人生100年時代と言われても「60歳から100歳まで、どのように生きますか?」と聞かれたら、どれほどの人が具体的に答えられるでしょうか。

「東京かあさん」というユニークな名称で「ご近所に第2のお母さんを持てる」サービスを提供する、株式会社ぴんぴんころり代表の小日向えりさん。シニアに長く続けられる仕事の機会を提供しながら、子育て世代との懸け橋となっています。

テレビでも活躍するタレントから転身し起業家となった小日向さんにお話を伺いました。

生涯現役を応援したい

―― 「株式会社ぴんぴんころり」とは、どんな会社ですか?

「ぴんぴんころり」という社名に驚かれる事も多いのですが(笑)、人生の幕引き直前まで元気でピンピンとして、寝たきりの期間を減らそう、というポジティブな意味が込められています。生涯現役を応援したい、高齢者の就業支援をしたいという思いで創業しました。

―― 何かのきっかけがあり、起業されたのですか?

もともと15歳から芸能の仕事を始め、歴史好きが高じ、歴史アイドルとして活動していました。起業のきっかけとなったのは祖母の怪我です。80代になって仕事が無くなると、次第に覇気が無くなってきて、大丈夫かなと思っている矢先に怪我で入院。その時に、ずっと長く続けられる仕事があった方が良いのではないか?と思うようになりました。

小日向えりさん(株式会社ぴんぴんころり 代表取締役)
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歴史アイドルの方も順調で、当時は真田丸のお仕事などで忙しくしていたのですが、シニアの就業支援に関する事業を立ち上げたい、その気持ちが次第に膨らんで抑えられなくなり、起業したという経緯です。

――「ご近所に第2のお母さんを持てる」というコンセプトを思いついたのは?

シニアの方が長く続けられるお仕事って何だろうと考えて、家事代行やベビーシッターの業界に注目しました。最初は「おせっかいな家事代行」というコンセプトでスタートしたのですが、実証実験で利用者の感想を聞くと、これは家事代行にとどまらず「家族が増えるという体験」を提供するサービスだと気づき、「第2のお母さんを持てる」と打ち出すようになりました。

―― 代表的な利用シーンを教えてください。

30代~40代で共働きの子育て世代にとても好評で、利用者の8割近くになります。東京かあさんはサービスの幅の広さが特徴です。通常、ベビーシッターの方に家事はお願いできません。また、家事代行も作業内容が事前に細かく決められていて、その場で思いついた事があっても、頼むことが出来ないんです。

東京かあさんの場合は、お母さんが出来ることなら何でも依頼可能で、料理やお掃除を教えてもらう、そういった交流にも人気があります。

「東京かあさん」Webサイト

―― とても自由度が高いサービスですね。サービスの運営チームは普段どのような仕事をしているのですか?

めちゃくちゃ泥臭いことをしています。我々はお客様の事を「お子さん」と呼んでいるのですが、お子さんとお母さんのマッチングは自動ではありません。お子さんのお困りごとをヒアリングして、適切なお母さんを紹介し、最初の面会には社員も同行します。お子さんとお母さんの双方に深く入り込んで信頼関係を築くのがポイントになります。

―― ここまでサービスを運営されてきた中で、嬉しかった瞬間はどんな時でしたか?

母の日の企画でお母さんへのメッセージを沢山いただきました。例えば「手作りで作ってもらったお手玉で、子供がいつも遊んでいます。〇〇ママがいない時でも、いつも優しさを感じてます」といった形で、物理的なサポートだけでなく心のサポートも出来ているのだなと思うと、本当に幸せだなと感じます。

「スタートアップを取り巻く環境」の活用法

起業家はこれまで世の中になかった新たなサービスをゼロから創造する。昨今ではスタートアップを取り巻く環境も変化し、東京都や区の制度、起業家と投資家のマッチングイベント、ベンチャーキャピタルによる出資など、事業を立ち上げ成長させる為、様々な支援を使いこなす事も、起業家の仕事の一つとも言える。小日向さん自身の経験談を掘り下げて聞いた。

―― 続いて、スタートアップを取り巻く環境についてお伺いします。イベントでのプレゼン経験などはありますか?

