタ自動車・豊田章男社長(トヨタ・モビリティ基金 理事長):
(手話はわからないが)手の動きを見ていたら意味がわかり、面白かった。健常者にとっては、身ぶり手ぶりと表情で非常に感情が伝わった。モリゾウ(私)の運転の評価は?

手話担当をする早瀬憲太郎さん:
コーナーが少しね…

バリアフリー化された情報は、障害がある人、ない人それぞれにモータースポーツの新しい魅力を伝えたようだ。 

(岡山放送)

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