福島県内には、医療用機械や自動車部品など、特色ある先端技術を持つ企業が多くある。県内では”産業スパイ“による被害報告はまだないものの、英知が集まる場所だからこそ、標的となる可能性は高い。こうしたリスクに備えるため、福島県警は国内での被害実例を交えながら情報流出を防ぐリスク管理などを紹介し、企業側も情報管理規則の徹底を図っている。

日本の経済活動や企業にも大きな脅威となっている”産業スパイ”

「産業スパイ」による危機は現実のものとなっていて、実際に2021年は産業スパイとみられる在日ロシア通商代表部の職員が、東京都内にある複数の半導体関係企業の社員に接触しているとして、警視庁公安部が企業側に注意喚起した。
警察が摘発前に企業前に通報するのは異例のことだが、経済安全保障上の観点から情報の流出を未然に防ぐために、いち早く歯止めをかけた。

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産業スパイは、国内企業や大学の研究施設が莫大な費用と時間をかけて開発した、最先端の技術や最新の製品の情報などを狙うとみられている。手に入れた情報やノウハウをもとに、自国で安く・大量に製品を作ることで、国際的に日本製の商品が売り負けする恐れがある。そうなると、国内の企業はもちろん日本経済にも大きな損失となりかねない。

福島県内では、会津地方に医療用機械や半導体、中通りに電子部品など、そして浜通りには自動車用部品や発電施設と、地域ごとに特色ある先端技術を持つ企業が数多くあり、医療用機械器具などの出荷額は日本一。製造品も東北で1位となっている。

産業スパイに対する警戒は、海外に展開するグローバル企業だけでなく福島県内の企業でも求められている。

県警が企業に出向き産業スパイの手口などを説明

企業に出向き産業スパイの手口などを説明する福島県警察本部。国内での被害実例を交えながら、情報流出を防ぐリスク管理などを紹介している。

福島県警察本部外事課・阿部勝也課長:
世界各国が重要技術の獲得にしのぎを削っているなか、経済安全保障の推進上、先端技術の流出防止対策は極めて重要であると認識しています。考えられる流出のリスクは多岐に渡りますので、どのようなことがあるのか・どのようなところに気を付けていかなければいけないのか、ご説明してご理解頂ければいいのかなと思っております

東京に本社を置き、福島県田村市に工場や技術センターを構える藤倉航装。救命胴衣や特殊防護服などを作る航空装備品メーカーだ。特にパラシュートは国内で唯一製造し、創業以来手縫いで国産の安心・安全なモノづくりにこだわっている。

さらに宇宙開発事業では、小惑星探査機「はやぶさ」の回収用カプセルを自社製造のパラシュートで安全に地球へ帰還させることに貢献。藤倉航装が持つ特許の数は、約160に上る。

藤倉航装技術部・佐藤舜大さん:
サイバー攻撃がよくニュースで取り上げられているのを見て、弊社としても防衛省の製品を扱うものなので、そこをよく注意しなければいけないとよく感じます

藤倉航装では、あらゆる製品・技術情報を社外に持ち出さず、商談などで提示する場合も上長の許可をとるなど、情報管理に関わる社内規則を徹底。また、定期的に社員教育にも取り組んでいる。

藤倉航装技術部・佐藤舜大さん:
産業スパイは今まで身近なものではなかったので、こういった機会を頂いて知ることができたので、今後社内で普及をして社内で起きないような体制づくりをしていきたいと思います

復興加速のため新たな産業を生み出そうと福島県で進むイノベーションコースト構想。中核を担う「福島ロボットテストフィールド」では、最先端のロボット研究・開発に取り組んでいる。

国内の英知が集まる場所だからこそ、福島県警察本部外事課の阿部勝也課長は「技術の流出の防止に向けた取り組みは極めて重要な課題。
企業は、技術情報流出の危機意識を持って自主的な防止対策を講じるなどして、技術情報流出の未然防止に役立てほしい」と話す。

福島県での”産業スパイ”による被害報告はまだない

福島県警察本部の担当者によると、県内企業での被害は確認されていないというが、明らかになっていないだけということも考えられ、現在進行形で「産業スパイ」が接触しようしていることも十分に考えられる。
特に「福島イノベーションコースト構想」で重点を置く、ロボット・ドローン、航空宇宙、エネルギーなど6つの分野は、他の国も研究・開発を進めていて標的となる可能性が高い。

”産業スパイ”への対策・対応だが、まずは、実際の手口を把握することが被害防止につながる
これまで確認されている事例としては、出入口などで流ちょうな日本語で「道案内をお願いできませんか」と話しかけた後、食事に誘うなどして社員から連絡先を聞き出していたという。

また、情報管理についても社内でのルール作りや社員への教育など、自主的な防衛対策を考える必要がある。
今後、福島県が国内の最先端技術・情報の集積地となるからこそ、これまで以上に財産と利益を守るため、危機意識が企業の経営陣やそこで働く一人ひとりに求められている。

(福島テレビ)

福島テレビ
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