はい、昨年11月にIVS(Infinity Ventures Summit)という起業家と投資家が集まる招待制のイベントでプレゼンをしました。2年くらい前に当時はまだ結婚前だった夫に教えてもらい、出てみることに。本番のステージに上がるまでに3回程の選考過程があって、起業家版のオーディションみたいですね。

(IVS2021 LAUNCHPAD 動画)

―― VC(ベンチャーキャピタル)からの出資も受けましたか?

はい。VCから資金調達したのは初めての経験でした。

―― ファイナンス(会計)の知識は、どのように習得されたのでしょう?

それはもう、周りの先輩起業家や相談できる方に、聞きまくるしかないです。スタートアップ業界って何かとカタカナ用語が多いじゃないですか。つらい事をハードシングスって言ったり。つらい事じゃだめなんだろうかと(笑)

分からない言葉が多いので、メモして調べて。プレゼン資料は起業家の友人5人くらいに見せてもらいました。そして共通点を洗い出して、この要素は絶対に外せないのだな、と学んでいきました。かなり分析する方です。

―― 交流イベントに参加する時のコツはありますか?

事前に参加者リストを確認して、出会いたい方、繋がりたい方をシミュレーションしています。また、いきなり自分を売り込むよりも、信頼ある方からの他己紹介が効果的だったりしますよね。ですので、お話したい方がいる場合、知人がその人と話している時に、声をかけたりします。テクニックという訳ではないですが、そのような人の心理は考えて行動しているかもしれないですね。

―― 大変参考になります。スタートアップ界隈についてお話を伺いましたが、その中で小日向さんはどんな起業家を目指していますか?

最近、レオスキャピタルの藤野さん(レオス・キャピタルワークス代表取締役 藤野英人氏)とお話した時に「小日向さんはダークホースタイプだね」と言われハッとしました。好きな事だけに熱中して生きる。ベストセラーになった「ダークホース」というビジネス書がそのような生き方を紹介していまして。

起業家の中にも様々なタイプがあって、私は正統派エリートでは無く、超トラディショナルな芸能界という世界から出てきて、行動は行き当たりばったりに見えるのだけれど、それが行き当たりバッチリになっていく。そんなダークホースタイプの起業家なのかなあと思いました。

―― 最近、文部科学省が「起業家精神」の教育を推進するというニュースも話題になりました

起業家精神の育成ですか、良いですね。私の家は商売人家系で、親族の中には、ほっかほっか亭を関西で初出店してチェーン化したり、スーパー銭湯「極楽湯」を上場させるなどの経験があり、私は間近で見ていたので、ああこんな世界があるんだと肌で感じて育ちました。まずは知るという事が、起業家の第一歩になるのだと思います。

政治家になるよりも起業した方が世の中を変えられる

最後に事業と社会との関わりについて、小日向さんのビジョンを聞いた。

―― 株式会社ぴんぴんころりは、社会の中でどんな課題を解決していくのでしょう?

日本の課題の多くは、少子高齢化が原因となっていますよね。「東京かあさん」によって、子育て世代のサポートをし、同時にシニアの生きがいを創出する事で、この課題に立ち向かっていけたらと考えています。

このような話をすると「政治家になっては?」と言われる事もありますが、私は政治家になったり、NPO組織を立ち上げるよりも、起業した方が世の中を変えられるのではと思いました。民間企業の方が社会に大きなインパクトを与えられるのではと。なので起業を選択したという側面もあります。

今後の展望としては、やっぱり、何十万人、何百万人のシニアの方を元気にしていきたいですし、女性だけでなく男性の就業支援にも拡げていきたい。行政のシルバー人材センターがありますが、民間ならではのアプローチで、民間版のシルバー人材センターになれたらいいなって。

そして働いて収入を得たら、次は仲間と旅行したり、趣味を楽しんだり、新しいことを学んだりと、シニアがずっといきいきと元気でいられる為の事業を手がけていきたいです。

渋谷のラジオ「渋谷社会部×FNNプライムオンライン」2022年5月31日放送より)

記事 31 寺 記夫

ライフワークは既存メディアとネットのかけ算。
ITベンチャーを経てフジテレビ入社。各種ネット系サービスの立ち上げや番組連動企画を担当。フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、Fuji&gumi Games兼務などを経て、2016年4月よりデジタルニュース事業を担当。FNNプライムオンライン プロダクトマネジャー。岐阜県出身。