「農福連携」という言葉をご存知だろうか。障がい者やひきこもり状態の人たちが農業に携わることによって、社会参加を果たす取り組みを指す。つまり農業と福祉の連携だ。
2021年、新たな「農福連携」が、広島県竹原市のぶどう園でも始まった。

ぶどう園を再生したのはパン会社 「農福連携」で障がい者の雇用創出

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鈴なりに実った秋の味覚・ぶどう。実はこのぶどう園、少し前の2020年ごろは、荒れ放題の状態だった。

八天堂ファーム・林義之 社長:
竹原に住んでらっしゃるオーナーさんが、30年以上管理していたぶどう畑だったんですけど、病気で急逝されてしまって後継者がなく、ずっと放置されてきた。
今はぶどうがなっていますけれども、当時はなっているぶどうが干からびて放置されている様な状態で、だいぶ木も弱っていた

オーナーがいなくなったぶどう園を引き継いだのが、クリームパンで知られる「八天堂」だ。

なぜパンの会社が、ぶどう畑の再生に乗り出したのか?
八天堂には、農業へ進出した先に長年の目標があるという。

八天堂ぶどう園では週2回、ぶどうを収穫し、近くの道の駅やスーパーなどへ出荷している。

ぶどうに貼られる「ノウフク」と書かれたシール。これは農業と福祉の連携を意味し、八天堂が農業分野へ進出した重要なキーワードだ。
さらに自社がもつ技術を活かし、ビジネスとして成り立たせようと目指している。

林義之 社長:
パン店を開業してからもう30年くらいになりますけれども、常々福祉を通じて、何か貢献をしたいと思っていた。2017年に縁あって千葉県の木更津で、社会福祉法人と一緒にパンの工場を作って、知的障がい者の就労支援をやることになった

林義之 社長:
そこで農福連携というキーワードに行きつき、我々がこれまでかかわってきた中で培ったコンテンツが、何か役に立てるんじゃないかと思い、農福連携を始めることになった

ひきこもり状態だった人が働いて1年、前向きな変化が…

ぶどう園の運営に協力する社会福祉法人「宗越福祉会」。竹原市で老人ホームなどを運営している。ぶどう園では、宗越会が自立支援を行う、50代の男性2人が働いている

Aさんはこれまで長い引きこもりの生活を続けてきたが、両親が亡くなったことから、働くことを決意。社会復帰を目指している。

社会福祉法人 宗越福祉会・伊藤大悟 理事:
Aさんの働き方を見る中で、コミュニケーション能力や自己肯定感を引き上げるためには、農業に携われるきっかけが何かないかと思っていたところで、八天堂さんとの出会いがあった。
林さんと協議をする中で、農福連携というキーワードで社会復帰を目指さないかといったところからまずスタートしていった

これまで働いたことがなかったAさんは、まずは働くことに慣れるため、ぶどうの箱詰めや運搬・除草作業など、判断を必要としない補助的な農作業からスタート。

Aさん:
やっぱりブドウがなってみたら、成長が見られるし、自分もちょっとは携わっているので、やっぱり嬉しいもんですね

目に見える形で仕事のやりがいを感じ、1年以上ぶどう園で働くなかで、Aさんに前向きな変化が起きていると言う。

伊藤大悟 理事:
当初は外部とのコミュニケーションを図る方ではなかったですね。民生委員の方が、もともとは気にかけていた。自宅に訪問しても「いや、今は大丈夫だから」と拒否していたが、ブドウ栽培を始めてからは、外部からの声かけに対して、受けこたえをしながらやり取りができるようになってきた。
今では仕事帰りにコミュニティーに立ち寄って帰ったり、そこで1時間くらい話して帰るなど。社会性の向上、コミュニケーション能力は上がってきてるんじゃないかなと感じられる

「ノウフクJAS」の食品規格認証を受け 社会的な付加価値をアピール

7月、八天堂ファームは、ある食品規格の認証を受けた。それが「ノウフクJAS」。ぶどうやその加工品の生産に、障がい者が携わったという証だ。

林義之 社長:
ノウフクJASに関しては、まだまだ一般消費者の皆さんの認知度が低く、ほとんどの方はこれがどういうものなのかが判らずに、農産物を買う時は、価格で比較をされているのが現状じゃないかなと思う。
経済的価値は、我々でいうぶどうの美味しさとか、クリームパンの美味しさだが、そこに社会的価値の農福連携による地域貢献とか、就労に困っている方の社会復帰などをどうやって組み合わせて、消費者の皆さんにとっての価値に転換ができるかを大きなテーマに、これからも活動していきたいと思います

広島空港近くにある「空の駅オーチャード」でも、ぶどう園のぶどうを使った商品が販売されている。シャインマスカットとピオーネをこれでもかと詰め込んだ、ぶどう尽くしのパフェ。1500円という価格ながらも、休日には50個近く売れる人気ぶりだ。

客:
ぶどうの量がすごいですね。ぶどうがたくさん。中にもぶどうがぎっちり入っていて本当にぶどうが楽しめる感じですね

さらにぶどうをジャムに加工して、期間限定のクリームパンも販売。これらの加工技術を活かした商品の販売で、ぶどうの価値が高まれば、自立支援者への賃金アップにもつながる。

林義之 社長:
働く力。社会性、コミュニケーション能力などを仕事を通じて高めていただき、別の会社で働くことを目がけてやっていきたい。他社の声がかかるまで待つだけではなく、我々自体もそういった場作りをしていきたい。そういう風に考えています

約8000平方メートルある八天堂ぶどう園では、働くことができる自立支援者は二人が限界だという。今後は農場を増やすことはもちろん、他の農福連携事業者との協業も視野に入れ、自社のブランド・技術力を活かした支援を模索していくとのことだ。

(テレビ新広島)