長野市の繁華街にある旅館。営んでいるのは父と息子。仕事で長期滞在する客に、特に親しまれている宿だ。コロナ禍もあり、客は減っているが、「親戚の家」のような雰囲気を大切にしながら親子で宿を守っている。

全盛期を過ぎても…「お帰りなさい」で迎える、変わらないもてなし

長野市の繁華街・権堂に近い西鶴賀通り。その一角に「ファミリー旅館 梅岡」はある。

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中牧津南光さん(79):
お帰りなさい

客:
どうも、きょうはすごい雨でしたね

中牧津南光さん(79):
ああ、雨でした

経営者の中牧津南光(なかまき・つなみつ)さん(79)。夕方、「いらっしゃいませ」ではなく、「お帰りなさい」と声をかけるのは、多くが連泊の客だからだ。

「梅岡」は、工事や営業などで数週間、数カ月と、長期滞在する客に重宝されてきた。「お帰りなさい」は、そんな宿を象徴する言葉だ。

中牧津南光さん:
家族的で、うちに帰ってきたような感じの旅館でありたいとは思う

厨房を任させれている息子・浩一郎さん(55)も…。

中牧浩一郎さん:
(雰囲気は)「親戚の家」ですかね。普段着で来られるという感じ

旅館のスタートは、昭和52(1977)年。元々は、津南光さんの父親が戦後に始めたすき焼き店だったが、屋号は残して旅館に改装した。

中牧津南光さん:
古い家を壊す時は大丈夫かなという感じはありましたけど、結構、お客さんがみえていただいて

「右肩上がり」の時代。もくろみは当たり、長野冬季オリンピック(1998年開催)の建設ラッシュ時、宿は全盛期を迎えた。飲食店などで働いていた浩一郎さんが戻ったのも、その頃だ。

中牧浩一郎さん
中牧浩一郎さん

中牧浩一郎さん:
景気が良かった。お客さんいっぱい来てたし、そこら中が忙しかった

その後市内に宿泊施設が増えたことや、景気の落ち込みもあって、利用客は減少。そして今は、新型コロナの影響も受けている。特に中高生のスポーツ合宿などが大きく減った。

中牧津南光さん:
出張の人は仕事しなきゃいけないので来るけど、大会や合宿が(コロナで)全然だめになった。あと観光も

長期滞在の客が感じる「居心地の良さ」

連泊客:
ただいま

中牧津南光さん:
お帰りなさい

中牧津南光さんが客を迎える
中牧津南光さんが客を迎える

客はかつてより減ったが、宿のもてなしは変わっていない。

夕食を作る浩一郎さんは…

中牧浩一郎さん:
いっぱい食べてもらいたい。夕飯が楽しみになってもらいたい

この日のメニューはポークソテー、天ぷら、焼き鮭など、家庭的な料理がずらり。

夕食のメニュー
夕食のメニュー

取材に訪れたこの日、食事をしていたのは、ダムの設備点検で5カ月連泊予定のグループだ。

連泊客:
おいしいですよ、ほんとに。仕事やって帰ってきて、何が楽しみと言えば飯しかないから。見ての通りの旦那(浩一郎さん)、優しくて温かみのある。後輩は以前に泊まって、俺は今回が初めてだけど、違和感がない

中牧浩一郎さん:
お昼ご飯はどうしてるんですか?山の中で

連泊客:
コンビ二寄って買ってる

テレビを見ながら、客と会話。浩一郎さんが大切にしているのは「親戚の家」のような雰囲気だ。

中牧浩一郎さん:
旅から旅へ行ってるからね。現場から現場へ行ってるから、やっぱり帰ってくる場所が必要、仕事が終わって…

風呂やトイレは共同。決して設備は新しくない。それでも客は、居心地の良さを感じている。

東京から来た5連泊の男性も…

仕事で5連泊の男性:
お父さんも息子さんも気さくな感じで、気を使わないでいられるからいいな

新たな挑戦も…「みんなが集まれるおうち」のように

客足が減ったコロナ禍、「梅岡」は新しいことにもチャレンジしている。それは「カレー」だ。

中牧浩一郎さん:
すごい売り上げになるかというと、売り上げにならないのだけど

1年ほど前から、毎週金曜、カレーのランチ営業をしている。スパイスは浩一郎さんの独自調合だ。

中牧浩一郎さん:
チョウジ(クローブ)、こういうのもガリッと食べて、スパイスそのものの味を楽しむのもいいのかな

この日のメニューは鹿肉のキーマカレーと、スープカレーのセット。

大阪府から:
(鹿肉を)初めて食べたのですが、そんなにくせもなく食べやすい

長野市内から:
結構スパイス効いてますね。ピリッと刺激がきておいしい

この「金曜カレー」の他に、浩一郎さんは「UMEOKA inn シアター」というイベントを、2020年から不定期で開催。内容は芝居、落語、映画鑑賞などさまざまだ。地域の住民にも「梅岡」を知ってもらおうと始めたもので、浩一郎さんは旅館の可能性はまだあると感じている。

中牧浩一郎さん:
会社行きたくないな、学校行きたくないなとか、きょうはボーッとしてたいんですわ、みたいな時に、違うおうちみたいな、地域のみんなが集まれるおうちみたいな形態でもいいのかな

2022年で46年目を迎える、「ファミリー旅館 梅岡」。
親子はこれからも、家に帰ってきたような雰囲気を大切にしながら、客を迎えたいとしている。

中牧津南光さん:
初めて来るお客さんにも『お帰りなさい』という感じで、うちに帰ってきたような感じで接したい

中牧浩一郎さん:
うちみたいな旅館は、お客さんは家族ではないんですけど、朝ごはんを作って、送り出して、お風呂に入れるようにして、夕飯を用意してという、言ってみればお母さんみたいな役目

(長野放送)

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