人生で一度でもいいからオーロラを見てみたいという人は多いのではないだろうか?

オーロラの連続画像を撮影する片岡龍峰さん。2013年から国立極地研究所准教授を務め、専門は宇宙空間物理学。オーロラの専門家だ。
今回は、その片岡さんにまだ謎の多いオーロラについて話を聞く。

専門家が”決定版”と言ったオーロラ映像

ーーオーロラの”プロ”の片岡さんが大興奮するほどのオーロラの撮影に成功したということですが…

片岡龍峰さん:
2011年3月にアラスカで撮影したオーロラです。気温は-25度くらいでした。
最初は、南の空にオーロラのカーテンかどうかわからないぐらいの薄いオーロラがありました。

それが、筋と筋の形になったあと、急に南の空だけではなくて、もう右を見ても左を見ても真上をみても、空の全部が筋と筋のオーロラで、覆い尽くされていました。

色んなカーテンが出てきて、 すごく明るいんです。どこを写真で撮っていいか分からない。もう興奮しました。

空がオーロラで覆い尽くされていく…
空がオーロラで覆い尽くされていく…
この記事の画像(8枚)

30分、1時間と経つと、だんだん静かになってきます。 そこで、もう終わったかなと思いましたが、少し待っていると今度は空全体が煙のように緑色に光ってきて、明るくなっているところと暗い所とが入り乱れて、光が点いたり消えたりっていう不思議なオーロラに空がおおわれました。しかもそれが何時間も続いたのです。

でもその光は、注意深く空を見上げてなければ分からないぐらいの薄い光で…。
かなり驚いた、ものすごく不思議なオーロラでした。 一般的にもみられる「脈動オーロラ」とか「ディフューズオーロラ」というものですが、その一連が凄く”決定版”ともいえる映像だと思います。

【動画】オーロラ専門家片岡さんが絶賛したオーロラ動画はこちら!

「オーロラ」には太陽が必須?

ーーそもそもオーロラとは?
片岡龍峰さん:

今、私たち人間も結構テクノロジーが進んできて、宇宙空間にまで行動の範囲を広げてきています。その宇宙空間が地上からでも人間の目で見られるようになる現象が「オーロラ」なんですね。

どうやってその宇宙空間が光るのかというと、地球の”空気のかけら”みたいな酸素が宇宙空間にも散らばっていて、それが光り輝くのが「オーロラ」です。

そして、オーロラを光り輝かせるためには”エネルギー”が必要なわけですが、実は、宇宙空間では電気が大量発生していて、その電気が地球の磁石の力にガイドされながら、北極とか南極の方に集中してくるんです。そのため、アラスカの上空や南極でよく見られるというわけです。

〈図解〉オーロラ電子加速と電流シート「オーロラ!片岡龍峰」より
〈図解〉オーロラ電子加速と電流シート「オーロラ!片岡龍峰」より

ーーそのエネルギーの発電は、どこでどうやって起きているのでしょうか?
一番の大元は「太陽」で、太陽から吹いてくる「プラズマの風」、それから、その「地球の磁石の性質」、この二つが組み合わさると世界中の人間の作った発電所を集めても足りないぐらいの大きな電力が発生します。

自然にそういうとんでもない電気が宇宙空間ではできていて、それが北極とか南極の上空にまで伝わってきて、それがエネルギーとなり、空気のかけらの酸素にぶつかってオーロラが光っているということなんです。

オーロラの原理はネオンサインと同じ? 

ネオンが灯る街並み(写真はイメージ)
ネオンが灯る街並み(写真はイメージ)

片岡龍峰さん:
昔は、カラフルな看板とかありましたけど、その色の作り方は中に詰めるガスの種類を変えて、様々な違う色を出しています。 オーロラもいろんな色がありますよね。オーロラも窒素が光れば、ピンク色になりますし、酸素が光れば、緑や赤になります。

あと非常に大きな電気を、ほぼ真空に近いようなガスに与えることで光を出すことができるところも似ていますね。

今、そういうネオンサインって見かけなくなってると思うんですが 、子供たちに説明するときに、昔おじさんたちの時代にはいっぱいあったんだよと言うことで、オーロラをネオンサインに例えて説明しています。

まだ謎の多いオーロラ…研究最前線 

片岡龍峰さん:
今、オーロラの研究で残されたフロンティアだと私が考えているのが、オーロラバンドの輪の中、緯度がものすごく高いところに出現するオーロラの研究です。

オーロラは、緯度が高ければ出やすいというわけではなくて、昭和基地だとか、アラスカみたいに緯度が60°に近いようなところでよく出てくるんですね。

それは、宇宙空間から見れば、輪のようになっていて、その輪の中は、どうなっているのかということは、調べるのが難しいので分かっていません。

国立極地研究所HPより
国立極地研究所HPより

輪の中を調べようと思っても、北極の場合には北極の氷とか、地面がない場所が多いから難しい。一方で、南極は地面があるんですけど、自然環境が過酷で、ー80度の場所でオーロラを観測し続けるのは非常に難しい。

でも、そういう普段はオーロラが出てこないと思われているところでも、実はオーロラが発生している、ということが最先端のスーパーコンピューターを使ったシミュレーションで分かってきています。

明るさは暗いんですが、非常に複雑なオーロラがたくさん現れる場所だということが分かってきているんです。

新しいテーマとして、そのオーロラの輪の中がどのようになっているのか、どういうオーロラが出て、何が起こっているのか、ということがヒントの少ない謎になっていまして、これからそれを調べていこうと思っています。 

コロナ状オーロラ(提供:国立極地研究所)
コロナ状オーロラ(提供:国立極地研究所)

最先端技術で世界初の観測へ

片岡さんは、フジテレビ取材班も同行する2022~2023に南極へ行く第64次南極地域観測隊に関わっている。

ーー南極ではどんなことをする予定ですか?
片岡龍峰さん:
南極で、オーロラバンドの輪の中心に近いところでのオーロラを観測ができるロボットを開発し、自動カメラでの撮影を試みます。気温はー80度、しかも電気のないところで撮影をし続けるロボットを作ります。

これまでは無理だと思われていましたがノウハウの蓄積だったり、新しい技術だったりあるので、チャレンジすることにしました。
世界初の挑戦です。

一つがそういう過酷な自然環境にも耐えられるロボットの開発、もう一つは国際協力ですよね。南極大陸には世界各国の基地が点在しています。

そこに世界初のカメラを置かせてもらって、国際的に協力しながら、できるだけ多くの国の研究者と一緒に同じような観測をしていくということを進めていきたいと思っています。
これも実現すれば世界初の試みとなります。

片岡龍峰さん
片岡龍峰さん

〈片岡龍峰さん〉
2013年から国立極地研究所准教授。2015年、文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。専門は宇宙空間物理学、オーロラ3Dプロジェクト代表。趣味は、釣りと将棋。片岡さんは子供向けに オーロラの絵本も制作している。

片岡さんが創作したオーロラの絵本(Jam House さく・片岡龍峰 川添むつ)
片岡さんが創作したオーロラの絵本(Jam House さく・片岡龍峰 川添むつ)
大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局国際取材部デスク
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長などを経て現職。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。