大型で非常に強い台風14号は、18日、九州にかなり接近し上陸するおそれがある。気象庁は、数十年に一度の大規模な災害が発生するおそれがあるとして、鹿児島県に特別警報を出すなど最大級の警戒を呼びかけている。台風14号はその後、本州付近を進む見込みで、広い範囲で台風の影響を受けるおそれがある。

警戒が必要だが、このように台風が接近したときや大雨のときに、度々、報告されるのが「川の様子を見に行く」「外の様子を見に行く」と言って出掛けて、被害に遭ってしまうケースだ。

濁流となって荒れる川の状況や、家への被害が迫っていないかを直接見て確認したいという心理なのだろうか。川や外の様子を見に行くのが危険であるにもかかわらず、このような行動をとってしまう人がいるのは、一体なぜなのか?

また、「川や外の様子を見に行きたい」という衝動が起きたときに、その衝動を抑えるためにはどうすればよいのか?

過去に編集部で紹介した記事を再構成し、社会心理学が専門の山口大学・人文学部の高橋征仁教授に聞いた「川や外の様子を見に行く人の心理」と「衝動を抑えるための対処法」を改めてお伝えしたい。

危険の大きさを見極めようとする“スカウティング”

――台風のとき、川や外の様子を見に行ってしまう人がいるのはなぜ?

この理由として「稲作農家にとって、水の管理は、その年の収穫を左右する重要な問題であり、家族や地域社会に対する責任感から、川や用水路の様子を見に行ってしまう」という説明が、しばしば、されます。

しかし、進化心理学の観点からすれば、こうした説明だけでは不十分です。というのも、稲作農家以外でも、災害時には危険を冒して、自分の仕事場の状況を確認しようとしたり、写真や動画に記録を収めようとしたりといった、リスク追求行動が広範に見られるからです。

むしろ、これらのリスク追求行動は、直観的な役割分業の一種であり、自分の縄張りを維持するために、率先して危険の大きさを見極めようとするスカウティング(偵察・哨戒行動)として、理解した方がよいでしょう。

霊長類学者の松沢哲郎氏らは、チンパンジーの集団が人間の作った道を渡るときに、「偵察、先陣、見張り、しんがり」といった明確な役割分担を行っていることを明らかにしています。

人間も、こうした直観的な役割分業を共有していると考えられます。


――年齢や性別によって、こうした心理に違いはある?

田んぼや川の様子を見に行って、亡くなった女性というのは、私は聞いたことがありません。スカウティングを行うのは基本的に男性であり、素早さと経験が求められるため、「若い男性」と「初老の男性」という2つのグループが中心であると考えられます。

災害時に、ラジオやテレビで災害情報の収集を積極的に行う(=間接的スカウティング)のも、この2つのグループです。

女性の場合、子どもや親の救出・安否確認が関心の焦点になり、リスク追求行動を取ってしまうことが多いようです。

このように、災害時には、年齢による分業や性別による分業が強化されることが多いのです。

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「川の様子を見に行きたい」衝動を抑えるための対処法

――台風や大雨のとき、川や外の様子を見に行きたくなったら、どのように対処すればよい?

危機のシグナルが感知されると、交感神経系が活性化して、「闘争・逃走反応」(=生存の為に戦うか逃げるかの準備を整える反応)が開始されます。

これは具体的には、アドレナリンの分泌、心拍数の上昇、瞳孔の拡大などです。

そして、限定された情報を手がかりに、直観的(=瞬間的・直接的に物事の本質を見てとるさま)に判断が下され、即座に実行に移されます。この時、男性は、自然災害に対しても、なぜか「闘争反応」をとることが多く、スカウティングも、その1つの形態であると考えられます。

スカウティングを抑制するためには、行動開始までの時間をできるだけ「間延び」させることで、衝動を抑制する必要があります。

具体的には「一人の人間の力では、自然の脅威を排除できない」ことや、「少なくとも現代の日本では、自然災害で一家が路頭に迷うことはない」ということを思い出せばよいのですが、使命感や責任感に燃えている状態では難しいかもしれません。

ポイントになるのは、川の様子を見に行く際、妻や子どもらに自分の行動を「告げている」という点であると考えられます。

もし、使命感や責任感に溢れた夫や父親から「川の様子を見に行く」と告げられたら、「万が一、命を失ったら、家族や地域の人に、より一層、迷惑をかけることになる」などの指摘をするのがよいと思います。

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――配偶者や子どもがいない人が、「川や外の様子を見に行きたい」という衝動を抑えるためにはどうすればよい?

人間は一人の時には、リスク追求行動は比較的、抑制される傾向にあります。ところが、若い男性がたくさん集まると、リスク追求行動に寛大になる傾向があります。

もし、「外や川の様子を見に行きたい」という衝動が起きたら、性別や年代、性格が異なる人に、そのことを話してみてください。とくに母親に話せば、きっと止めてくれるはずです。

ライブ映像で衝動は抑えられる?

――「川の状況を伝えるライブ映像」を見ることで衝動は抑えられる?

ライブ映像にするということ自体が、スカウティングの機能(外敵の情報収集を行うことで、外敵を分析し、コントロール可能にする)を拡張したものであると考えられます。

たしかに、こうした可視化によって、避難の迅速化などで災害を制御できる部分も少なくないでしょう。ただ、少なくとも男性に関して言えば、「実際に」「自分の眼で」確認しようとする衝動は、ライブ映像を見ることで助長されるのではないかと懸念します。



雨や風が強まったときには命を守る行動をとるのが最優先で、もし「川や外の様子を見に行きたい」という衝動が起きたら、その衝動について、性別や年代、性格が異なる人に話してみてほしい。

また、家族や知人から、そうした衝動を告げられたら、「万が一、命を失ったら、家族や地域の人に、より一層、迷惑をかけることになる」と指摘することを勧めたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。