様々な病気が原因で「音が聞こえにくい状態」になることを「難聴」という。加齢による「老人性難聴」など様々種類がある中、耳のエキスパート、金沢大学附属病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科の杉本寿史(すぎもと・ひさし)准教授に話を聞いた。

耳のエキスパート杉本寿史准教授
耳のエキスパート杉本寿史准教授
この記事の画像(26枚)

そもそも、なぜ音が聞こえるのか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
そもそも、どうして音が聞こえるのか。耳は「外耳・中耳・内耳」という3つの部分に分かれていて、皆さんが「耳」と呼んでいるのは一番外側の「耳介(じかい)」という部分です

耳の構造
耳の構造

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
そして「音」の元は、「空気の振動」です。まず外耳と中耳で空気の振動をキャッチします。その振動を、内耳で「水の振動」に変換

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
さらに、水の振動を「電気信号」に変え、神経から脳に送ることで、私たちはそれを「音」として感じています

稲垣真一アナウンサー:
空気の振動を電気信号に変えているんですね

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
様々な病気が原因で「音が聞こえにくい状態」になることを「難聴」と言います。様々な種類がありますが、加齢による「老人性難聴」や、ニュースでよく聞く「突発性難聴」、また赤ちゃんの「先天性難聴」などは、空気の振動を電気信号に変える「内耳」、またはその信号を受け取る神経や脳に障害が発生して起こります。中でも特に細かいケアが必要なのが、「先天性難聴」です

稲垣真一アナウンサー:
どうしてなんでしょうか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
難聴のお子さんは、言葉を理解し表現する、コミュニケーション能力の分野で発達が遅れるリスクがあるからです。

解説する杉本准教授(右)
解説する杉本准教授(右)

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
そのため、早い時期に「聞こえ」の障害に気付き、ケアを始めることがとても大切なのです。この障害は見えないため、気づかれにくいという特徴があります。そこで、全ての赤ちゃんが新生児聴覚スクリーニングを受け、できるだけ早い時期に「聞こえ」の状態を検査することがすすめられています

稲垣真一アナウンサー:
具体的には、どんな検査ですか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
生後2日から4日の赤ちゃんに、機械を使って音を聞かせ、その時の脳波の動きを見ます。もし反応がなかった場合には、さらに専門の医療機関で精密検査を行い、難聴かどうかを見極めます。先天性難聴の赤ちゃんの割合は、新生児1000人につき1人と言われていて、その原因の約50%は遺伝によるものと考えられます

稲垣真一アナウンサー:
先天性難聴と診断されたら、どうなるのでしょうか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
まずは、CTスキャンやMRIなどで耳の奇形がないか、聞こえの神経の形態の異常があるかないかなどを調べます

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
次に、聞こえの神経の形態の異常があるかないかなどを調べます。さらに、遺伝子検査で、遺伝性の原因についても調べます。そして、少しでも聴こえを改善させるために補聴器をできるだけ早くつけてもらうように手配します

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
聴力によっては、1歳以降に人工内耳手術を行うこともあります。その後、ことばやコミュニケーションの発達を促すため、療育指導が行われます。お子さんは、発声や発音指導、コミュニケーション指導、言語発達促進指導を受けることになります

稲垣真一アナウンサー:
人工内耳出術とは?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
人工内耳とは、聴覚障害があり、補聴器では聴力の回復が不十分な方に対して使用するものです

稲垣真一アナウンサー:
具体的には、どのようなものですか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
先端に電極が付いていまして、これを耳の奥にある「蝸牛(かぎゅう)」という部分に埋め込み、脳に直接電気刺激を送ります

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
私たちは「空気の振動」を「電気信号」に変え、脳に送って「音」として感じているのだと、先ほどお話ししました。ただ重い難聴の人は、この「内耳」の部分に障害を持つ人が多いのです。そこで、「音」の元となる電気信号を直接脳に送ってしまおうというのが、人工内耳の基本的な考え方です。耳の外側に付けるのが、音を集め、電気信号に変える装置です。そこから頭に埋め込まれた装置に無線で信号を送り、聴神経から脳へ届けます

