沖縄にルーツを持つ、女優の谷ノ上朋美さん。浦添市に住む祖母は、77年前の戦争で家族全員を亡くし1人だけ生き残った。祖母の話を聞き、命の大切さと平和の尊さを伝えようと、沖縄戦をテーマにしたひとり芝居に挑んでいる。

家族の行方はいまだ分からず「戦争は一番怖い」

沖縄戦で犠牲となった20万人余りの名前が刻まれた平和の礎。

この記事の画像(15枚)

女優 谷ノ上朋美さん:
私が生きているのは、これだけたくさんの人が亡くなった中でたった一人、おばあちゃんが生き残ったから。そのことに感謝し、お芝居をさせていただきますということをご挨拶させてもらっています。

大阪出身で沖縄生まれの母を持つ女優・谷ノ上朋美さん。これまで人権問題をテーマにした舞台に取り組んできたが、2022年は自分のルーツである「沖縄」に向き合うことにした。戦争当時16歳だった、92歳の祖母に改めて話を聞く。

女優 谷ノ上朋美さん:
いつもお喋りしてくれるでしょ、戦争のときの話。どんなだったかねって。

祖母・又吉純子さん:
戦争は怖いからね。親も兄弟、姉妹もどこに行ったか分からん。どこで亡くなったか分からないですよ。

祖母・又吉純子さん:
最初はお墓に隠れていた。おばあちゃんと2人で島尻に家を探しに行ったから。私の親やきょうだいは、人と一緒に逃げていなかった。だから別々になっていたよ。

女優 谷ノ上朋美さん:
帰ってきたらいなくなっていたんだ。

祖母・又吉純子さん:
どこで亡くなったかわからん。

苛烈を極めた地上戦で、県民の4人に1人が亡くなった沖縄戦。純子さんたち一家は両親と7人の兄弟姉妹が犠牲になり、生き残ったのは純子さんだけだった。

祖母・又吉純子さん:
戦争はもう一番怖いね。戦争があったらもう大変よ。あたっていない(戦争を経験していない)人はね、何も分からんさ。

戦争による心の傷は深く、孫の朋美さんにも多くを語ることはなかった。

”想像できない過去”を舞台で伝えていく

女優 谷ノ上朋美さん:
私たちはもう、理解することって絶対できないと思うんです。とても想像ができないようなことが起こった過去があるということ。そこは伝えることができるんじゃないかなと思って。だから舞台でそういうことを伝えていくことが、私ができる一番のことなのかな。

祖母の両親や兄弟姉妹の名前は、平和の礎に刻まれている。

女優 谷ノ上朋美さん:
おばぁのお父さん、お母さん…

女優 谷ノ上朋美さん:
聞くだけとか、教科書で見るだけでは分からないことはあるんだな。

戦後77年。大阪出身の谷ノ上さんが2022年の今、沖縄戦に向き合う理由とは…。

女優 谷ノ上朋美さん:
私は半分は沖縄で、もう半分は大阪なんですね。体験者の人たちもどんどん亡くなっていく中で、半分半分の私だから何かできること、伝えられることがあるから呼ばれたんじゃないかな。

ガイド 下地幸夫さん:
これは読谷村のこの場所に、アメリカ軍が上陸したというモニュメントです。この海岸線にアメリカ軍が上陸しました。

谷ノ上さんは沖縄戦をテーマにする上で、まずは知ることが必要だと県内の戦跡を巡るツアーに何度も参加してきた。

足を運んだのは80人あまりの住民が自決した、読谷村のチビチリガマ。

ガイド 下地幸夫さん:
日本軍は沖縄の住民たちに、もし追い詰められてどうしようもなくなったら、自害しなさい、自分たちで死になさい。自分たちで自分たちの命を取りなさいと、そういうふうに教えます。

女優 谷ノ上朋美さん:
やっぱりこの場所に来ると、自分が想像していた以上のものを感じる。そこまでしなければならない心境であったその時代を知っていくことで、どうするべきかということを自分自身もこれから学んでいくのかなと思います。

祖母の体験を伝え語る 平和への願い

谷ノ上さん自身の経験を基に作り上げたひとり芝居「ゆんたくしましょうね」は、祖母から沖縄戦の話を聞いた主人公が、さらに詳しく知ろうと学んでいく中で戦争の記憶を追体験するストーリーだ。

女優 谷ノ上朋美さん(劇中のせりふ):
かすかに続いていた呼吸の音を確かにさっきまで聞いてたのに、もうあかん。人の命、目の前にして、思ってもできへんこといっぱい。

女優 谷ノ上朋美さん(劇中のせりふ):
あんなおばあちゃん。私な、おばあちゃんが生き抜いてきたことをお芝居にしたいって思ったんや。ちゃうな。せなあかんって思って。知って考えて、それをお芝居にして。私それしかできへんから。言葉にして誰かに伝えて、おばぁが怖かった気持ちも、つらかった思いも全部伝えて、語って忘れんように。

祖母の記憶をつなぐため…。谷ノ上さんは命の大切さや平和の尊さを、ひとり芝居を通して伝えていく。

(沖縄テレビ)

沖縄テレビ
沖縄テレビ

沖縄の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。