日本在住の外国人は増加傾向にあるが、生活する際に障壁となるのが、言葉の壁だ。特に専門用語が飛び交う病院での診察は理解が難しい。
そこで、用語をわかりやすく伝える「医療通訳」に注目が集まっているが、利用率は約2%。十分に普及しているとはいえないのが現状だ。

患者と医師を橋渡し…利用者「なくてはならない存在」

福井市に住む中国出身の薛秋芳(セツ・シュウホウ)さん。4年前、結婚を機に福井で生活することになった。この日は、子どもの10カ月健診のため、病院を訪れた。

小児科医が「大きくなりましたね、10.36kg」と声をかけると、「よく食べています。(食事を)あげないと泣きます」と冗談で返した。ただ、医師に返答したのは薛さんではなく、隣に座っていた通訳の渡辺寧佳さんだ。

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渡辺さんは中国出身で、外国人患者と医師との橋渡し役である「医療通訳」を担う。

薛さんは妊娠がわかって以来、健診時には必ず渡辺さんと病院で待ち合わせをし、一緒に診察を受けている。

4年前から福井市に住む薛秋芳さん(中国出身):
医療通訳は生活になくてはならない存在。妊娠中に何度も入院し、その時に医療通訳がいなかったら、赤ちゃんが無事生まれるかも心配だった。母国語で医師に気持ちを伝えられるので、医療通訳に依存してしまうくらいの存在になっている

新型コロナウイルスの影響で、公民館などで開かれる母親同士の交流会は激減した。薛さんは日本語を学ぶ機会が減り、今も言葉の壁を克服できずにいる。

自身も不安を経験し支援団体を設立…医療通訳を派遣 6カ国語に対応

県内在住の外国人は1万5,000人余り。県民全体の2%で、決して少なくない。

渡辺さんは、2021年6月に支援団体「メディサポふくい」を立ち上げた。中国語やポルトガル語など6カ国語に対応し、10人の医療通訳者が所属している。

代表の渡辺さんは、語学留学のため中国から来日し結婚。自身も出産時に、医師からの説明を十分に理解できなかった。

メディサポふくい・渡辺寧佳 代表(中国出身):
上の子が逆子で帝王切開した。当時、帝王切開に関しておなかを切るくらいの知識しかなく、甘くみていた。術後、縫合した傷口が裂け、処置が増えた。ただ結局、何をされたかわからなかった

国の報告書によると、56%の外国人が病院で言葉の問題を抱えている。

メディサポふくい・渡辺寧佳 代表(中国出身):
日本語の特徴で「○○しましょうか?」と患者に言うと、「なぜわたしが決めないといけないの?」と感じる外国人もいる。その場合、医療関係者に「しましょうか?」ではなく「しましょう」という命令調の言葉を使ってほしいと伝えている

福井赤十字病院 小児科・田中佳代 医師:
お母さん方は健診で不安なことも多いと思う。言語の壁があると全ては寄り添えないし、言ったことが全て通じているのかわからないところも多い。医療通訳が付くと、お母さんの表情もよくなる。ささいなことでも聞くことができるので、とても助かっている

ボランティアではなく“職業”として さらなる普及目指す

メディサポふくいでは、病院から依頼を受けて医療通訳を派遣している。ただ、依頼は月10件ほどにとどまる。

通訳の費用は全額病院負担となり、特に小規模病院では利用が進んでいない。国の報告書では、医療通訳を利用した外国人は2.3%となっている。

4年前から福井市に住む薛秋芳さん(中国出身):
歯医者に行ったときに困ったことがあったので、小さな病院でも医療通訳が広まればいい

メディサポふくい・渡辺寧佳 代表(中国出身):
今まで医療通訳はボランティアとして受け取られていた。適正な報酬を得られる職業として、医療通訳の社会的な地位を築くことを目指す

費用の半額を補助する自治体もあるが、多くはない。外国人が訪れやすく暮らしやすい日本にするため、個人や病院だけでなく、行政での検討も始まっている。

(福井テレビ)

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