福岡県久留米市の障害者支援施設などで、利用者の中学生の手足を縛って監禁したなどの疑いでNPO(民間非営利団体)の理事長らが逮捕され、8月10日に起訴された。

障害者の手足縛り監禁…「警察に見つかったら逮捕されると思っていた」

逮捕・監禁の罪で起訴されたのは、NPO法人「さるく」の理事長・坂上慎一被告(57)と、志免町の小学校教師・松原宏被告(37)だ。

逮捕・監禁の罪で起訴された坂上慎一被告
逮捕・監禁の罪で起訴された坂上慎一被告
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起訴状によると、坂上被告らは2021年10月、長崎県内に住んでいた当時14歳の男子中学生の両手足を縛り、頭を殴るなどしたうえで、坂上被告が運営する久留米市の施設に連行しようと車中で不法に監禁したとされている。

坂上被告は逮捕前の任意の調べに対し、「療育のためだった」と話していた。

一方、関係者に対しては、「自分たちのやり方が警察に見つかったら、逮捕されると思っていた」と話していることが、捜査関係者などへの取材で新たに分かった。
警察は、ほかにも同様の事案を10件程度把握していて、引き続き、余罪があるとみて調べている。

起訴されたNPOの理事長は、障害者に対し、虐待とも取れる行為に及んでいた。そしてこの施設では、「強度行動障害」を持つ子どもを受け入れていたという。

スタッフも試行錯誤の連続 「強度行動障害」とは

「強度行動障害」とは、どういうものなのか。同じような障害者が通う施設では、どのような支援を行っているのか。北九州市の障害者支援施設を取材した。

障害者支援施設「架け橋」・河本桂 代表:
クールダウンするお部屋ですね。バッと怒ったり暴れたり、感情的になった時に、ちょっとここで1人になってクールダウンしていいただく部屋です

クールダウンの部屋で、ソファに座り込む1人の利用者。足をドンドンさせている。施設に毎日響いている「足音」だ。
高ぶった感情が収まるまで一日中、この場所にいることもあるという。

高ぶった感情が収まるのを待つ利用者
高ぶった感情が収まるのを待つ利用者

一方、別の男性は、耳を押さえながら落ち着きのない様子を見せていた。かと思うと、突然、施設の外に飛び出して行った。すぐにスタッフが駆け寄る。

利用者が突然、外に飛び出すことも
利用者が突然、外に飛び出すことも

この男性は時折、非常ベルの幻聴が聞こえる症状を抱えているという。男性が施設を飛び出す行為は日常茶飯事で、施設のスタッフは、片時も目が離せない。

1人1人が違う特徴の障害を持っている障害者施設「架け橋」。介護を必要とする障害者の生活を手助けする「生活介護」と、軽作業などの就労訓練にあたる「就労支援」の事業を行っている。
生活介護を必要とする利用者31人のうち、9人が「強度行動障害」と認定されている。

時には風呂場の扉が割れたり、タンスにひびが入ったり…。利用者それぞれに合った支援をすることは簡単ではなく、試行錯誤の連続だ。

「日々が勉強」と語る河本桂 代表(右)
「日々が勉強」と語る河本桂 代表(右)

障害者支援施設「架け橋」・河本桂 代表:
利用者の行動が、どういう方向にいくか分からないという感じ。やってみないと分からないというところは、考えてやるんですけどね。日々勉強です

「言語道断」 起訴された男の行動は 行きすぎた“療育”行為

今回、久留米市の障害者施設で起きた事件。NPO法人「さるく」の理事長・坂上慎一被告が、当時14歳の男子中学生に取ったとされる行動は、「結束バンドで手足を縛る」「『暴れたら殴るぞ』などと脅す」「頭に袋のようなものをかぶせる」「その頭を拳で何度も殴る」の4点だ。

検察は、「療育」と称した行為があまりにも行きすぎていると判断し、理事長らの起訴に踏み切った。

今回の事件について日々、利用者と向き合っている河本さんは、「どんな状況であっても手を出すことは許されることではない」と話す。

障害者支援施設「架け橋」・河本桂 代表:
考えられない。結束バンドで縛って暴行を加えるって、健常者に対しても罪なことであって。障害者にすることは言語道断

河本さんの施設では、頻繁にレクリエーションを開くなど、スタッフは利用者と密にコミュニケーションを取ることを心がけている。

河本さんは、NPO法人「さるく」の支援方針にも疑問を感じている。「さるくの」ウェブサイトでは、「3日で知的障害を抱えた人の問題行動を変える」とうたっていた。

「さるく」のウェブサイトより

質問:
困った行動の改善にはどのくらいの期間が必要?

回答:
3日間です。(略)3日目で私は完全に離れ、今ある道具・場所・人材で維持できるようにします

サイトに掲載された支援方針
サイトに掲載された支援方針

障害者支援施設「架け橋」・河本桂 代表:
体調の良さとかと一緒で、体調悪い人は悪いし、機嫌も悪い。強度行動障害と言えど、いつも悪いわけではない。そこを上手いこと出させないようにするのが、プロの仕事なんですよ

障害者支援施設「架け橋」・河本桂 代表:
1人1人の特性を十分に理解して接すること(が大事)

求められる障害者支援 体制の充実が喫緊の課題に

障害者支援の現場では日々、模索が続いている。

厚生労働省によると、「強度行動障害」は、「他人をたたく、物を壊す、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動を取る、大泣きが何時間も続くなど周りの生活に影響を及ぼす行動が続くなど、特別な支援が必要な状態」と定義されている。

様々な特性を持つ障害者がいる施設では、どのような支援が必要か。現場は日々、模索している。

強度行動障害で、保護者など周りが悩みを抱えるレベルの重度な人は、全国で約1万人いるという。保護者の中には「受け入れ先がない」と訴える人もいて、まずは施設の数を増やすことが、優先課題として行政に求められる。

ちなみに国立の障害者施設では、各都道府県から人を集め、対応が非常に難しいこの強度行動障害に特化した「指導者養成研修」を、年に3度実施。既に数万人がこの研修を受けている。

しかし、それぞれの地域で「指導者が務める施設の数が少ない」さらに「そもそもの働き口がないので指導者になる人が増えない」という点が大きな課題となっている。

障害者支援のあり方に答えを出すことは簡単ではないが、まずは、それぞれの自治体で支援体制を充実させていくこと、これが待ったなしの課題と言えそうだ。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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