東日本大震災から今年で10年が経った。あの日以来、地震への備えを見直したという人も多いだろう。しかし時が経つにつれて記憶が薄れ、人々の防災意識は低下しがちだ。

日本では今後30年以内に首都直下地震が70%、南海トラフ巨大地震が70〜80%の確率で発生すると言われている。その時、自分と自分の身近な人々の命を守るために、何を知っておくべきか。防災士でありフリーアナウンサーの奥村奈津美さんに話を聞いた。

奥村奈津美さん
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地震への備えは、まず耐震性チェック

「地震への備えで最も大切なのは建物の『耐震性』です」と、奥村さん。特に昨今はコロナ禍で家にいる時間が長く、自宅で被災する確率が高まっている。人々の集まる避難所は密になりやすいため、自宅に被害が及ばなかった場合は、そのまま在宅避難するケースも増えるだろう。

しかし、2016年の熊本地震のように、震度6〜7クラスの揺れが複数回起こる場合もある。1度目は耐えられたとしても、2度目はわからない。だからこそ、「自宅の建物の耐震性をぜひ確認してもらえたら」という。

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「1981年5月31日までの建築確認で建てられた建物は『旧耐震基準』のため、耐震補強工事などをしていない場合、大規模地震では倒壊する恐れがあります。1981年以前に建てられた中古マンションをリノベーションした物件も多いですが、購入を検討する場合には必ず、耐震診断を受けているか、耐震工事の済みの物件であるかなどを確認するのがいいですね」

さらに選ぶならば、やはり木造や軽量鉄筋ではなく鉄筋コンクリートの家が災害に強い。これは実際に、何度も災害現場に出向いた奥村さんの実感でもある。国土交通省住宅局の報告書によれば、熊本地震において木造住居の8割近くに何らかの被害が出ている。また、土砂災害や津波による被害も深刻だ。

土砂災害や津波に対しては水害と同様、ハザードマップを参照して居住地域のリスクを知っておくのが大切だ。特に、津波想定区域や土砂災害警戒区域に住む場合は、これを参考に地震が起こった際の適切な避難行動を考えておきたい。

自宅を安全な空間にするために

たとえ自宅の建物が頑丈だったとしても、室内が危険な空間では元も子もない。「家具や家電の転倒防止については、すでにみなさんご存知だと思いますが、意外と『大丈夫だろう』と思って何も対策していない方が多いです」と奥村さんは言う。東京消防庁が実施した地震被害調査によると、近年、負傷者の約3〜5割が屋内での家具類の転倒、落下によって負傷している。

東日本大震災後に撮影。当時仙台に住んでいた奥村さんの自宅の様子

奥村さん自身にもこんな経験がある。2011年の東日本大震災の際、奥村さんは当時仙台に住んでおり、自宅で被災した。震度6弱の激しい揺れで、冷蔵庫の上に載せていた重さ30キロもの大型オーブンレンジが飛び、奥村さんのすぐそばに落ちた。もし当たっていたら怪我では済まなかったかもしれない。

「最近では転倒防止グッズも進化しており、簡単に取り付けられるタイプの商品も販売されています。またテレビなどの家電を買うと耐震バンドが付属している場合がありますが、そちらも必ず取り付けてください」

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加えて窓ガラスの対策も重要だ。地震の揺れや倒れた家具の衝撃で窓ガラスが割れて飛び散ると、それによる怪我など二次被害にもつながりかねない。平時から飛散防止フィルムを貼っておけば台風への備えにもなる。賃貸でも使用できるタイプもあるという。

市販の「防災セット」に足りない「大事なもの」

災害が発生するとガスや電気などのライフラインの復旧までに 1週間以上を要するケースが多い。また、災害支援物資が3日以上到着しないことや、物流機能の停止によって1週間はスーパーマーケットやコンビニなどで食品が手に入らないことが想定される。そのため、自宅には最低でも「1週間×家族の人数分」の食品を備蓄しておくのが望ましいという。

さらに、避難の際に持って行く「非常持ち出し袋」は準備しているだろうか。市販のセットを購入してそのまま置いている、というケースもあるかもしれない。しかし「市販の防災袋には『一番大事なもの』は絶対入ってないのです」と奥村さんは指摘する。

「例えば眼鏡や補聴器、入れ歯などの体の一部になるものや、お子さんがいる家庭ならオムツやおしり拭きが必須です。ほかにも、アレルギー持つお子さんにはエピペンなどの薬やアレルギー対応食も重要でしょう。このような無いと命に関わるようなものは絶対に市販のセットには入っていません。ですから自分仕様にカスタマイズしてほしいのです」

 また、非常持ち出し袋は「水害を想定して用意しておきましょう」と奥村さんは念を押す。「水害に備えて防水対策をしておけば、地震での避難の際に雨が降っている場合にも対応できます。防水リュックをわざわざ買わなくても、中身を密閉できるチャック付きのポリ袋で小分けにすれば大丈夫でしょう」

災害への意識の格差は広がる一方

防災講座で一般の人々と接する機会の多い奥村さんは、人々の防災意識の「格差」を感じているという。

「自宅に『1日3L×1週間×家族人数分』、数百リットルもの水を備えている人がいる一方で、本当に数リットルも備えていない、という人もいます。東日本大震災以降、メディア等で『防災』はたびたびテーマになっており、関心のある人はどんどん備えをバージョンアップしています。ですから、そうじゃない人との格差が大きくなっていると感じます」

だからこそ奥村さんは「防災に関心のない人にこそ情報を届けたい」と語る。例えば子どもを持つ親御さん向けには、口腔ケアやアレルギーなど一般的な関心の高い講座に、防災のテーマをセットにして開催するなど工夫を重ねる。

「災害現場に訪れて被災した人たちの話を聞くと、『まさかこんなことになるとは思っていなかった』という言葉を毎回必ず聞きます」と奥村さんは語る。災害大国、日本に住む以上、その「まさか」は誰の身にも降りかかりうるのだ。この機会にぜひ、地震への備えをあらためて考えてみてはどうだろうか。

奥村奈津美
1982年、東京生まれ。防災士、福祉防災認定コーチ、防災住宅研究所 理事・防災教育推進協会 講師、フリーアナウンサー。著書に『子どもの命と未来を守る!「防災」新常識~パパ、ママができる!!水害・地震への備え~』(辰巳出版)。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来10年間、全国の被災地を訪れ、取材や支援ボランティアに力を入れる。環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。一児の母。

『子どもの命と未来を守る!「防災」新常識~パパ、ママができる!!水害・地震への備え~』(辰巳出版)

取材・文=高木さおり(sand)
イラスト=さいとうひさし