安部元総理の国葬のために来日していたブータンの王女が7日、帰国しました。10日間を超えた今回の日本滞在では、同行していた息子の王子2人と共に御所や秋篠宮邸に招かれ、交流を重ねました。皇室流の”おもてなし”と、その背景にある皇室とブータン王室との深い絆とは。
秋篠宮ご一家 総出で”おもてなし”
9月27日の国葬に合わせて来日したブータンのワンチュク国王の妹、ソナム・デチェン・ワンチュク王女。国葬には秋篠宮ご夫妻や佳子さまも参列されていました。秋篠宮家によるおもてなしは10月3日に始まりました。
ソナム王女は息子の王子2人を伴って秋篠宮邸を訪問。玄関で、ご夫妻と次女の佳子さま、長男の悠仁さまが出迎えられ、2人の王子も握手を交わしました。色鮮やかな僧衣姿のジグジェ・シンゲ・ワンチュク王子は9歳。現地では高僧の生まれ変わりと言われているそうです。
兄のヴェロチャナ・リンポチェ・ワンチュク王子は12歳。民族衣装の「ゴ」を着用し、弟の背中にそっと手を添える優しさが垣間見えました。この映像が報じられると、兄弟の可愛らしさが大きな話題となりました。
この記事の画像(34枚)2019年の夏、悠仁さまはご両親と共に初めての外国旅行でブータンを訪れ、空港で王女の出迎えを受けられるなど交流がありました。今回3年ぶりの再会で、王女に話しかけられた悠仁さまが英語で応じられる場面もありました。
庭でキンモクセイの香りを楽しむなどして、佳子さまや王子を交え、およそ1時間、通訳無しで和やかに過ごされたそうです。
その翌日の4日には、紀子さまが王女親子を宿泊先のホテルの目の前にある皇居の東御苑にご案内。一般公開中の二の丸庭園などを2時間余り一緒に散策し、王子2人は広い御苑でのびのびと過ごしていたそうです。
紀子さまは同じ男の子を育てる母として、10日間余りホテル暮らしが続く王子たちが気分転換できるよう、気遣われたのではないかと感じました。
5日には、地球環境問題の解決のために熱心に活動を続けてきた人に贈られる「ブループラネット賞」の表彰式が行われ、ご夫妻は王女と共に出席されました。王女は、今年この賞を受賞した父親であるブータンの前国王に代わり、トロフィーを受け取り、ご夫妻は拍手で祝福されました。
公私にわたるおもてなしには、まだ続きがありました。7日朝、紀子さまは宿泊先のホテルを訪ね、帰国の途に就く王女親子にお別れの挨拶をされたのです。
東京滞在の締めくくりも共に過ごす手厚いおもてなし。側近幹部は、「両殿下も眞子さんも悠仁さまも現地に行かれているし、王室の方々も来日すると宮邸にお寄りになるし、本当にお親しい間柄」と話していました。
皇室とブータン王室の”深い絆”
こうしたおもてなしの背景にあるのは、皇室とブータン王室との深い絆です。1987年3月には、陛下(当時の浩宮さま)がブータンをご訪問。前国王を始めとするロイヤルファミリーから心のこもったおもてなしを受け、王室主催のお別れの宴で、皇太后から贈られた民族衣装「ゴ」を着て踊りの輪に加わられました。
1989年2月、昭和天皇の大喪の礼、翌1990年の即位礼正殿の儀には、前国王が出席。1997年3月には秋篠宮ご夫妻が公式訪問。
2011年11月、ワンチュク国王が前月に結婚したばかりのペマ王妃と共に国賓として来日。外交関係樹立25年を記念する訪問で、新婚の国王夫妻は日本中にブータン旋風を巻き起こしました。気管支炎で入院中だった上皇さまに代わり、皇太子だった陛下が夫妻を出迎え、歓迎行事や宮中晩餐会に臨まれました。
2017年6月には、小室眞子さん(当時の眞子さま)が公式訪問。20年前に紀子さまが前国王から贈られた民族衣装の「キラ」を着用し、伝統の弓技を体験しました。
その4カ月後の2017年10月、ソナム王女が来日し、皇太子だった陛下のお住まいの東宮御所を訪ねました。両陛下そろって懇談され、高校生だった長女の愛子さまも懇談の輪に加わられました。
2019年8月、秋篠宮ご夫妻と悠仁さまは私的な旅行として訪問。悠仁さまは、羽織はかま姿で国王夫妻を表敬訪問し、国王夫妻の長男のジグメ・ナムゲル王子とも交流されました。この旅の印象を尋ねられた悠仁さまは、日本とブータンは「すごく似ている感じがします」と話されています。
その3カ月後に行われた「即位礼正殿の儀」にはワンチュク国王自ら王妃と共に出席し、両陛下に直接祝意を伝えました。両陛下は茶会にも国王夫妻を招いて交流を深められました。
滞在中、国王夫妻は今回の王女同様、長男のジグメ・ナムゲル王子を伴って秋篠宮邸を私的に訪れました。国王のSNSには、皇室から贈られた着物姿の王子の写真が掲載されています。
「歴史を超越した何かを共有している」
今年9月、ロンドンで行われたイギリスのエリザベス女王の国葬では、両陛下は国王夫妻と移動のバスが一緒になり、旧交を温められました。今回、両陛下はお住まいの御所に来日していた王女と王子を招き、長女の愛子さまも交えて懇談されたそうです。
このように振り返ってみると、皇室とブータン王室は、お互いに往き来しながら、世代を超えて親しい交流を重ねてきたことが分かります。2011年の来日の際、ブータンのワンチュク国王は宮中晩餐会で両国の関係についてこう述べています。
「私は常々、日本国民とブータン国民は、何か言葉にできない、しかし非常に深淵なもの、日々のやりとりや両国の歴史を超越した何かを共有していると信じてまいりました」「両国間の温かい友情を深めていくにあたり、天皇皇后両陛下(上皇ご夫妻)および皇太子殿下(天皇陛下)と私の父との間の個人的な絆が、とても貴重な役割を果たしてきたことに感謝申し上げます」
言葉では表現しきれないお互いの文化への敬意や親近感。そしてその根幹には、陛下と上皇ご夫妻が前国王と心を通わせられたことで築かれた、皇室と王室の深い絆があることが、国王の発言からも伝わってきます。
5日の「ブループラネット賞」の表彰式で、王女は受賞した前国王のこのような発言を紹介しました。「私はただ自らの職責を果たしたにすぎません。絶えず関心を抱き、真摯に取り組み、愛情を注ぐ。それこそが国家に仕える真の奉仕者の姿です」
象徴というお立場に向き合われる陛下や上皇さまの姿に通ずるものを感じると共に、1人の日本人として、ブータン王室の方のメッセージには共感するところが大きいと感じました。これがワンチュク国王の言う「超越した共有する何か」なのかもしれません。
お互いに深い共感と敬意を持ち、心を込めたおもてなしで交流を重ねてきた皇室とブータン王室。今回の王女と王子の来日を通じて、その絆に新たなページが加わりました。
(フジテレビ社会部・宮内庁担当 宮崎千歳)