女子ラグビー15人制の世界一を決める、ラグビーワールドカップ2021。コロナ禍で1年延期されたこの大会は、現在ニュージーランドで行われていて、「サクラフィフティーン」こと、女子ラグビー日本代表は、惜しくもプール戦(グループリーグ)での敗退が決まった。

10月29日(土・日本時間)から始まるノックアウトトーナメントでは8強が激突する。

フランス女子1部リーグで活躍する元女子日本代表・冨田真紀子は、この大会で日本チームにはフィジカル面での成長がみられたと解説する。

フランス1部リーグに所属する筆者の冨田真紀子
フランス1部リーグに所属する筆者の冨田真紀子
この記事の画像(4枚)

さらに10月29日(土・日本時間)から始まるノックアウトトーナメントで戦う8強の各国には、冨田がフランスリーグで日々試合をしている選手も数多く揃っている。全4試合に出場する各国と、それぞれの注目選手について冨田が分析した。

冨田分析・日本女子チームがW杯で得た教訓

ラグビーワールドカップの決勝トーナメントに進出する8チームが決まった。
現在ニュージーランドにて女子15人制ラグビーのワールドカップが行われていることをご存じだろうか。

日本でのワールドカップ2019で、男子日本代表チームがスコットランドに劇的な勝利を収めるなど、プール戦(グループリーグ)を4連勝で首位突破し、史上初の決勝トーナメント進出を決めた感動を忘れることができない人も多いだろう。

その女子版「ワールドカップ2021」が行われている。

昨年開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響により1年延期。かつてニュージーランド首相・ジャシンダ・アーダーンは、コロナ禍での国民の行動制限など厳しい措置を選択したが、これもニュージーランドで初開催のワールドカップを、“マスク無し・有観客”で行うために計画していたのではないかとさえよぎってしまう。制限は何一つない、ワールドカップだ。

日本女子代表も出場していたが、プール戦でのカナダやアメリカ、イタリアを前に、トップ8という目標は叶わなかった。

しかし、今大会初めてワールドカップに出場した選手も多かった中、初めて世界のレベルを感じ、通用したアタックや1対1。そしてあおむけに倒すタックルも随所で見せるなど、フィジカル負けしなかった。

前回大会ワールドカップ2017はけが人が多く、途中でのメンバー交代が3人ほどいたが、今大会はけが人も出さずに帰国できたことは、フィジカルの準備としておこなっていたレスリングセッションが効いていたに違いない。

ただ、世界に近づいてから勝つまでは、近いようで遠い。それが勝負の世界。次回はイングランドでのワールドカップ2025だ。イングランドにあるラグビーの聖地・トゥイッケナムで決勝が行われることも決まっている。次回、日本はどこまで食い込んでいけるか。

男子のワールドカップがきっかけでラグビーを目にした方も多いだろうが、男子が強い国=女子も強いとは限らない。

ワールドカップ2019では南アフリカが優勝したが、女子南アフリカ代表はプール戦で勝てず、決勝トーナメントに駒を進めることができなかった。女子でメダルが取れないという理由は、女子に対する強化費を回せないことが理由で、リオオリンピックでは、アフリカ大陸枠として、南アフリカの女子は出場できず、ケニアが出場した。

その一方で、ニュージーランドやイングランド、そしてフランスでは、男子と同様に協会契約でのプロ化にするなど、女子の強化が止まらない。

さて、ワールドカップ2021のノックアウトトーナメント出場が決まった国々について紹介する。

平均身長が高いフランス、止めにくいイタリア

まず、フランス対イタリア。

フランス代表13番と私はフランス国内リーグで対戦している
フランス代表13番と私はフランス国内リーグで対戦している

フランスは、信じられないくらいの量のチーズを毎日食べているのに身体もしまっている上、どうやって酸素を吸うか知っているからなのか、タバコを吸う選手もいるにも関わらず、最後まで走りきれている。

そんなフランスは平均身長がかなり高く、一般的に小柄な選手が多いウイングの選手でも175センチあるほどだ。そしてフランスのセンター13番は、片耳しか聞こえないというハンデを感じさせないプレーで、決してフィジカル的に恵まれているとは言えないが、見えないところでのハードワークが光る。イタリアとのセンター対決が楽しみだ。

というのも、イタリアは止めにくい相手。

フィジカルは決して強くはないが、アジリティ(敏捷性)やパススキルが秀でており、組織の中での1対1がまぁしつこい(笑)。パスタを食べ過ぎて、シュルシュル通るアジリティが染みついているのか、なんだかうまいチームだ。12番や13番センターがボールを持ったら何が起きるかわからない、そんな面白みがある。

女子ラグビー界のライオンと、世界中を置き去りにするボルト

次に、ニュージーランド対ウエールズ。

ニュージーランドはどれだけフィッシュ&チップスを食べたのかと思わせるくらい、“デカい”第一列がごっそり構えているが、11番のウイングというポジションで、足で勝負する選手を紹介する。

