「窒素・リン酸・カリ」は肥料の三要素と言われ、それぞれ野菜の成長・開花や実り・根の発育を促進する。日本はこれらの肥料の原料をほとんど全て輸入に頼っており、世界情勢が不安定な今、大きな危機に直面している。

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ウクライナ情勢により予想される価格高騰

ルンビニ農園・今田典彦社長:
昨年の秋ごろ、中国起点でリン酸の値上げが結構ありました。我が社では10%前後、肥料費の値上げになっている。

リン肥料の原料となる「リン酸アンモニウム」は9割が中国から輸入されていて、コロナ禍での中国の輸入制限が価格高騰の主な要因となっていたという。そして、今回はウクライナ情勢による価格の高騰が予想されている。

特に値上げが予想されるのは「窒素」と「カリ」。窒素の主原料となる「尿素」は国産が4%、マレーシアと中国で約85%を占めている。

カリ肥料の原材料となる「塩化カリウム」においては、その全てを輸入に頼っており、全体の約60%をカナダから輸入。そのほか、ロシアとベラルーシで約25%を占めている。

ウクライナに侵攻するロシアとそれを間接的に支援するベラルーシ。現在、日本にはこの2つの国からの原材料は入ってきていない状況だが、カリと窒素は野菜にとって非常に重要な栄養素で、これをなしに野菜作りはできない。

農業関係者の話によると、カリ肥料の原料である塩化カリウムは、前年対比で約80%増額しているが肥料によって配合割合が違うため、全ての肥料が同程度値上がりするわけではなく、輸送コストの増加や円安基調も影響しているという。しかし、仕入れ価格はすでに値上がりしており、間もなくこれまでにない肥料の価格改定が予想される。

肥料の価格は高騰するも、野菜は値上げなし…?

肥料の価格が高騰し、野菜を生産するためのコストは高くなる。となると野菜の値上がりが心配だ。しかし、野菜の値段は「市場の原理」によって決められているため、おそらく値上がりしないと考えられる。

例えば、野菜を市場に出荷した際、需要に比べて供給量が多ければ野菜が余ってしまうため、その分値段は下がる。しかし、野菜の需要が供給量より多ければ「品不足」が起こり、野菜の値段は上がってしまう。つまり、市場では需要と供給のバランスで価格が決まるような原理になっているのだ。

そのため、野菜を作るのにどれだけの費用が掛かったかは、野菜の取引価格には反映されない。消費者にとっては嬉しい話かもしれないが、「コストを価格に転嫁できない」ということは、生産者を苦しめることになる。

農業に必要な資材も値上げか「経営成り立たない」

ルンビニ農園・今田典彦社長:
肥料の他にも、資材やビニール、袋、箱、ビニールハウスの具材が10%から15%値上がりするのではないかと聞いている。

大幅な生産コストの増加が予想される中、その費用を商品の価格にそのまま転嫁できない第1次産業の現実。経営は次第に追い詰められている。

ルンビニ農園・今田典彦社長:
袋代、箱代、運賃、肥料代含めて、1束2円から3円経費が増すと、経営が成り立たなくなってしまう

コロナ禍による輸入の先行き不透明感や、ウクライナ情勢を受けた食料の国内自給率に注目が集まっている。農業の将来はどうなるのだろうか。

ルンビニ農園・今田典彦社長:
経営は年々厳しくなってきている。過去5年間を見ても、野菜の卸し売り価格は下がっているが、資材費は上がっています。どんどん生産性を上げない限り、今後も農業を続けていく事はかなり厳しい。

様々な要因が絡み合う中で、農業が職業として成り立たなくなる可能性すらある今、国も消費者も全員が農業を”自分事”として考えてみることが必要ではないだろうか。

(テレビ新広島)

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