一台のコンテナをそのままひとつの客室にした「HOTEL R9 The Yard」が、注目を集めている。

実はこのコンテナホテル、普段はビジネスホテルとして稼働しているのだが、有事の際には被災地などに移設され、避難所や仮設宿泊所として利用される“レスキューホテル”という側面がある。

佐賀県・HOTEL R9 The Yard 江北(画像提供/デベロップ)
佐賀県・HOTEL R9 The Yard 江北(画像提供/デベロップ)
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日常と非日常、どちらでも役立つということから、宿泊施設として初となるフェーズフリー認証を取得している。

どのような設備が整っているのか、緊急時にはどのくらいの時間で移設されるのか、レスキューホテルを運営しているデベロップ広報担当の麻生川佳奈さんに聞いた。

3密を避けられる“郊外型”ビジネスホテル

ダブルルームの客室(画像提供/デベロップ)
ダブルルームの客室(画像提供/デベロップ)

「レスキューホテルは、平時は『HOTEL R9 The Yard』として営業し、ダブルとツインの客室を用意しています。一室あたり13平方メートルで、ベッドにユニットバス、テレビ、エアコン、電子レンジ、冷凍冷蔵庫、加湿式空気清浄機などを備えております」

ユニットバス(画像提供/デベロップ)
ユニットバス(画像提供/デベロップ)

内装だけを見るといわゆるビジネスホテルだが、外観はコンテナ。なんともユニークなホテルは、駅前などではなく、高速インターチェンジや工業団地、産業集積地などのそばに設置されている。

「郊外型ビジネスホテルとして、車利用のお客様を想定して立地を決めております。また、宿泊客の利便性だけでなく、災害時の出動も考え、インターチェンジの近くや国道沿いなどに出店することが多いです。利用されるお客様は、平日は長期連泊されるビジネスパーソンの方が多く、週末は車で旅行されるご家族やカップルもいらっしゃいます」

2022年9月時点で、開発中のホテルも含めて北関東を中心に中部・近畿地方、中国・四国地方、九州・沖縄地方に57拠点、1909室を展開。オープンから半年以上が経っているホテルに関しては、コロナ禍においても稼働率7~8割を維持しているとのこと。

「コンテナ1台が1客室になっているため、隣室を気にしなくていいというメリットに加え、部屋から直接外に出られて3密を避けられるという利点もあったからか、コロナ禍でも多くの方に利用していただきました」

利点は「設置の素早さ」と「レイアウトの柔軟性」

客室となるコンテナの下にはタイヤが設置されていて、トレーラーヘッドを接続すればすぐに移動できる。

そのため有事の際には迅速な対応ができるようになっている。

東京・三鷹市へ出動したときの様子(画像提供/デベロップ)
東京・三鷹市へ出動したときの様子(画像提供/デベロップ)

「行政機関や医療機関などから出動要請をいただいたら、速やかに指定された場所に移動し、避難所や仮設宿泊所としての利用を開始できる体制を整えています。現在は栃木県から沖縄県にかけて出動拠点となるホテルを展開しており、トレーラーヘッドですぐに移動できるので、原則として全国どこにでも移設が可能です(地域によっては移動に時間等がかかる場合あり)。

赴く場所や設置台数にもよりますが、基本的には要請から24時間以内の出動を目指しております。お風呂やトイレ、エアコンをはじめとする電気機器などのインフラ設備の利用には、それぞれの接続工事が必要になるため、出動要請をいただいてから最短3日~1週間の時間を要しますが、ベッドなどは設置が済めば利用可能です。プライベート空間の確保は速やかに行えます」

2022年1月栃木県内で臨時医療施設(診察室)として利用された際の内装(画像提供/デベロップ)
2022年1月栃木県内で臨時医療施設(診察室)として利用された際の内装(画像提供/デベロップ)

避難所が必要な地域の近くに「HOTEL R9 The Yard」がある場合は、移動せずに避難所など地域の災害拠点として活用することも想定されているとのこと。

また、コンテナの中はホテルの客室のまま使うだけでなく、レイアウトの変更もできるという。

2022年1月栃木県内で臨時医療施設(ナースステーション)として利用された際の内装(画像提供/デベロップ)
2022年1月栃木県内で臨時医療施設(ナースステーション)として利用された際の内装(画像提供/デベロップ)

「出動要請の際にご要望をいただいた場合、ベッドを撤去するなど、内装を変更して移動することも可能です。実際に2022年1月、新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的に栃木県より出動要請をいただいた際は、ベッドなどを撤去し、臨時医療施設として診察室や処置室、ナースステーションなどに活用された事例があります」

もともと地震や水害といった自然災害が発生した際に、避難所や仮設宿泊所などに利用されることを想定していたレスキューホテルだが、初めての出動要請は想定外の事案だった。

「コンテナ1台1客室型の『HOTEL R9 The Yard』の1号店は2018年12月に開業しましたが、初めて要請をいただいたのは2020年4月、長崎に停泊していたクルーズ船内で新型コロナウイルス感染症のクラスター感染が発生した時でした。栃木県、千葉県で運営していたホテルから客室50台を、長崎港のクルーズ船のそばに移設しました」

