私たちが日常的に使用しているスマートフォン。電話をかけ、地図をみて、検索して…。

しかしそんな生活をしていく上で欠かせないスマートフォンが、“太陽”が原因で使えなくなるかもしれない。

100年に1度の大規模”太陽フレア”の被害想定

太陽表面の大規模な爆発現象「太陽フレア」がハイテク化した現代社会に影響を及ぼすと懸念されている。

宇宙天気現象の種類と発生する障害(出典:NICT)
宇宙天気現象の種類と発生する障害(出典:NICT)
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総務省の検討会は、100年1度級の爆発による被害想定を公表、停電の発生、人工衛星や航空機、地上の送電網などにも影響が及ぶとしている。

そうしたことから、総務省の有識者会議は、観測・予測を強化して宇宙の天気をわかりやすく説明できる「宇宙天気予報」を充実させる方向で検討に入った。

太陽活動が活発になるのは2025年頃

この宇宙天気予報について、国立極地研究所の片岡龍峰さんも、総務省とは別に北極や南極で研究を重ねている。

片岡龍峰さん:
太陽活動は活発になる何年かと、不活発になる何年か、というのが繰り返し起こっていて、 次に活発になる数年間は2025年頃だと言われています。

今まさにそこに向かって、太陽活動が活発になってきているということです。

“活発”の意味ですが、太陽フレアと呼ばれている太陽の爆発現象。この規模が、大きくなったり回数が増えたりするというのが、その太陽活動が活発になるということです。

宇宙天気予報が今注目されてきていますけど、その心は”太陽フレア” 、太陽の爆発現象の悪影響が現代社会には色々あるということで、予報ですから、それをあらかじめ対策をするというか、いつ・どれくらいひどい宇宙の嵐が起こるのかということを、宇宙天気予報として出せないかと各国が取り組んでいるわけです。

ハイテクな社会になるほど宇宙の影響に脆弱に

片岡さんは太陽の爆発現象で影響を受けるのは北極や南極だけでなく、我々の身近なところにも影響が出ると続ける。

太陽フレア発生から2日~3日後の影響(出典:NICT)
太陽フレア発生から2日~3日後の影響(出典:NICT)

片岡龍峰さん:
1つ例を挙げますと、太陽で大きな爆発現象が起こると3日ぐらいの時間が経って地球が太陽からの爆風につつまれます。

その後何が起こるかというと、北極や南極の緯度が高いところで、とんでもないオーロラ、空全体が埋め尽くされるようなオーロラが、ひと晩中続くような感じになります。

また、緯度の高くない所でも様々な悪影響がおこります。実際これまでも、太陽の爆発現象の悪影響を受けて困ったことが何度も起こっています。

一番困ったことは大都市の停電です。オーロラは電気と関連する現象ですので、変電所が破壊されて長時間停電が起こってしまいました。現代社会へのインパクトが非常に大きい例ですね。

その他の例ですと、通信とか飛行機の制御もありました。

そうした宇宙の悪影響を予防するというのが宇宙天気予報です。

2021年10月に発生した太陽フレア(出典:NICT)
2021年10月に発生した太陽フレア(出典:NICT)

ーー通信への影響はありますか?
一番悪影響がある通信は、主に短波通信ですね。また人工衛星を使ったGPSにも影響が及ぶと考えられています。この影響は非常に大きく、最大の心配になります。

例えば航空機の着陸制御の衛星通信です。それが正確に使えない場合、危なすぎるので着陸できなくなります。航空機の電子制御が、高度になりすぎると、余計宇宙の影響に敏感になるということはあります。

基本的には社会がハイテクになればなるほど、宇宙の影響に脆弱になるという事です。敏感になっていくとも言えます。

20年前ぐらいの状況から考えると、今、宇宙天気予報というのは必須です。空を飛ぶことにおいても必須ですし、今後は自動車の自動運転とかで交通事故につながるようなリスクも含め、影響を受けるとされる対象がより広がるのだろうと思います。

太陽フレア爆発には大地震のような余震がある

片岡龍峰さん:
太陽が非常に活発になれば、非常に大規模なフレアが2~3時間に1回発生することが予想されます。それが数日続く場合もあります。

一度状況が悪くなってしまうと、すぐには終わりません。しかも大規模な爆発ほど繰り返すんですね。なので1回まずい状況になったらなかなか改善しません。大地震の余震と一緒ですね。 

ーー総務省はスマホに影響が出るとして話題になりました。
5Gで使われている周波数が太陽フレアから発せられる電磁波と同じなので、そうすると5Gの電磁波なのか、太陽から来ている電磁波なのか区別が難しくなります。

スマホ利用にも悪影響がでる可能性があるのかもしれませんが、私には実際の障害がどのようなものになるか、よく分かりません。

『星解』に描かれた1770年9月のオーロラ。松阪市郷土資料室所蔵。三重県松阪市提供(国立極地研究所広報資料より)
『星解』に描かれた1770年9月のオーロラ。松阪市郷土資料室所蔵。三重県松阪市提供(国立極地研究所広報資料より)

ーー歴史から学ぶべきことはありますか?
“太陽フレアの爆発”による最悪の事態は、その最悪の事態がよく分からないということが怖い所で、非常に大規模な太陽爆発っていうのは、100年に1回くらいに起きる極めてまれなことなんです。そのため現代的なデータがまだないわけですね。

ただ調べようがないというわけではありません。その一つが文書記録です。 日本では1000年以上昔の日記や文学の記録が残っています。それは非常に貴重なことで、なんと日本でもオーロラが出ていたという記録がぽつぽつと見つかるんですね。

なので100年に1度の規模で、どれほど最悪な宇宙天気の嵐がくるかなど、少なくとも回数は数えていけますね。 またいったい何が起こるのかとうことも分かってくるわけです。

驚いたことに日本人が記録した一番古い天文記録は、オーロラではないかという記述があります。日本書紀に「天に赤いしるしが現れて、雉(キジ)のしっぽのような形をしていた」といった記述が残っています。

国宝岩崎本「日本書紀」 オーロラではないかという記述も
国宝岩崎本「日本書紀」 オーロラではないかという記述も

調べてみると1400年前から、そういう記録が時折残されていて、江戸時代になってカラフルな絵図までも残されています。つまりオーロラが人間の目に見えるほど、非常に大きな電流が、こういう緯度の低い所にも発生するということを意味しています。

結構危ないですよね。ものすごくレアで頻度は低いんですけど、そういう災害級の心配をしなければならないということが分かるんです。

古い記録を意識して調べていくと、未来の災害に備えることができるということです。

日本でオーロラなんて出ないでしょうというのが常識のなかではありますが、無視できないというのが事実です。

そういうヒントが日本の長い歴史書の記録などから掘り起こせるのではないかと研究することも重要だと考えています。

〈片岡龍峰さん〉
2013年から国立極地研究所准教授。2015年、文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。専門は宇宙空間物理学、オーロラ3Dプロジェクト代表。趣味は、釣りと将棋。

片岡さんは、南極の極冠という極点に近い地点での無人ロボットによるオーロラ観測を世界で初挑戦する予定。最先端技術による調査とともに古文書から紐解く過去の研究にも力を入れていて、過去・現在・未来という時空の流れを意識しながらオーロラ研究を進めている。

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局国際取材部デスク
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長などを経て現職。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。