九州北部豪雨から5年。防災や復興が進む一方で、農地や故郷の再建を諦めた人もいる。被災地のいまを取材した。

今なお残る“九州北部豪雨の爪跡”

2017年7月5日、九州北部を襲った梅雨末期の集中豪雨。線状降水帯の発生で猛烈な雨が夜遅くまで降り続き、朝倉市では時間雨量129.5mm、最大の24時間雨量545.5mmを記録した。

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福岡県内では朝倉市や東峰村を中心に土砂災害が相次いで、死者・行方不明者は39人。濁流や大量の流木による建物や農地への被害も甚大だった。

未曾有の災害から5年。災害カ所の復旧や市街地の復興が進んだ朝倉市だが、豪雨の爪跡はいまなお残っている。
被災直後からボランティア活動を続けるNPO「日本九援隊」はこの日、農業用の水路に残った土砂の撤去にあたっていた。

日本九援隊・肥後孝理事:
どうしても農業用水路は自治体がやってくれないので、なかなか水路まで手がまわらないのが現状です

水路が詰まった状態で大雨に見舞われると、雨水を排水できず、あたりの農地が水に浸かるおそれがあるのだ。
近くのハウスでブルーベリーを栽培する古賀常文さん(72)も、2017年の豪雨で浸水被害を受けた。2017年を振り返る。

ブルーベリー生産者・古賀常文さん:
ここに、これくらいの泥が30cmくらい。これがすり切りです

午前中に収穫を終えて自宅に戻っていたため、古賀さん自身は無事だったが、ハウスは胸の高さまで水に浸かり、数日後に訪れると変わり果てた姿になっていた。

ブルーベリー生産者・古賀常文さん:
当時は、本当にもう全滅だなと思いました。また農園を復活するとなると、生活が苦しくても、もうできないなと思っていました

道路や市街地の復旧がまずは優先され、古賀さんのハウスに支援の手が届いたのは半年後のこと。被害を知った久留米市の南筑高校の野球部が、約50人がかりでハウスの泥を取り除いてくれた。

ブルーベリー生産者・古賀常文さん:
頼もしい限りでしたよ。それと若者の明るさ、これに助けられました

幸いにも豪雨の前に収穫を終えていたことや、栽培用の鉢が泥に埋まらなかったことから、翌年ブルーベリー作りを再開できた古賀さんだが、諦めざるを得なかった作物もある。
山あいの農園で作っていた朝倉特産のカキ。1,000本以上植えていた木は、土地ごと流されてしまった。

ブルーベリー生産者・古賀常文さん:
年齢が年齢なので、木を植えても間に合わない…

再建を諦めた農園は、豪雨で市街地に流れ込んだ土砂約17万立方メートル(10トンダンプ3万台分)の廃棄場所になっている。朝倉市の依頼を受けて、地域の復興に少しでも役立とうと土地の提供を決めたのだ。

ブルーベリー生産者・古賀常文さん:
見かけ上は片付いたように思うけど、実はまだまだあるんです。みんなで力を合わせたら、どうにかなる

橋や道路も…豪雨で流された“故郷”

互いに手を携えて復興へと進む被災地、朝倉。
一方で、復興すべき故郷そのものを失った人もいる。朝倉市内でも特に被害が大きかった杷木松末の小河内地区で、区長を務めていた中村亨さん(59)。2021年の7月に2kmほど離れたところに自宅を再建した。

小河内地区 最後の区長・中村亨さん:
砂防ダムが3基できて、帰るにも帰る土地がないから、みなさん諦めて全員(街に)降りてきた

小河内地区をはじめ杷木松末の4つの地区は、豪雨の翌年「長期避難世帯」に認定され、住むことができなくなった。その後、防災工事が進み、長期避難は2021年12月までに全て解除されたが、ほとんどの世帯が故郷には戻っていない。

かつての集落は、いまどうなっているのか。

小河内地区 最後の区長・中村亨さん:
私の家はこの家の右隣、右下にあったんですよね

写真に写っていた橋や道路は跡形も無く、中村さんの自宅だけでなく畳店や奥の家屋もなくなっている。

別の角度から見ても残っているのは橋だけで、自宅裏の農園も流されているのがわかる。

「長期避難」は解除されたが、いまも工事が続く砂防ダムの用地として土地が買い上げられ、戻る場所はない。

小河内地区 最後の区長・中村亨さん:
戻れる場所があれば、何軒か戻ってきたかも知れないけど、それができないのでみなさん諦めて。やっぱり寂しいものがありますけど、仕方がないことかなと思って、そのまま名前だけ残っても、あとの世代に迷惑をかけてはいけないし、ここでキリをつけようということで考えて解散にいたったわけです

住民たちが話し合いの結果、導いた結論は、2022年3月をもっての「集落の解散」。生まれ育った故郷の風景はあの日を境に一変し、人と人との繋がりも日に日にうすれてきている。

小河内地区 最後の区長・中村亨さん:
昔は年に何回かお祭りとか総会とかあって、顔を合わせてたんですけど、いまはそれがなくなりましたからね。新しい生活がみなさん始まってますからね、そこの地域で

2017年の豪雨で流され、その後の防災事業でも収容された土地。災害からの復興が進む朝倉市だが、失われた故郷はもう戻ることはない。

(テレビ西日本)

記事 569 テレビ西日本

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