2020年4月、長崎県に移設した際の様子(画像提供/デベロップ)
2020年4月、長崎県に移設した際の様子(画像提供/デベロップ)

4月26日に出動要請を受け、27日から28日にかけてコンテナが移送され、29日には長崎市の三菱重工業長崎造船所敷地内での設置工事を完了。その後、約1カ月にわたって利用された。

「この時は、医療従事者やDMAT(災害派遣医療チーム)の休憩所や診療室として利用されました。初めての出動で50室という規模だったことに加え、ゴールデンウィーク期間中であったこともあり、三菱重工業長崎造船所敷地内ということでインフラ接続工事はスムーズに進められたものの、消防署等の行政機関や協力業者などの利害関係者との調整に手間取りました。

この経験を踏まえ、以降は拠点の拡充や全国の自治体などとの災害協定の締結、地域との連携を積極的に行うことで、突発的な災害時にも速やかに出動できる体制を強化しております」

東京・三鷹市へ出動したときの様子(画像提供/デベロップ)
東京・三鷹市へ出動したときの様子(画像提供/デベロップ)

「利害関係者との調整に手間取った」という話が出たが、かなり速いスピードで設置が完了したといえるだろう。

「一般的に仮設住宅は建設に3カ月程度かかるといわれておりますが、レスキューホテルは建設が不要な分、利用開始時期を大幅に短縮できると考えています。これまで要請をいただいた自治体からも、『電話したらすぐに駆けつけてくれた』『医療施設のそばに設置できる柔軟性がありがたい』など、お褒めの言葉をいただいております」

現在、国土交通省と全国101の自治体と災害協定を締結

そもそもレスキューホテルとは、どのような経緯で誕生したのだろうか。

「当社はもともと建築用コンテナモジュールを用いたトランクルームの開発・運営事業を行っており、東日本大震災が発生した際に、代表の岡村健史がコンテナを用いた備蓄倉庫の寄贈と復興従事者の寄宿舎の建設のために南三陸町と石巻市を訪ねました。

現地で体育館などのプライバシーが保たれない避難所の様子を見て、コンテナであればすぐに個室空間を提供できると考えたのがきっかけです」

既存事業と被災地の状況が結びついて、生まれた発想だったのだ。

「当社は、建築基準法に則った建築用のコンテナを製造しているので、移送が容易なだけでなく、快適な住居をそのまま避難所として利用できたところも大きかったと思います。

2017年にホテル事業をスタートして、運営ノウハウを蓄積し、2018年からコンテナ1台を客室としたコンテナホテルの運用を開始することができました」

2022年1月栃木県内で臨時医療施設として設置されたレスキューホテル(画像提供/デベロップ)
2022年1月栃木県内で臨時医療施設として設置されたレスキューホテル(画像提供/デベロップ)

現在は、拠点の拡充や外部企業との連携などに加え、自治体との災害協定の締結も進めているそう。

「2022年9月時点で、国土交通省と全国101の自治体と災害協定を締結しております。災害協定を結ぶことで、レスキューホテルの設置場所や消防法に関する手続きなどを事前に確認できるため、いざ災害が発生した際には設置場所の相談や手続きを簡略化したスピーディーな出動が可能になります。

もちろん災害協定を締結していない地域にも出動できますが、日頃から全国の自治体と締結することで、顔の見える関係を構築し、結果として“迅速な出動=災害の備え”になると考えております。今後も協定締結の輪を広げていきたいです」

レスキューホテルは避難者や医療従事者などの支えになるだけでなく、自治体などにとっても大きなサポートになるのではないだろうか。

「自治体が独自に避難所や仮設施設などを用意するとなると、費用も場所も時間も必要になります。一方で、レスキューホテルであれば、平時は当社がホテルとして運用し、有事の際だけピンポイントで利用していただけるので、自治体にとっては費用負担が軽減されるサービスだと考えております。

まだ『HOTEL R9 The Yard』を出店していない地域にも積極的に展開していきたいですし、まだ災害協定を締結されていない自治体はもとより、多くの皆様にレスキューホテルの存在を知っていただきたいです」

臨時医療施設として2022年1月に栃木県内へ出動(画像提供/デベロップ)
臨時医療施設として2022年1月に栃木県内へ出動(画像提供/デベロップ)

現時点での出動実績は、新型コロナウイルス感染症に関する出動のみとなっているが、自然災害への対策を想定した自治体から声がかかることも増えてきているとのこと。

「台風や豪雨が発生することがわかった時点で、自治体から事前にご連絡をいただくことがあります。幸い出動要請に至ったケースはないのですが、迅速な出動に向けた体制づくりはできていると自負しております。地域の皆様に安心して過ごしていただける“災害に強い街づくり”に寄与できたらと思っています」

被災時、家族だけで過ごせる空間があることで、気持ちに余裕が持てるはず。今後、レスキューホテルの存在が、被災者や復興従事者などの安心感につながることは間違いないだろう。

取材・文=有竹亮介(verb)