2010年、新潟市役所前に店を構えた北書店が、2022年8月に惜しまれながら閉店した。街の書店が減りゆく中でも多くの人を魅了してきた北書店には「ここにしかない本屋」という確かな存在感があった。

客にとって“良いもの”を並べる 閉店を決めた理由は

新潟市中央区医学町通にある「北書店」。

北書店 佐藤雄一さん:
「そう遠からぬうちにお会いしましょう」とだけ言っておきます。12年ありがとうございました

北書店の店主 佐藤雄一さん
北書店の店主 佐藤雄一さん
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客:
唯一無二の存在だったんじゃないかと思う

客:
こんな本屋さんは他にない

北書店 佐藤雄一さん:
「当然でしょ」と言いたい。なかなかないですよ。全国にだってない

2022年8月31日、「ここにしかない本屋」が12年の歩みにピリオドを打った。

北書店(新潟市中央区)
北書店(新潟市中央区)

閉店の5日前、店主の佐藤雄一さんはこれまでと変わらずに取り寄せた本を並べ、店の顔となる棚を作っていた。

本を並べる佐藤さん
本を並べる佐藤さん

北書店 佐藤雄一さん:
シネ・ウインド(新潟市中央区の映画館)でハリウッド大作を流さないのと一緒。並べるのは、僕の店に来てくれるお客さんにとって「良いもの」。こういうお店を好んで来てくれる人が読む傾向にある本

SNSを通して閉店を伝えたのは8月6日。惜しむ声が相次いだ。

北書店 佐藤雄一さん:
自分でそんなふうに言うんだと思われるかも知れないけど、僕の店は売り上げが少ないのに影響力はでかい。反応は分かっていた

佐藤さんは2022年3月に脳出血で倒れ、左半身に麻痺が残った。4カ月にわたる入院生活の中で、店のこれからを考えたという。

退院し店に復帰した佐藤さん
退院し店に復帰した佐藤さん

北書店 佐藤雄一さん:
そもそも僕が健在であっても、お店自体が正直大変だし、「いつどうなっても」という状態で何年も前からやっていた。そこに対して、倒れたということがダメ押しだった

「人とつながる自由な場所に」 イベントにも注力

2010年1月に閉店した新潟市中央区古町地区の老舗書店「北光社」。最後の店長だった佐藤さんがその年の4月、36歳のときに開いたのが北書店だ。

北書店 佐藤雄一さん(2010年):
一緒に働いてきた仲間とか、お店づくりを通して知り合った仲間。何で僕が北書店を開いたかといったら、こういうものをここで停止したくなかった。それを維持できるくらい売れてくれればいい。あとは皆さんの自由な場所になってほしい

佐藤さんが北書店に込めた思い
佐藤さんが北書店に込めた思い

「人とつながる自由な場所でありたい」。その思いを北書店はイベントという形でも実現してきた。閉店の6日前には東京の古本店の店主とライターを招き、トークショーを開催。

閉店の前に開いたトークショー
閉店の前に開いたトークショー

北書店 佐藤雄一さん:
ここを全部本で埋めるほどの資金力がそもそもないから、「まぁいいか、何か展示会やるか、トークやるか」と。最初は具体的な策は何もなかった

「30坪の店舗は広すぎる」という理由で始めたイベントだが、詩人の谷川俊太郎さんを迎えるなど、本を愛する人たちに特別な時間を提供してきた。

トークショーに谷川俊太郎さんを迎えたことも
トークショーに谷川俊太郎さんを迎えたことも

客:
北尾トロさんとか、えのきどいちろうさんとか、本を読んでいて初めてここで出会えた人もいるのですごくうれしかった

書店のおもしろさ感じられる“ここだけの棚”

トークショーでは、北書店の「棚作り」にも話題が及ぶ。

ライター・編集者 南陀楼綾繁さん:
最初に来たとき、新潟関係の棚がとても良くて、著者とのつながりが深いんだろうなというのはすぐ感じた

松村道子キャスター:
このコーナーが北書店に入って最初の顔?

北書店 佐藤雄一さん:
そうですね。入り口に持ってきたのは新潟関係の本のコーナー。ずっと変わらずここにあったわけだけど、売れる・売れないだけではなく、場として機能し始める、棚が生き始める瞬間がある。そういうのは体験してきた

大手書店でも取り扱いのある新潟の民俗史。すぐ隣には、その著者が自費出版し、北書店に持ち込んだ一冊を並べる。人とのつながりと佐藤さんの視点が作るここだけの「棚」だ。

新潟関係の本が並ぶ
新潟関係の本が並ぶ

北書店 佐藤雄一さん:
本屋さんは“物差し”が変わっている。売れるから当然たくさん入れる、売れないから売り場からはじくということと、売れないけど置くもの、売れるけど置かないもの。こういう物差しがなぜか本屋さんにはある。これはおもしろいなと思う

いったん閉店も…まだまだ続く佐藤さんの棚作り

閉店が近づくにつれて北書店には連日、この空間との別れを惜しむ人々が訪れた。

客:
大阪の豊中市から来た。書店員をやっている。最近大きい本屋さんも増えているが、地域に特化した、地域の人たちのための本屋さんが本当に大事というのが、この店ではよく分かる

大阪から訪れた書店員のお客さんも
大阪から訪れた書店員のお客さんも

全国からも注目される存在になっていた北書店。佐藤さんはその続きをお客の前で約束した。

北書店 佐藤雄一さん:
いつのまにか「次の店楽しみにしています」というツイートばかりになっているけど、もう次の店やります。左手と左足に麻痺が残っているので、この店の規模は無理という話。狭い所でちょっとやってみようかな

北書店の“続き”は…
北書店の“続き”は…

北書店 佐藤雄一さん:
本は売れないし、「本屋さんなんて今更ナンセンス」とか当然、一般的な意見として大方はそう。でも、本が一冊たりともこの世からなくなって、本屋がこの世から絶滅するとは誰も言っていない。本屋さんは駄目だけど、北書店を辞めなくてはいけない理由はない。それは僕が決めること

ここにしかない本屋、北書店。その灯りがいったんは消えたとしても、佐藤さんの「棚作り」に終わりはない。

(NST新潟総合テレビ)