稲垣真一アナウンサー:
実際に、人工内耳をつけている金沢市内の小堀裕子さん(こぼり・ゆうこ)さんにお話を伺いました。小堀さんは、48歳の時に両耳が重度の難聴になってから、20年間ほとんど音が聞こえない生活を続けていました

人工内耳をつけている小 堀裕子さん:
皆で集まっていても、私1人だけ、いつも聞き取れなくて、ほんとに寂しかった。質問などは書いてもらったりしないと分からなかったんです

インタビューに答える小堀さん
インタビューに答える小堀さん

稲垣真一アナウンサー:
小堀さんは4年前、杉本准教授に勧められ、最後のチャンスと人工内耳の手術を受けます。すると…

診察を受ける小堀さんと杉本准教授
診察を受ける小堀さんと杉本准教授

人工内耳をつけている小堀裕子さん:
会話で、みんなの話が分かるんですよ。だから周りがビックリして…。こんなに明瞭に、はっきり言葉が聞き取れるとはびっくりしました。もう諦めてたので、私は…

稲垣真一アナウンサー:
外側と内側の装置は磁石でくっつき、ズレないようになっていますし、お風呂や寝る時は、外の装置を外しているそうです。

人工内耳の外部分を見せる小堀さん
人工内耳の外部分を見せる小堀さん

稲垣真一アナウンサー:
また、一度、体内に装置を埋め込めば、その後 交換する必要はないそうです。現在は定期的に通院し、聞こえ具合を調整してもらっています

定期的に、聞こえ具合を調整
定期的に、聞こえ具合を調整

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
小堀さんは48歳まで耳が聞こえていたので、言葉の戻りも早かったのですが、生まれつきの難聴である「先天性難聴」の場合は、対処が遅れると「言葉の獲得が遅れてしまう」というリスクがあります。2014年から、人工内耳の手術は1歳から行えるようになりました。新生児スクリーニングで先天性難聴が分かった赤ちゃんには、なるべく早く人工内耳の装着をお勧めしています

稲垣真一アナウンサー:
金沢大学附属病院での手術例は何例ぐらいあるんですか?

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
2019年からの3年間で人工内耳手術は30例。うち3割は乳幼児です。また、人工内耳を両耳に装着する手術も9例行われていて、全体の3割が両側手術となっています。両耳が聞こえることで、音源が左右どちらからのものかが分かるようになりますし、言葉を聞き分ける能力も上がります。今後は人工内耳を幼児期に、両耳に装着することが標準的になっていくことが予想されます。

稲垣真一アナウンサー:
この人工内耳手術で、金沢大学附属病院では世界に先駆けた先進的な取り組みをしているそうですね

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
一つは「好酸球性中耳炎」という、アレルギーが関与した中耳炎の方に対する人工内耳手術です。特殊な術式なのですが、その良好な治療成績を2017年に世界に先駆けて報告しました

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
もう一つは、手術の際、皮膚切開を髪の毛の中に収める方法を開発しました。ご覧のように手術の傷が髪の中に納まって全く見えないため、患者さんに大変好評です。こちらも2020年に世界に先駆けて報告しています

稲垣真一アナウンサー:
杉本さん、県内の難聴のお子さんのサポートを続けていらっしゃるそうですね

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
実は石川県は、2010年に難聴児のサポート体制が全国に先駆けて発足し、先進県と言える取り組みを長年続けてきました。この活動は「みみずくクラブ(赤ちゃん聴こえの相談センター)」という名前で、私を含め3人で活動しています

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
みみずくクラブでは、新生児スクリーニングで難聴がわかったお子さんの御両親に対して、難聴病態について説明し、速やかに補聴器を装用してもらい、療育につなげる役割を果たしてきました。2022年9月からは石川県のサポートにより、私たち金沢大学附属病院内にさらに充実した組織として出発することになっています

金沢大学附属病院 杉本寿史准教授:
今後も、石川県の先天性難聴のお子さんとそのご家族のために貢献していきたいと思っています

(石川テレビ)