フィギュアスケートの新たなシーズンが今年も幕を開ける。
12月の全日本選手権出場を目指し、間もなく地方ブロック大会から予選がスタートする。
2023年3月に日本で開催される世界選手権を目指す選手、全日本選手権を自身の集大成として挑む選手、日本最高峰の舞台で力を最大に発揮したい選手…、今年も様々な選手たちの思いがぶつかり合う時がやってきた。
前週の関東選手権と中部選手権に続き、9月30日から東京選手権と中四国九州選手権が始まる。
その中で中四国九州選手権に出場する三宅咲綺(さき)は大きな決断をし、今シーズンに挑む。
全日本選手権で見せた最高の演技
2019年、全日本選手権でひと際輝きを放った選手がいた。岡山県出身の当時高校2年生、三宅咲綺だ。
フリーへと駒を進めた三宅は出場24人中9番目、いわゆる“前半グループ”でリンクに立った。
冒頭、目の覚めるような連続ジャンプを成功。その後も次々とダイナミックにジャンプを決め、17歳はどんどん勢い乗っていく。
タンゴの力強いリズムに合ったエネルギッシュでハツラツとした演技に会場中が魅了された。

迎えたフィニッシュ。力強いガッツポーズとともに三宅の笑顔が弾けた。戦いの序盤、まだ静けさのあった会場が大きな拍手に包まれた。
出場選手の中で、ジャンプの回転不足と減点がなかったのはただ1人、三宅だけだ。すべての要素で加点がつき、フリーは9位。総合で12位に入った三宅は、翌シーズンには日本スケート連盟の強化選手にも選出された。
苦悩が続いた2シーズン
強化選手となり、さらなる飛躍が期待された三宅だが、ここから苦しいシーズンが続いていく。
2020-21シーズンは、ケガに泣かされた。

全日本選手権の最終予選、西日本選手権では、ケガの影響で思うような演技ができず、まさかの15位。2年続いていた全日本選手権の出場を逃し、強化選手からも外れることになった。
2021-22シーズンは、苦悩の中にも光を見つけた1年だった。
「去年はいい成績が出ずにスケートやめたいと思っていたので、その中で鈴木明子先生に出会ってショートとフリーを作ってもらってすごくスケートが楽しくなったなと思っています」
プロフィギュアスケーターで振付師としても活躍する鈴木明子さんと縁があり、初めて振付を依頼することになった。
「明子先生は長い間スケートされていて、その中で苦しいこともたくさんあったと経験をたくさん話してくださって、もう一度頑張ろうかなって思いました」
「明子先生と出会ってまたスケートが楽しくなって、『イチから頑張っていこうね』ってお話ししていただいたので、それがすごい励みになっています」

前に進み始めた中で迎えた西日本選手権。前年のリベンジを果たし、5位で全日本選手権の出場権をつかみ取った。
「この1年間すごく悔しい思いをしていろんな試練もあったんですけど、でもその失敗が今のスケーティングや明子先生の出会いに繋がっていると思うので、失敗したことで学べることもたくさんあるんだなと感じました」
2年ぶりに迎えた全日本のショートプログラム。しかし、またしても試練が立ちはだかる。
映画「グレイテスト・ショーマン」の劇中歌「Never Enough」を情感たっぷりにスタートさせた三宅だったが、最初の連続ジャンプが2回転+3回転になるミス。
その後も細かい取りこぼしが続き、技術点で得点を伸ばすことができずに演技を終えた。
結果は26位。約2点の差で上位24名のフリーに進むことはできなかった。
この経験は再び三宅を悩みの中に迷い込ませる。年が明け、インカレや国体に出場し、試合はこなしていたが、気持ちはどん底だった。
「なんかもうスケートに行くのが嫌で、国体が終わってから1カ月半くらい滑らなくて。家で引きこもりみたいになっちゃって…」
もう1度、自分のスケートを…覚悟の“移籍”
苦悩が続く、三宅にまた転機が訪れる。
「かおちゃん(坂本花織)と(籠谷)歩未ちゃんと仲が良いんです。インカレの時に『こっち来たら』って言ってくださって、それがきっかけで中野先生にコンタクトをとって移籍しました」
「結構いろんなことがあってナイーブな気持ちで、岡山では練習することが多かったので。心機一転して、新しく頑張りたいなと思って…」

以前から交流のあった、坂本花織らに声をかけられて、岡山から神戸に拠点を移すことを決意。心機一転、今シーズンから中野園子コーチの元で指導を受けることになった。
新たな環境に飛び込んでいくため、生活も一変。
「一人暮らしも神戸にきて始めたので、自立っていうのもありつつ、そういうのが演技につながってくるのじゃないかなと思っています。ナイーブな気持ちが人に頼って生きてるじゃないですけど、そういうのにつながってたんじゃないかな。一人暮らしをすることで、もう一度自立した演技ができるのかなって思ってます」
さらに岡山理科大学に通う大学2年生でもある三宅。大学に通うため、神戸と岡山を往復しなくてはならない日もあるという。
ハードな毎日を送るが、「全然苦じゃなくて、楽しいです」と、充実の表情を浮かべた。
新たな気持ちで挑む今シーズン。
プログラムは昨季、鈴木明子さんに振り付けてもらった2つのプログラムを継続して使用する。
支えられた出会いの数々に感謝して、前に進んでいく。

8月に取材した盛岡合宿では、同世代の仲間に囲まれながら、生き生きとした表情で練習に取り組む姿が印象的だった三宅。
――練習の雰囲気はどうですか?
すごく楽しくて。つらいけど、あゆちゃん(籠谷)とか、(三原)舞依ちゃんとか、(坂本)かおちゃんがいることで頑張れるって思います。
――今は前向きな気持ちでスケートに取り組めていますか?
つらくても、仲間がいるから頑張れるじゃないですけど…個人競技だけど、一緒に高め合える存在だと思っています。

――今シーズンはどんなシーズンにしたいですか?
ナイーブな気持ちになっていた時に、このまま終わっていいのかなって思った時があって。もっと自分の良さを出したスケートがしたいなと思うし…なので、やることがたくさん残っていると思います。それを全部達成できるような一年にしたいと思います。
フィギュアスケートは選手の心が良く表れるスポーツだとよく感じることがある。
自信のある選手は、その自信が力強い演技につながり、
悩みや不安を抱えている選手は、演技に迷いが見える瞬間がある。
そんな人間らしさ溢れるスポーツだからこそ、壁を乗り越えていく姿を見ると湧き上がるものがある。
三宅咲綺もその1人になれるか。今シーズンも全日本選手権を目指す戦いが始まる。
全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/toJPN.html