エネルギー支出に重点おいて負担軽減
政府が、28日に決定した総合経済対策は、財政支出が39兆円に上る大規模なものとなった。企業の関連支出も含めた事業規模は71兆円を上回る。
対策は、電気や都市ガス料金などの負担軽減策をはじめとした物価高騰への対応が柱になる。
一般家庭の電気料金の軽減では、2023年1月以降、使用量1キロワット時あたり7円補助し、2割程度抑制するほか、都市ガスでは、1立方メートルあたり30円を支援する。

政府は、標準的な世帯の家計負担について、電力使用量が400キロワット時の場合、月額2800円程度、都市ガス使用量が30立方メートルの場合、900円程度安くなり、2023年1月から9月まででガソリン代も含め4万5000円程度負担が軽くなるとしている。
消費者物価指数の上昇率は1.2ポイント程度押し下げられるという。
光熱費などエネルギー関連支出に重きを置いて、円安が加速する中での物価高の影響を和らげようというもので、岸田首相は28日夕方の会見で「集中的な激変緩和措置で国民生活を守る」と強調した。
「すぐに金利の引き上げは考えていない」
一方、岸田首相が対策の意義を説明する2時間半ほど前に、会見を開いたのが日銀の黒田総裁だ。
日銀は、この日、2日目の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和を維持することを決めた。

黒田総裁は、最近の円安について「急速かつ一方的だ。経済にマイナスで好ましくない」との発言を繰り返す一方で「すぐに金利の引き上げや(金融緩和の)出口が来るとは考えていない」と強調し、景気を下支えするため、大規模緩和を今後も継続する決意を示した。
そのうえで、「金融政策は為替を目的としていない。水準について申し上げるつもりはないが、日本は円高で非常に困ってきた歴史を持っている」と述べた。
こうした発言を受け、会見前に1ドル=146円台半ばだった円相場は、円安方向に動いて、終了直後には147円台をつけ、
その後も、一時147円台後半まで円売りが進んだ。
物価高対策打ち出す政府と 緩和堅持する日銀
9月の消費者物価指数の上昇率が前年比で3%に達し、31年ぶりの高い水準となり、日銀は、2022年度の物価上昇率の見通しを2.9%に引き上げた。
政府・日銀が目標としていた2%を大きく上回る水準だが、黒田総裁は、物価上昇が持続的なものではないとの見方を改めて示し、2%が「安定的に達成できるような状況には至っていない」と、慎重な構えを崩さなかった。
いまの物価高は、輸入品価格の上昇などがコストを押し上げる「コストプッシュ」要因による一時的なもので、賃上げを伴う前向きなものではない、との見解であり、この先も金融緩和を堅持する姿勢を改めて明確にした形だ。

物価高対策を打ち出す政府と、円安をもたらす緩和を続ける日銀との方向感の違いを指摘する声もあるなか、岸田首相は「日銀と連携し、意思疎通を図りながら為替の状況をしっかり注視していく」と述べ、「適切な政策を重層的に用意することで、現在の経済や金融為替の状況に向き合っていきたい」と強調した。
土壇場で4兆円が上積み
財源を借金に頼って、巨額の経済対策を積み重ねるやり方が常態化してきているなか、今回の対策は、土壇場で総額が膨らんだのも特徴だ。
裏付けとなる一般会計の補正予算の規模について、10月26日には財務省が25兆円程度とする案を示したが、自民党側の反発にあい、予備費などで一夜にして4兆円が積み上げられた。
「規模ありき」で大規模な歳出が打ち出される背景には、国債を大量に買い入れる日銀の金融政策があり、低金利のもとで国債を増発し、財政規律が緩む構図が一段と鮮明になっている。

財務省関係者は「どんなに借金をしても日銀が国債を買ってくれ金利が上がらないというのはどう考えても健全ではない。どこかで直さないといけないという思いはある」とこぼす。
賃上げは物価上昇に追いつけるか
政府は、財政で物価を押さえる対策を打ち出したが、今後は、持続的な賃上げが達成できるかが焦点だ。
物価変動の影響を除いた実質賃金は、5カ月連続でマイナスになっていて、賃上げが物価上昇に遅れをとり、賃金が目減りする状態が現実のものになっている。

パーソル総合研究所が企業の経営層530人に対し行った「賃金に関する調査」では、38.1%が「賃金アップは投資だ」と答え、「賃金アップはコスト増だ」の18.5%を20ポイントほど上回った。
一方で、63.0%が「会社の成長なくして賃上げは難しい」と回答し、「賃上げなくして会社の成長は難しい」の6.4%を大きく上回っている。
「賃上げは未来への投資となるが、会社の成長なくして賃上げは難しい」と考える経営層の意識が読み取れる。

賃金交渉の本番といえる来年の春闘について、岸田首相は「成長と分配の好循環に入れるかどうかの天王山だ」と述べたが、連合は5%程度の賃上げを求める方針だ。
企業が人的資本に資金を投じることができる環境を整え、物価上昇に追いつける構造的な賃上げを実現することができるのか。
政労使の機運醸成がカギを握るなか、日本経済は重要な局面を迎えることになる。
(執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 智田裕一)