出発が翌日に延期 羽田で“どよめき”

「岸田総理が乗る政府専用機は今日は飛びません」
「えっ…???」
羽田空港で外務省の職員から説明を受けた同行記者団がどよめいた。
もともと岸田首相は東南アジア歴訪のため11日(金)の午後3時に羽田空港を出発する予定だった。
しかし、この「飛ばない」という案内があったのはその1時間前、午後2時頃のことだ。
「出発はいつになるんですか?」そんな質問が飛び交ったが、この時点では全く見通しが立っておらず、外務省の職員も困惑していた。
そもそも岸田首相は、出発前日の10日(木)の段階では“死刑のハンコ発言”をした葉梨法相を続投させる方針を示していた。
しかし、その後、問題の発言と同様の発言を複数回繰り返していたという新たな事実が明らかになったほか、すでに自民党内からは「厳重注意で済むわけがない」「なぜ辞めさせないのか」といった声が出始めていた。
そして一夜明けた11日(金)の朝、岸田首相は方針を一転。
外遊出発を延期してまで、更迭に踏み切った。
首相周辺は「この状況を放置して海外に行くのはまずいと思ったんだろう」と話す。
結局、出発は翌12日(土)夜中の午前1時に延期。

同行団の前には預けたスーツケースの山が突然現れ、引き取ったのち政府関係者も記者も、全員が「一旦解散」となった。

外交日程 異例の”キャンセル”
今回の歴訪は当初、11日(金)夜にカンボジアに行き、13日(日)までASEAN(東アジア諸国連合)首脳会議に出席。
その後14日(月)からはインドネシアでG20サミット(主要20か国・地域首脳会議)、17日(木)にはタイに移動しAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席し19日(土)に帰国するという9日間の日程が組まれていた。
しかし、出発が12日(土)の午前1時になったことを受け、カンボジアの到着は日本時間の12日(土)朝7時半ごろに変更。午前中に首脳会議が始まるため、着いてすぐに臨む慌ただしい日程だ。
外交日程をキャンセルすることは避けられたものの、岸田首相の急な予定変更に政府はバタバタと対応に追われ、政府関係者はこうため息を漏らす。
「すぐに更迭していればこんなことにはならなかった。判断が遅い」
一方、首相周辺は「今回の歴訪で大切なのは、韓国、そして中国と会うことができるかどうかだ」と語っている。
国際会議の合間を縫って行う「2国間の首脳会談」。
すでにアメリカのバイデン大統領とは個別に首脳会談がセットされている。
まず、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との会談は、実現すれば対面での日韓首脳会談自体、3年ぶりとなる。
「元徴用工問題」で停滞してきた日韓関係の改善をまずは目指したい考えだ。

実は岸田首相と尹大統領は、6月の国際会議の晩餐会と9月の国連総会の場でそれぞれ言葉を交わしている。
しかしいずれも「言葉を交わしただけ」で、正式な「会談」ではなかったため、政府関係者は「今回は実現させる」と意気込む。
そして今回実現すれば大きな出来事となるのが、中国・習近平国家主席との日中首脳会談だ。

異例の3期目に入り、権力基盤を固めた習主席に対し「安定的な日中関係」の構築を呼びかけたい考えだが、首相周辺は「会談を行うかどうか中国はギリギリまで日本の動きを見極めるだろう」と話す。
日中首脳会談が実現すれば、これも3年ぶりとなる。
帰国後に待ち受ける野党の追及
外遊出発の数日前。歴訪を控えた岸田首相に対し、自民党幹部はこう声をかけた。
「たまにはゆっくりしてきてください」
この1カ月、山際前大臣の辞任や救済法案など旧統一教会をめぐる問題で多忙だった岸田首相に、外遊の合間を縫い少しでもリフレッシュしてほしい、そんな思いからの言葉だった。

しかし、歴訪直前の急転直下の更迭劇でそれどころではなくなり、帰国後には国会審議で野党の激しい追及が待ち受けている。
野党幹部は「歴訪をやめるべき」とまで憤っており、「今すぐ予算委員会を開くべき」と息巻く。閣僚を相次ぎ更迭した岸田首相の任命責任を1日でも早く問いたい考えだ。
さらに寺田総務相の「政治とカネ」の問題も依然くすぶっており、野党側は“ドミノ辞任”に追い込むため手ぐすねを引いている。
一方で、岸田首相を支えてきた自民党議員はこう話す。
「仮に来年国政選挙があったら、党内で“岸田おろし”が起きるレベルだ」
党内にも、じわりと不満がくすぶりはじめている。

「国内の事情で外交日程に影響を与えたら、また支持率が下がる」(首相周辺)として、強行日程で歴訪に出発した岸田首相。
13日には、アメリカ・バイデン大統領との首脳会談に加え、尹大統領も加えて、日米韓首脳会談も予定されている。
8日間の歴訪で成果を残せるかは、岸田首相の今後の政権運営にも大きな影響を与えることとなる。
(フジテレビ政治部・平河キャップ 木村祐太)