災害が起こった際に必要なものをまとめた「防災セット」。昨今、「女性用」として販売される商品も出てきた。

その背景を、宮城県在住で東日本大震災の被災者でもある防災士・イラストレーターのアベナオミさんはこう語る。

「これまで防災対策は男性中心で行ってきた世界でしたが、東日本大震災やその後の数々の災害を経験したことで、社会全体が『女性というだけでこんなにも困ることがあるのか』ということをわかってきたのでしょう」

災害時には、女性だけが直面せざるをえない困難がどうしても存在する。それは、どのようなものか、それらに備えるためのポイントはどこにあるのか。アベさんに詳しく聞いた。

災害時に生理になるかもしれない

災害時には女性だからこそ大きな不便を感じざるをえないケースがある。例えば多くの女性に月1回、周期的に訪れる「生理」が避難生活と重なった場合だ。

アベさん自身も東日本大震災で被災した際、ちょうど震災の翌日が生理の予定日だったという。

イラストレーター・アベナオミさんが記す、震災時の「生理」体験(ムーンカレンダー掲載)
イラストレーター・アベナオミさんが記す、震災時の「生理」体験(ムーンカレンダー掲載)
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「震災の翌日にやはり生理が始まって。それからが本当に大変でした。こんな状況でも予定通りに生理が来ることにも驚きましたね」と振り返る。

アベさんは当時1歳だった子どもの育児と家事、仕事の両立で忙しい毎日を過ごしていた。そのため、いつ来るかわからない災害への備えにまで手が回らなかったという。生理用品もほとんどストックがない状態だった。

イラストレーター・アベナオミさんが記す、震災時の「生理」体験(ムーンカレンダー掲載)

震災の翌日はドラッグストア等が営業していたとしても大混雑だ。アベさんも生理用品を手に入れることができず、困り果てたという。

一家は自宅避難で、支援物資に関する情報も得られなかったため避難所に出向けば生理用品をもらえるかどうかもわからなかった。

イラストレーター・アベナオミさんが記す、震災時の「生理」体験(ムーンカレンダー掲載)
イラストレーター・アベナオミさんが記す、震災時の「生理」体験(ムーンカレンダー掲載)

「自宅にあった、ほんの少しの生理用品を大事に大事に使いました。でも夜用のナプキンのストックがなくて、当時1歳だった子どものおむつを開いてなんとか代用しました。なぜなら万一、寝ている間に下着や服、シーツなどを汚してしまったとしても、それを洗濯するための水がないのです。だから絶対に汚せない。大げさでなく生理期間の夜は『負けられない戦い』でした」

いつ再び大きな揺れが起こるかわからなかったため、震災後2週間ほどは常時すぐに避難できるよう就寝時もパジャマではなく外出できる服装でいたという。そのためアベさんとしては就寝中に服を汚すことをなんとしてでも避けたかったのだ。

生理用品は常に1.5回分ストック

だからこそ大切なのは、生理用品を十分にストックしておくことだ。では、どの程度備えておけばいいのだろうか?

アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より
アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より

「常に『1.5回分』はストックしておいてほしいです。今回の生理が終わったら必ず買い足して、次回に備えるというルーティンを作るのはいかがでしょう。毎回、生理が来てから買い足すという流れだと突然の災害時にはリスキーです」

生理は、経血の量や生理の日数など人それぞれなので、備えておくべき種類とその数は異なる。たとえ避難物資で生理用品をもらえたとしても、肌に合わないケースもあるだろう。個々の状況を振り返って備えておくことを大切にしたい。

また、「パンティライナー(おりものシート)」を備えておくことも役立つとアベさんは言う。

「友人から『下着をなかなか洗えない時にはパンティライナーを使うといいよ』と教えてもらって。デリケートゾーンを含めてなかなか体を洗えない状況もあって、清潔に保つのにすごく役に立ちました」

ごみを自宅で保管できる備えも大事

生理用品とともに考えたいのが「ごみの管理」だ。大きな災害が起こった後は、地域のごみ収集がしばらくストップしてしまう。

「道路の安全確認やガソリンの不足など様々な理由でごみ収集が再開しないケースも多いでしょう。その間は生理用品を含めたごみを自宅で保管しないといけません。1週間くらい置いておくとどうしてもにおいが出てきてしまうので、それを防ぐために『おむつ用の防臭袋』も備えておくと安心です」という。

アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より
アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より

当時、アベさんの自宅にはおむつ用の防臭袋があったので、それを活用することでにおいを防げたという。これは生理用品やおむつだけではない。どの家庭でも、生ごみを捨てられずに長期間保管するケースは起こりうる。

