「そこのけ、そこのけ」
「すごい・・・そこのけ、そこのけ」 マレーシアのクアラルンプール市を訪れた小池知事。大渋滞のなか、車をかき分けるように先導する白バイをみながらこうつぶやいた。
2泊の滞在で、調印式、視察、意見交換などのほか、オンラインで新型コロナウイルスモニタリング会議に参加するなど13の日程を駆け抜けた。そのテーマは主に2つ「都市型水害」と「エネルギー供給」だ。

水との闘い 東京都の“秘策”とは
「クアラルンプールと東京の共通の課題は、水との闘い」 クアラルンプール市の降水量は東京の約2倍で、鉄砲水による冠水被害など人口密集地ならではの「都市型水害」対策は喫緊の大きな課題だ。このため、クアラルンプール市は「スマートトンネル」というユニークなトンネルを作っている。

全長9.7kmの放水路の一部区間、3kmほどを、市内中心部の渋滞緩和のためのバイパス道路として活用したもので、3層構造のうち、普段は上2段をバイパス道路として活用、一番下は排水専用空間となっている。降水量が増えると道路部分を放水路として使っている。しかし、放水路として使用した後は、泥がたまり清掃や消毒に2日かかることからコストがかさむ、という。
一方で、都は都市型水害対策として「貯留池」を整備。2019年の台風19号の際、環状7号線地下貯留池では、総貯留量54万トンの約9割まで水が達したが、神田川の氾濫などは起こらなかった。

クアラルンプール市のマハディ市長は今年5月に東京都を訪問、貯留池などを視察し都の治水対策技術の“共有”を求めてきたという。 これをうけ小池知事はクアラルンプール市担当大臣や市長らが迎える中、協力を進める合意書を締結した。
東京都にとってのメリットは?
「日本の企業が持っている技術と共に提供することが、たがいにとって、日本経済にとって良いことにつながるんじゃないかと思います。」 小池知事はこう話し、都が交流・協力を進めることで日本の民間企業の海外展開を後押ししたい、という狙いを垣間見せた。
しかし関係者は、中国という“大きな壁”があると言う。 かつてクアラルンプールで様々な工事を請け負っていた日本の建設会社はドバイなどに“移転”、今では中国の建設会社が多いという。

「入札の時に、日本の会社は補修とか建設後のメンテナンスも含めた金額を提示するが、中国の会社は建設のミニマムコストだけを提示するので、どうしても負けてしまう」 日本ならではの“真面目さ”が裏目にでている現状を話す。
「いつできるのか」 また、マレーシア側と協議をすると、よく質問されるのが工期の早さだという。 マレーシアでは地震がほとんど無いため、超高層ビルも耐震対策は行われず、コンクリートだけで出来ているものが多いとのこと。日本からみたら“危ない”と思える建物でも、マレーシアでは“普通”だということで、「オーバースペック」にせず工期を急ぐことが、先方にとっては重要なのだろう。
「ガスをもっと送って」
「「ぜひガスをもっと送ってください」って言っておきました」 小池知事は石油及びガスの供給を行う大手国営企業ペトロナス社を訪れ、幹部らに日本へのLNGの安定供給を求めた。ペトロナス社は世界50か国以上で事業を展開している。
日本の天然ガス総輸入量に占めるマレーシアの割合は13・7%で、オーストラリアの37・2%に次いで2位であるほか、3位のロシアの8・4%を超えている。 エネルギー価格が高騰する中、今後さらにマレーシアからのLNGの重要性は大きくなると見られる。

円安・・・「今でしょ」
「円安をいかすのは今でしょ」 1ドル=140円台という24年ぶりの円安を海外で実感した小池知事、日本のモノを売り込むには「今こそチャンス」と改めて強調した。
「日本で「パスタと言えばイタリア製」を食べるように、海外でも「和食を食べるときは日本のお米を使うのが当たり前」にしていくべき」と円安の今こそ「戦略物資としての米」の海外売り込みを呼びかける。

「世界の若い力が東京で花開くようにしていきたい」と“マレーシアの東大”マラヤ大学講演では学生らに「LOOK EAST(=東方政策)」と言う言葉で連帯感を、“マレーシアのシリコンバレー”サイバージャヤでは東京での事業展開を呼びかけた。海外の人にとっては「円安=日本での生活費が安くなる」ことも追い風にしたいようだ。 (※LOOK EASTとは1981年にマレーシアのマハティール首相が、西欧ではなく日本や韓国の経済成長に見習っていこう、とした政策)
小池知事の危機感とは
ただ、「売り込み」と「受け入れ」に共通する大きな壁、それが「英語力」だ。日本と異なり、海外では多くの国では日常的に母国語でなくとも英語を話す。しかし日本では、英語を日常的に話す人も英語を使える場所も少ない。
「日本は内向き。海外と日本の立ち位置を客観的に分かるようにしないと」 日本の「英語力」にも危機感を募らせる小池知事だが、新たなビジネス、人、企業をどう呼び込むのか、長引くコロナ禍で疲弊した経済の強い回復のため、海外での知見をどういかしていくのか、その手腕が問われている。

(フジテレビ社会部・都庁担当 小川美)