パーマをなびかせて走る速さ、そして決して倒れない強さ。ニュージーランドのポーシャ・ウッドマンは、まさに女子ラグビー界のライオンというにふさわしい。

父も伯父も男子ラグビーニュージーランド代表のALL BLACKS経験があるという家族構成。パートナーは、同じニュージーランド代表で23番を着るリネイ・ウィックリッフェ選手で、女の子を出産している。

ウェールズのジャスミン・ジョイスも、ウッドマンと同様リオ・東京五輪に出場している選手だが、ウサイン・ボルトかと思わせるくらい足が速い。

ラグビーではただ足が速いだけでは通用しないが、170センチと決して大きくない中で、速くてステップが切れ、スピードの強弱がうまい。この選手に私はタックルできた試しがない。

ニュージーランドとウェールズ戦の見どころ大外、ウイング対決だ。
 

そして、イングランド対オーストラリア。

イングランドのスクラムを組むフォワードの選手達は、お腹がすいたらサラダチキンを食べるほど筋肉に気を遣い、圧倒的な筋力という“重さ”でオーストラリアを上回ることもあり、フォワードの重さで勝負に来ると思われる。

そのスクラムのアドバンテージを生かしバックスにいいボールを供給できるのが強みだ。しかもイングランドは、1年間に40試合を国内で経験しているからこその“賢さ”も併せもっている。

注目は、イングランドの女王エミリー・スカーレット。180センチの大型センター・13番を務める32歳の足から放たれるキック力は、女子とは思えない飛距離だ。足が長いのにボールキャリーも止められない。しかも強いのに、美しい。彼女に憧れ、彼女の虜になっている選手は世界中にいるに違いない。私もそのうちの一人だ。

一方オーストラリアは、髪の毛を束ねた上にシュシュではなく、リボンをつける国だが、その髪を引っ張ってタックルに行きたくなるくらい、トライされるとリボンがイラつく国だ(笑)。個人的には、タックルされた後のブレイクダウンの作り方など、ラグビー新興国らしいスタイルを兼ね備えているため、イングランドとの試合は本格的な15人制ラグビーの勝負になるに違いないと推測している。

重さと賢さという最強の猛威を持つ国を、オーストラリアがどこまで苦しめられるか。

アイスホッケー代表になれない悔しさからラグビー代表に!?

最後に、カナダ対アメリカ。

最左がカナダ代表のチームメイト、サハモンド・ラシャンス
最左がカナダ代表のチームメイト、サハモンド・ラシャンス

カナダはコロナ禍の影響で国内ラグビーリーグが凍結したため、カナダ協会が「カナダを出ろ」との指示を出し、選手はイングランドやフランスに渡り、個人の能力を伸ばしてきた。

実は、私のフランスのチームメイトも、カナダ代表のウィングとして選出されている。

代表レベルでも、世界ランキング4位のチームだが、スタイルは、まさに基本に忠実なチーム。突出して目立った選手がいるわけではないが、ディフェンス力やブレイクダウン、フォワードの重さなど、プール戦では日本も苦しめられた。

一方のアメリカは組織としてはしっかりしていないが、12番センターを務めるアレブ・ケルターが恐ろしい選手だ。

リオ・東京五輪にも出場し、15人制ラグビーでも通用する選手だが、実はケルターは、アイスホッケーとしてアメリカ代表に選ばれなかった悔しさからラグビーに転向したという。

彼女にはラグビーが向いていたようで、今ではキャプテンを務めるほど、アメリカの心臓となる選手になっている。ケルターが活躍すればアメリカが勝つ。

アメリカはどれだけボールを動かしてケルターにボールを集めることができるか。そしてカナダはどれだけフォワード勝負ができるか。

プール戦ではカナダがアメリカに29対14で勝負を決めている。さて、負けたら終わりの決勝トーナメントはいかに。

順当にいけば、世界ランキング4強のフランス、ニュージーランド、イングランド、カナダが上がってくるか。

しかし、何も約束できないのがワールドカップ。

何が起こるかわからないのがワールドカップ。

果たしてラグビーの神様には見えている、最後にW杯の頂点に立つ国はどこなのだろうか。

これが、『世界の女子ラグビー』という世界最高峰ワールドカップ。

世界と対戦すると、やめられない。おもしろい。

(※記事の一部を修正しました)

【冨田真紀子】
千葉県浦安市出身。早稲田大学国際教養学部卒。14年フジテレビ入社。
ラグビー女子日本代表として、13年セブンスワールドカップ、16年リオ五輪、17年ワールドカップ出場。現在南仏ポー拠点。フランス1部リーグ Lons Section Paloise Rugby Féminin 所属。

冨田真紀子
冨田真紀子

七転び八起き。いた時よりも美しく。
千葉県浦安市出身。早稲田大学国際教養学部卒。14年フジテレビ入社。
ラグビー女子日本代表として、13年セブンスワールドカップ、16年リオ五輪、17年ワールドカップ出場。現在南仏ポー拠点。フランス1部リーグ Lons Section Paloise Rugby Féminin 所属。