11月、南極に向けていよいよ出発する第64次観測隊。今回、私も観測隊の同行者として参加するのだが、そこで、一つ気になるのが南極の“トイレ事情”。どんなルールがあるのだろうか?
どの国も領土権を主張できない
1959年、日本を含む12カ国が採択した南極条約では領土権の主張の凍結、軍事基地の建設などの禁止を含む平和的利用、科学調査の自由、国際協力の促進がうたわれた。今では、この締結国は55カ国に上る。
その後、南極での調査観測が活発化されたほか、南極に観光船が行き来するようになり、年間3万人を超える人が南極を訪れるなど、人間の活動が増加したことから、南極の環境保護に関する南極条約議定書が1998年に発効された。
議定書では、南極地域を自然保護地域として環境と生態系を包括的に保護すること、としていて、動植物の持ち込みの制限や廃棄物の処理、などが盛り込まれた。

日本では、南極地域の環境の保護に関する法律が定められ、鉱物資源活動の禁止、動植物の持ち込みの禁止、廃棄物の適正な処分及び管理が義務化された。
今回は、その中で廃棄物の処理や管理について南極地域観測隊の同行者として第58次に参加した環境省の竹原真理さんに話を聞いた。

南極で発生した廃棄物の処理の仕方は?
日本の観測隊に適応される原則は、南極地域の環境の保護に関する法律、第15条に書かれている。
「何人も、南極地域においては、廃棄物の発生の抑制に努めるとともに、発生した廃棄物を南極地域から除去するように努めなければならない」
この法律を基に、し尿の処分は3パターンある。
1.内陸の基地の場合。
「液状の廃棄物(糞尿を含む)であって氷床に覆われ、かつ海岸または氷棚の先端から内陸の方向に遠く隔った地域として、環境省令で定める地域において発生するものの当該地域における埋立てによる処分であって、環境省令で定める埋立ての方法に関する基準に従うものとする」
つまり、生活排水や汚水の埋め立てが認められている。(内陸とは5キロ以上内陸)
2.沿岸の基地。
「液状廃棄物であって人の日常生活に伴って生じるものその他の政令で定めるものの陸域から海域への排出であって、環境省令で定める排出の方法に関する基準に従ってするもの」
これは昭和基地に適用される法律となる。液状廃棄物に含まれる固形状のものが融解するまで貯留する処理を行い排出。初期希釈及び急速な拡散のための条件を備えている海域に排出。つまり海に排出しても良いが、十分に濾過するなど処理をしなければならないということ。
3.野外。
「液状廃棄物の陸域における処分または陸域から海域への排出であって、南極条約において行為をする上でやむを得ずかつ南極環境影響の程度が軽微であるものとして環境省令が定めるもの」
野営地及び野外活動に適用。陸上または海域でのし尿の処分を認める。できる限り常設の建築物または船舶に持ち帰るよう努める。つまり、持ち帰ることが求められるが、状況に応じて、陸地や海氷上でも“大”や“小”をしても良いというもの。

観測隊にはさらに厳しい規制が…
こうした法律がある上で、観測隊の野外行動マニュアルは、さらに厳しいものになっている。
沿岸部の露岩上での排出は不可。
海洋、タイドクラック(海氷の割れ目)へは可。
海氷上での“大”は不可。“小”は可。
海中への“大”は可。
内陸氷床での“大”は不可。
氷床での“小”は可。
野外でのトイレには、ペール缶トイレ、携帯トイレなどを使い、持ち帰って基地で生ごみ処理装置で炭化する。

基地には、膜分離活性汚泥方式の処理施設が稼働。1日あたり6立方メートルの処理能力がある。
夏期隊員用の宿舎は2棟のうち1棟のみ、汚水処理施設が設置されており、汚水処理装置が設置されていない。第二夏期宿舎は、水道、トイレもないため、便所に備え付けられたションポリ(小便を溜めるポリタンク)を当直が第一まで運ぶ作業を行う。
竹原さんは、「野外活動における排泄物の処理は、法律以上に厳格になっています。しかし南極の環境では野外に排泄物を放置しても腐らずに残ってしまいます。南極地域の観測は人間活動の少ない地域であるからこそ研究観測できるのであって南極の自然環境を守るだけでなく継続して研究観測を行うためにも排泄物を持ち帰るというのは大切な作業だ」としている。
昭和基地の処理施設についても、毎年リニューアルされているので今後さらに環境対策が充実されていくだろう。