「今は子どもが大きくなったので、おむつのために備える必要はありません。ですが、震災後から、ずっとこれを切らさないようにストックしています。普段から生ごみを捨てる袋などに日常使いしているので、我が家ではいつ災害が起こっても、ごみをしばらくにおわず置いておけるはずです」

女性が災害時に犯罪に巻き込まれないために

「女性の場合、特に単身者なら、考えていただきたいのは『本当に避難所に行くべきかどうか』ということです」とアベさんは語る。

「例えば夕方から夜間に大きな地震が起こったとして、がれきで荒れた道を、停電で街灯も消えて真っ暗な中、女性が一人で歩くのは危険です。いざ避難所に着いたとしても女性専用スペースが設けられていることはほぼなく、基本的は雑魚寝でしょう。それは満員電車で大勢が寝泊まりする状況に近いのです」

そんななかで安心して寝ることができるだろうか。夜にトイレに行きたくなった場合に安全に一人で行けるだろうか。残念ながら「実際に年齢に関わらず、女性が避難所で性被害などにあったという話はよく耳にしています」とアベさんは言う。

だからこそ、女性には可能な限り「自宅避難」を選択してほしいという。もちろんその場合は、事前にハザードマップを確認しておくことは大前提だ。自宅が洪水や津波、土砂災害などの危険のない場所にあって、さらに家屋自体の強度にも不安がない場合は自宅に留まってほしい、と強調する。

自宅避難できるよう自宅での備えも(画像:イメージ)
自宅避難できるよう自宅での備えも(画像:イメージ)

「自宅なら鍵を閉めることができますし、トイレも使えます。だからこそ、自宅に防災のための備えをしておくことが必要なのです」

自宅避難を決めたとしても、家に備えがなければ物資を求めて外に出なければならない。

実際、災害後に「うちならお風呂に入れるよ」「充電できるよ」と見知らぬ人から自宅に誘われたり、執拗に声をかけられるケースがあったという。

たとえそれが善意であったとしても、「自分の身を自分で守れるように自宅に備えておく。これが女性にとって最大の防災ではないかと思いますね」とアベさん。

自宅避難をする際に、忘れがちなのがトイレの備えだ。

「みなさん災害の備えというと、まず食べるものの心配をしますが、人間は1日何も食べなくても生きてはいられます。でもトイレはどうでしょうか?3、4時間だって我慢はできませんよね。

男性なら外で用を足すことも不可能ではないけど、女性はそうはいきません。常に自宅に非常用トイレを準備しておくことをおすすめします」

災害後は『非日常』じゃなく不便な『日常』

「災害後は『非日常がしばらく続く』と思われるかもしれません。でも私が体感して思ったのは、『とてつもなく不便な日常が続く』という感覚です。喉が渇いたのに、蛇口をひねってもお水がでない、冷蔵庫を開けても冷えていない。それは非日常ではなく不便な『日常』です」

あくまでも日常。だからこそ普段から自分が「気にしてしまうポイント」は、大災害が起こった後であっても同様だ。

アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より
アベナオミさんの著書『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(学研プラス)より

「日常生活でどこが気になって、何にストレスを感じるかは本当に人それぞれです。見た目にはわからない持病があったり、メガネがないと生活ができない人もいる。体臭が気になる人、すっぴんを誰にも見せたくない人もいるでしょう。自分自身を見つめ直して、それに合わせた対策を講じておいてほしいのです」

「災害時にそんなことを気にしている場合じゃない」と、他人が感じたとしても、当人にとっては日常の重大事。価値観が違えばストレスに感じる点も異なるのだ。

「例えば、コンタクトを常用する人はいつもメガネのスペアを持ち歩く。すっぴんがいやならマスクとメガネと帽子を用意しておく。体臭が気になるなら汗拭きシートを備える、などこれらも全部、防災対策なのです」

そして大事なのは、防災対策とは一度行ったらそれで終わりではないという点だ。子育てや介護などライフステージは年を経て変化していく。それに合わせてこまめにアップデートしてくことを忘れてはいけない。

ムーンカレンダー  https://moon-calendar.jp/

『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40 東日本大震災を被災したママ・イラストレーターが3.11から続けている「1日1防災」』(学研プラス)
『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40 東日本大震災を被災したママ・イラストレーターが3.11から続けている「1日1防災」』(学研プラス)

アベナオミ
宮城県出身・在住のイラストレーター、防災士。2011年東日本大震災で被災し、当時の様子や防災を伝えるコミックエッセイなどを執筆。被災経験をもとに、本当に必要な防災、続けられる防災に取り組んでいる。

取材・文=高木さおり(sand)