ラグビーW杯フランス大会を戦う日本代表は8日、いよいよ決勝トーナメント進出をかけた大一番、アルゼンチン戦を迎える。

ラスト20分をどう展開するかが勝負のカギ――。こう指摘するのは、2016年のリオ五輪と翌年のW杯に出場した女子ラグビーの元日本代表・冨田真紀子。9月28日、28―22でサモア代表に競り勝った第3戦を現地で取材した。

パワー対スピード

トゥールーズの空は満月だった。第3戦、落とせないサモア戦の夜。最後まで気の抜けない試合は、月に見守られているようだった。

試合前半から激しい攻防だった。

サモア代表の正面から当たってくるボールキャリー。アタックを止めるのは、簡単ではなかった。しかし日本はタックルをし続け、ひたむきに身体を張り続けた。

日本はキックを使ってディフェンスの裏に何度もボールを運び、サモアのディフェンスをスピードラグビーでうまく崩した。後半16分には25対8と、日本は大きく優位に立っていたが、反則を得たら、ゴールキックを選択し続けた。トライの5点を取りにいかず、リスクヘッジをし、確実な3点を取り続けた。サモアは勢いに乗ったらどうなるかわからないことを知っていたのか。その小さな積み重ねが、試合の勝利への決め手となった。

サモアの覚悟

試合終了前ラスト20分はサモアの猛攻撃が続いた。

ボールを持った選手の覚悟。この試合に賭けている思いが伝わってくるほど身体を捧げているように感じた。特に試合終了前ラスト10分のボール支配率(アタック時間)は、日本が17%に対し、サモアが83%を占めていた。猪突猛進の攻撃でサモアは最後に2トライを奪ったが、時間が足りず、28対22で試合が終了した。

試合終了の笛の後、サモア代表選手は誰一人、その場から動かなかった。選手はすべて出し切り、もう立てないようだった。仲間の側にいこうとせず、各々一人ひとりがその場でうなだれる。グラウンドに大の字で倒れた身体を、満月が照らしていた。

ウラファラという赤いネックレス

ミックスゾーンでサモアの選手は、「自分たちの力をすべて出したが、規律を守れず反則をしてしまい、残念な結果となった。ただ、日本はとてもいいラグビーをした。称賛する」と声を揃えた。サモアの選手全員が赤い唐辛子のような形をしたネックレスをしているのが気になった。

サモアの選手全員が着けていた赤いネックレス「ウラファラ」
サモアの選手全員が着けていた赤いネックレス「ウラファラ」
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どうやら、パンダナスという植物を乾燥させ、赤にペイントしたウラファラというネックレスのようだ。ウラファラを着けて戦うということは、自分の所属先を代表しているという意味を持っており、つまり仲間を代表し、家族や村のために戦うということのようだ。サモアの選手のラスト20分の戦いの裏には、ウラファラの力が働いていたと感じた。

全てを捧げたサモアの選手たちは、試合後、日本に対する敬意に溢れていた。なんて美しい敗者の姿かと感じた。次戦の勝利を得たら、準々決勝に進出する日本。つまり、予選リーグプールDの代表として戦うということになる。ワールドカップはまさに熾烈な戦いだが、勝者は敗者の分まで次戦に臨みたい。次戦はアルゼンチン。

現地で取材した筆者
現地で取材した筆者

世界ランキング9位(10月2日現在)と格上のアルゼンチンに対し、日本はどう攻撃を止められるか。そしてラスト20分をどのように展開するかが、勝負のカギとなる。

というのも、試合を通しサモアは83回タックルしたのに対し、日本は181回と倍もの数のタックルをしていた。ラスト20分の最も足が動かなくなってくる時間に、どう反則しないでディフェンスするか。日本ラグビーの完成度が求められる。選手交代もカギとなってくるだろう。日本ラグビーを徹底する80分に期待したい。

落とせない一戦を勝利した選手の笑顔を照らすかのように満月が光っていた。
(フジテレビ・冨田真紀子)

冨田真紀子
冨田真紀子

七転び八起き。いた時よりも美しく。
千葉県浦安市出身。早稲田大学国際教養学部卒。14年フジテレビ入社。
ラグビー女子日本代表として、13年セブンスワールドカップ、16年リオ五輪、17年ワールドカップ出場。現在南仏ポー拠点。フランス1部リーグ Lons Section Paloise Rugby Féminin 所属。