5年に一度の和牛の祭典・全国和牛能力共進会「全共」が、10月10日、その全日程を終了した。
9部門中6部門で最高賞の首席を獲得し、“和牛王国”としての底力を示したのが、鹿児島だ。和牛に沸いた5日間を、舞台裏とともに振り返る。

5年に一度の和牛のオリンピック「全国和牛能力共進会」 

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10月6日から、鹿児島・霧島市と南九州市で、5日間にわたって開かれた和牛の祭典「全共」。

霧島市の会場には、全国のブランド牛を楽しめる試食スペースも設けられた。シャトルバスの発着所には、期間中、バスを待つ長い行列ができ、日を追うごとに増便して対応したという。

シャトルバスの利用者:
並び始めたのは午前10時ぐらい。1時間以上待っている。お目当てはバーベキュー!

そんな盛り上がりの裏で、和牛の生産者たちは、プライドを懸けた熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げていた。

全共開催を翌日に控えた、10月5日。霧島市牧園町の会場には、多くの和牛が集まった。しかし鹿児島の出品者の1人、藤山粋さんが気にかけるのは、自分たちの牛だけ。

大会1日目 高校や農業大学校が競う「特別区」 機器トラブルが発生

4区・藤山粋さん(霧島市福山町):
一番大変なことは、出品が決まってからの維持管理。鹿児島の皆さん、さらに維持管理よりも上に仕上がっているのですごいと思う

そして迎えた、大会1日目。
全共最初の審査は、高校や農業大学校が競う「特別区」。牛の良しあしと、取り組み発表の総合で順位が決まる。

審査を終えた鹿児島代表・曽於高校の生徒たちだったが、取り組み発表で使うスライドが、機器の不調でうまく作動しなかった。

2日後の大会3日目。最後の審査を終えると、全共で最初の結果発表を、生徒らは緊張とともに待つ。

審査員:
優等賞一席、出品番号254番、鹿児島県!

機器トラブルを乗り越え、曽於高校が見事、首席を獲得した。

曽於高校1年・田實夢佳さん:
取り組み発表でもいい成績を収められなかったけど…

そう話す田實さんだったが、他の出品者から「バンザーイ」の祝福を受け、笑みがこぼれた。この日は将来の種牛候補で競う若オス1区でも、鹿児島が首席を獲得した。

ほかの部門でも続々発表 宮崎が猛追、直接対決へ

翌日、大会4日目の早朝。鹿児島の関係者は沸いていた。

鹿児島関係者:
肉宮区も種牛区もかなりいい調子

鹿児島県商工会連合会・森義久 会長:
やったねー!さすがだ、鹿児島県!

南九州市知覧町で行われていた「肉牛部門」の結果がホームページに公開され、鹿児島は肥育去勢牛の8区で首席を獲得。
ところがその後、若メス部門となる2区と3区では大分と宮崎がそれぞれ首席を獲得し、宮崎が猛追する展開となる。

しかしここからが、鹿児島の快進撃の始まりだった。

3頭以上産んだメス牛3頭が、チームとして競う4区。
大会前日、自分の牛を気にしていた藤山さんの姿もあった。盛んに引き手に声をかけ、リラックスさせつつ、集中させる。

鹿児島は順調に勝ち進み、最後の審査はライバル・宮崎との直接対決に。
審査員が両県の牛の背後に並び、最後の協議を行う。そして…。

審査員が鹿児島に合図を送ると、青いユニホームの鹿児島関係者から歓声が上がった。

4区、鹿児島が首席獲得!

4区・藤山粋さん:
ドキドキでした。後ろに審査員が止まって手を出した瞬間は鳥肌がグァーっと

続く5区でも首席を獲得し、勢いに乗る鹿児島。

最後の審査“華の6区” 栄光は誰の手に

そして、いよいよ最後の審査「華の6区」だ。
6区はメス牛4頭と枝肉となる牛3頭のチーム戦で、総合力が問われることから、大会の花形とされる。

19歳の前田龍馬さんは、自身が競り市で見つけたメス牛「かりなきよ」号とともに出陣する。

観客席から鹿児島勢を見つめるのは龍馬さんの父・前田龍二さん。19歳の息子にすべてを託している。

龍馬さんらが参加する種牛の部で、審査員が選んだのは…宮崎の牛。鹿児島は2番手にとどまった。

一方、肉牛部門では鹿児島は2位、宮崎は5位だった。その結果、総合順位は…。

審査員:
第6区、総合評価群の優等賞一席は、鹿児島県!

華の6区で首席を獲得し、パレードする鹿児島勢。しかし、龍馬さんの表情は硬いままだった。

前田龍馬さんの父・前田龍二さん:
不完全燃焼ですね。引き手の龍馬を見てもわかるとおり、ほぼ喜んでいない

龍二さんの言葉通り、龍馬さんの心の中では喜びと悔しさが同時に渦巻いていた。

6区・前田龍馬さん:
まだお前には早い、満足するなよと言われている気がする

大会最終日。
藤山さんらは種牛の部で最高栄誉とされる「内閣総理大臣賞」も受賞し、会場を訪れた岸田文雄首相から表彰状を受け取る。最高の結果にさらに花を添えた。

地元開催の全共で、全9部門中6部門で首席を獲得した鹿児島。
しかし和牛の改良にゴールはない。出場した和牛農家それぞれが抱いた喜びや落胆は、5年後、次の北海道全共へ向けられる。

ホテルは満室、観光施設にビアガーデンも…大会がもたらした経済効果

会場には、期間中約30万人が訪れ、さまざまな経済効果がみられた。さらには早速、鹿児島の黒毛和牛を前面に押し出す動きも始まっている。

大会が開催されていた7日、午前4時ごろの霧島市牧園町の温泉街。まだ夜も明けぬうちから、ホテルの部屋には明かりがともっていた。
午前5時過ぎになると関係者らが一斉にバスに乗り込み、全共会場へと出発。取材したホテルでは全共の期間中、宮崎県など6県の代表チームを受け入れるなど、満室状態が続いた。

霧島国際ホテル・野並健治 総支配人:
ほぼ霧島地区のホテルは満室になっている。非常にありがたいタイミング。
宿泊だけではなく宴会、買い物、観光施設をめぐったりという話も聞いている。地区全体が非常に潤った1週間になった

また地元の観光施設は、全共関係者をもてなそうと、期間中にビアガーデンを開設。宿泊施設にとどまらない経済効果の広がりが見られた。

そして全共を終えて、新たな動きも。
霧島市・妙見温泉にある老舗旅館では、鹿児島の黒毛和牛を前面に押し出した宿泊プランの販売を始めた。

おりはし旅館・有馬博明 副社長:
タイミングよく、全国旅行支援がきょうから開始となる。支援された助成金をぜひ和牛に還元してもらって、全国旅行支援で旅行も楽しんでもらいながら、地元の農家の支援にもつなげてもらいたい

大盛況のうちに終わった全共。今後は「和牛日本一」の称号を掲げて、経済の活性化を目指す動きが加速しそうだ。

(鹿児島テレビ)

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