「トウモロコシは何色?」と聞くと黄色や白と答える人が多いことだろう。そんなイメージを変える、新たなトウモロコシがあるのを知っているだろうか。

日本の島巡りが趣味だという百島 純さん(@momoshima_jun)が「脳がトウモロコシと認識してくれない」とのコメントと共に投稿したのは、道の駅「なら歴史芸術文化村」(奈良・天理市)で購入したというトウモロコシ。1粒1粒が濃い赤色で、つやつやとした透明感がまるで宝石のようだ。

提供:百島 純さん
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これは、野菜の種子の研究開発を100年以上行う種苗メーカーの株式会社大和農園(天理市)が開発した”赤色”のトウモロコシ「大和ルージュ」

「誰もが手に取って笑顔になる野菜を開発したい」との想いから誕生した、日本初の赤色のスイートコーンで、サツマイモのような優しい甘さに、トウモロコシの風味と旨みが魅力だという。実だけではなく芯やヒゲまで赤いのが特徴だ。

この赤色は、一般的なスイートコーンにはないアントシアニンが豊富に含まれているからだそう。アントシアニンはポリフェノールの一種で、ベリー類に多く含まれている健康に良い機能性成分だという。

提供:百島 純さん
提供:百島 純さん

とてもキレイな赤いトウモロコシには、Twitterでも「パッと見、つくりものの宝石みたい…」「ザクロ以外にもこんな美しい赤ってあるんですね」などのコメントが寄せられており、5万以上のいいねが付く話題となっている(11月4日時点)。

大和農園では10月中旬から「大和ルージュ」の種子の予約販売を開始しており、全国のJAや種苗店で、10mlの小袋が495円(税込)、1dlが1870円(同)、10dlが8690円(同)で購入できる。また、12月1日からは大和農園オンラインショップや大和農園通販カタログでの販売も予定している。

暴風雨や台風など、自然を相手に調査や試験

赤色の見た目がとてもキレイな「大和ルージュ」だが、そもそもなぜ赤色のトウモロコシの開発を考えたのだろうか? どのように食べるのがおすすめなのかも気になる。

株式会社大和農園の商品開発担当・金子久美さんに話を聞いてみた。


ーーなぜ“赤色のトウモロコシ”を思いついたの?

トウモロコシと一概に言っても、家畜用肥料や工業用などに使われる「フリントコーン」や「デントコーン」、食用でもちもちとした食感の「ワキシーコーン」など色々な種類があります。その中でも私たちが普段スーパーなどで買って食べているものは「スイートコーン」と言われる種類のトウモロコシになります。

スイートコーンは黄色が一般的で、その他には白色や、黄色と白のバイカラーなどがあります。デントコーンなどには既に赤色のものがあり、弊社でも2018年に「もちもち太郎パープル」と赤紫色のワキシーコーンは販売しておりましたが、スイートコーンで赤色のものはまだありませんでした。

そんな中で、皆さんがよく食べる甘くて美味しい「スイートコーン」にも赤色のものがあれば面白く、料理の幅も広がるのではと思い、日本初となる「赤いスイートコーン」の「大和ルージュ」を開発しました。構想は数年かかり、2021年より本格的に販売向けの試験栽培を始めました。

(提供:株式会社大和農園)
(提供:株式会社大和農園)

ーー開発でこだわったのは?

ワキシーコーンという種類のトウモロコシには赤紫色がありましたが、スイートコーンはこれまで日本で開発されていなかったので、赤い色でかつスイート種であることにこだわりました。


ーーでは、苦労した点は?

自然相手ですので、試験栽培が順調に進んでいた中、暴風雨や台風などで一瞬で倒れて台無しになってしまうなど、天候の良し悪しで調査や試験が左右されることでした。種を蒔く時期も1年のうちで限りがあるため、下手をすると1年後の調査になりかねない。自然との調和を取ることが一番苦労した点でした。

(提供:株式会社大和農園)
(提供:株式会社大和農園)

ーー赤色の他に、通常のスイートコーンと違う点はある?

通常スイートコーンの栽培は1年に1回で、春に種をまき夏に収穫しますが、「大和ルージュ」は1年に2回栽培が可能で、春に種をまき夏に収穫する春作と、夏に種をまき秋に収穫する秋作ができるのが魅力です。

「赤色は奇抜で受け入れられないのでは」不安も…

ーーどのような味や食感なの?

