11日、悔しさと誇りを胸に帰国したラグビー日本代表。
激闘を繰り広げ、27-39で敗れた8日のアルゼンチン戦を、女子ラグビーの元日本代表・冨田真紀子が現地で取材。「こんな素晴らしいダイナミックなラグビーを展開するチームが日本なのかと、誇りに感じた80分だった」と振り返った。

新しい歴史を刻むことの難しさ

「勝った」「負けた」で片付けられてしまうスポーツの世界。
何十年、何百年後にも、結果だけが残る白黒はっきりした世界。
予選プール最終戦、アルゼンチンを相手に27対39で日本は敗退。2大会連続の決勝トーナメント進出とはならなかった。新しい歴史を刻むことの難しさを感じる悔しい大会となった。

「申し訳ない」

試合後のインタビューでは、松田力也選手からその言葉が漏れた。
期待や応援をしてもらっていたのに、と。

スポーツには勝敗がつきもの。
勝者がいれば、敗者がいる。
申し訳ないなんて思わないでくれ。胸を張ってくれ。

試合後、「申し訳ない」と語った松田力也選手
試合後、「申し訳ない」と語った松田力也選手
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自分たちの力を100%出した試合。
80分を通して何度も、日本のラグビーが世界に通用することを証明した。こんな素晴らしいダイナミックなラグビーを展開するチームが日本なのかと、誇りに感じた80分だった。きっと私だけではないだろう。
日本代表が残したものは、結果以上のものがある。

目まぐるしい試合展開

格上のアルゼンチン相手に、覚悟を決めて臨んだ選手の表情。
前半2分にアルゼンチンにトライを取られてからも、ミスを引きずらず切り替え、相手の裏をつく芸術的なキック。キックで空中に飛んだボールを取りに必死にジャンプする姿からは目が離せなかった。

後半16分では、チャンスを見つけて、ドロップゴール。
ボールを前に落とす反則「ノックオン」かと思えば、執念のキャッチ。
きつい時間帯でも膝に手を置かずに、決して顔を下に向けない姿。

サポーターはビールを飲むのもトイレに行くのも忘れるくらいの、高揚と落胆が続く目まぐるしい試合展開だった。

後半27分には27対29と2点差に迫る展開だったが、そのわずか1分後には、アルゼンチン11番に、この試合3つ目となるトライを許し、最終スコアは27対39で終了のホイッスルが響いた。

試合後、選手に感謝するサポーター
試合後、選手に感謝するサポーター

試合終了後、涙を流した日本代表。選手、ヘッドコーチ、スタッフ全員がスタジアムを一周した。
全員で一列に並び、一礼。日本に対する敬意に包まれたスタジアムからは、「ニッポン!(チャチャチャ)ニッポン!(チャチャチャ)」と拍手が。日本だけでなく、アルゼンチンのサポーターも拍手をしていたのだろうか、 “ニッポンコール”がスタジアムで鳴り響いていた。

持っている力をすべて出して戦ってくれた日本代表への敬意。フランスまで連れてきてくれた日本代表への感謝。終わってしまったワールドカップへの寂しさ。様々な思いを拍手で伝えているように見えた。

「柱」の選手たちにも拍手を

今回30人以上の選手が手にしたフランス大会への切符。
ただし試合に出るには23人の登録メンバーに入らなければならない。
そんな試合に出られない選手のことをメンバーたちは「柱」と呼んでいる。
そんな「柱」の選手にも大きな拍手を送りたいものだ。

そのうちの一人、今回、念願のフランス行きの切符を手にした垣永真之介。
2015年W杯、2019年W杯も日本代表から外れた。膝の靭帯断裂などの大怪我、吐くような練習を重ね、やっと掴んだワールドカップの切符。

残念ながら、試合出場の機会には恵まれなかった。
しかしながら「柱」で共にノンメンバーだった選手がサモア戦でジャージを着たときは、「試合前日練習でいつも走ってきた以上に、試合では走ってこい」と仲間の大舞台の背中を押した。
自分の感情は後回しにし、チームのために身体を張り続ける「柱」の選手たちの思い。
「柱」の選手をそばで支えるために、フランスまで足を運んだ家族の思い。
様々な思いを汲み取り、戦い続けた日本代表。 

そういえば、フランス作家、サン=テグジュペリの星の王子さまが教えてくれた。
かんじんなことは、目に見えないんだよ。

取材する筆者
取材する筆者

次回に向けて…成長を楽しめる4年間に

驚いたのは、元オーストラリア監督でもある、アルゼンチンのヘッドコーチ、マイケル・チェイカ氏が、スペイン語で記者会見を行っていたことだ。就任は2022年3月。就任からまだ1年も立っていないが、英語での質問に対しても物怖じすることなく、スペイン語で返していた。その姿からは、数々の経験を重ね、アルゼンチン代表としての成長を楽しんでいるように見えた。

次回のワールドカップに向けて、日本代表は接戦を制するための経験値を増やす4年間にしたい。日本代表チームとしての強化でも、個人としての強化でも、世界を相手に戦う経験は裏切らない。大切なことは、苦しい4年間にしないこと。選手一人ひとりが最善のラグビー環境を自分から選び、飛び込むこと。きっとそれは成長を楽しめる4年間になるに違いない。4年は、もしかしたらあっという間かもしれない。
(フジテレビ・冨田真紀子)

冨田真紀子
冨田真紀子

七転び八起き。いた時よりも美しく。
千葉県浦安市出身。早稲田大学国際教養学部卒。14年フジテレビ入社。
ラグビー女子日本代表として、13年セブンスワールドカップ、16年リオ五輪、17年ワールドカップ出場。現在南仏ポー拠点。フランス1部リーグ Lons Section Paloise Rugby Féminin 所属。