最近主流の甘さが際立つスーパースイートコーンとは違い、優しいサツマイモのような甘さで、とうもろこしの香りと風味が際立つお味です。食感もしっかりと粒を感じさせる食べ応えのあるトウモロコシです。料理してもしっかり食感が残り、甘さが逆に料理の邪魔をしないということでシェフの方々から高評価を頂いています。

断面 芯まで赤い(提供:株式会社大和農園)
断面 芯まで赤い(提供:株式会社大和農園)

ーー反響はどう?

1人でも多くの方に赤色のスイートコーンがあることを知って頂くため、2022年の5月頃からInstagramとTwitterのSNSで情報発信を始めました。このSNSでの投稿を見られた全国の生産者様から試験栽培をしたいとの連絡を数多くいただきました。サンプルで種子をご提供しまして、南は沖縄から北は北海道まで、各地で大和ルージュの試験栽培をしていただきました。そしてこのSNSを通じて、生産者様同士が繋がり、栽培のことなど相談し合うなどとても良いコミュニケーションの場ができました。

また、赤色のスイートコーンを料理で使いたいと飲食店からもお声があがり、個人のお店から、ミシュランの星付きのお店、有名飲食チェーンのグローバルダイニングまで大和ルージュを料理として提供していただくことが出来ました。そして青果物を販売したいと、大阪の阪急百貨店様や阪神百貨店様からも声がかかり販売に至り、店頭に並ぶと即日完売という売れ行きとなりました。

(提供:株式会社大和農園)
(提供:株式会社大和農園)

ーー実際、どのような声が届いているの?

試験栽培していただいた多くの生産者様から「栽培してワクワクして楽しかった」「青果物の売れ行きが大変良かった」「来年は拡大して栽培したい」とのお声を頂いている事が、何よりも嬉しいです。栽培された生産者様の中には新規就農の方も含まれており、大和ルージュで農業を頑張りたいと希望を持っていただけたことは、やはり大和ルージュの持つ赤色のなせる業だと思います。

そして、大和ルージュを食べた方々からは赤色という驚きの声はもちろんですが、「黄色や白とは違う美味しさがある」「トウモロコシの風味がして美味しい」「甘すぎないからどんどん食べられる」「今まで食べたトウモロコシの中で一番美味しい」など嬉しいお声を数多くいただいています。

(提供:株式会社大和農園)
(提供:株式会社大和農園)

ーー反響や声に対してはどう感じている?

当初は、赤色は奇抜で受け入れられないのではないか、甘さが際立つ品種が主流の中、味というところで受け入れられないのではないかなど多くの不安がありました。しかし、お知らせの為に始めたInstagramも6カ月でフォロワーが3700人にも増え、想像していた以上の高評価や反応に逆に驚いています。赤いスイートコーンが与える影響力の大きさを感じ始めています。

(提供:株式会社大和農園)
(提供:株式会社大和農園)

なお、金子さん曰く「大和ルージュ」は“レンジでチン!”して食べるのがオススメなのだそう。皮を少し残した状態で500wで約4分加熱する。皮がない場合はラップでも問題ない。旨みが逃げず、ゆでるより濃厚な味わいになるという。

また、アントシアニンは水に溶ける性質を持っているので、ゆでると赤色や成分が溶け出してしまうとのこと。そのためレンジか蒸したり、焼いたりする調理をオススメしている。

他にも“赤色”の特徴を生かす調理として、濃いうまみが豊富な赤い芯も、実と一緒に入れてご飯を炊くと、赤飯のような色になり、トウモロコシの風味と旨みがギュッと詰まった一品になるという。また、アントシアニンの水溶性を活かして、芯やヒゲ、実をゆでた赤色の汁を使って、スープやスイーツにすることで赤色を楽しむことができると話している。

左:ご飯と炊く 右:ゆでる(提供:株式会社大和農園)
左:ご飯と炊く 右:ゆでる(提供:株式会社大和農園)

「大和ルージュ」は美しいその赤色で、これからの食卓を彩ってくれるのではないだろうか。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。