太平洋戦争の末期、学童疎開船・対馬丸がアメリカ軍の攻撃を受けて沈み、多くの子どもたちの尊い命が失われました。
終戦から80年を迎えた今年、対馬丸事件を通して「戦争の悲惨さ」と「生きていることの素晴らしさ」を演出家の宮本亞門さんが舞台を通して発信します。山城記者のリポートです

宮本亞門さん:
対馬丸の事件こそ、沖縄だけではなく日本全国、世界に伝えるべきことだと決意をして、子どもたちが生きる力、エネルギー、そして夢を持つことの素晴らしさ、そういうことを舞台で表現したい

演出家の宮本亞門さんが初めて沖縄で手掛ける舞台「生きているから~対馬丸ものがたり~」。

太平洋戦争末期の1944年、大勢の子どもたちを乗せて九州へと向かっていた疎開船・対馬丸がアメリカ軍の魚雷攻撃を受け沈没。

名前が分かっているだけでも700人あまりの学童を含む1484人の命が失われた悲劇と戦争の悲惨さを描く作品です。

宮本さんが「必ず舞台をつくる」と決意した大きなきっかけ、それは、3年前に対馬丸事件の生存者平良啓子さん(享年88)の壮絶な体験を聞いたことでした。

平良啓子さん:
私の目の前に広がっている写真(遺影)が私を圧迫しているんです

平良啓子さん:
私は(遺影を)見ると、涙が出てくるんですよ。「あなたは生きているんでしょ?何しているの?平和のことで頑張っているの?」って呼びかけられている思いがして

2022年11月。那覇市の対馬丸記念館で開かれた平良啓子さんの講話。

1944年、当時、国民学校4年生だった啓子さんは疎開をするために家族とともに対馬丸に乗り込み、祖母、兄、いとこを亡くしました。

平良啓子さん:
「バーン」と爆発の音を聞いて、「おばあちゃん、お姉ちゃん、どこにいるの?」と言っても、家族が一人もいないんですよ。もう怖いです。どんどん燃えてくるし、船は傾くし

死の海に投げ出され、その後、6日間にわたり漂流した壮絶な体験。

長い歳月が流れても消えることのないつらい記憶を、戦争を知らない世代に懸命に語っていました。

この日、会場には宮本亞門さんの姿がありました。

宮本亞門さん:
ここ(対馬丸記念館)で、平良啓子さんの話を聞いて、体が震えてしまいまして、これは何とかしてもっと伝えなければという思いがあって

おととし、88歳で旅立つその直前まで自身の体験を語り平和を訴え続けた啓子さん。

亡くなるわずか40日前、凛とした表情で話す啓子さんを収めた映像が沖縄テレビに残されています。

これからを生きる人たちに思いを託すその姿を宮本さんに見てもらいました。

平良啓子さん:
生きている間はね、喋れる間、ボケない間は何としても言い伝えておきたいという気はありますよ。今後というのはわずかしかないけれども、その間に元気でいたら、正常でいたら、伝えおきたい

平良啓子さん:
生命が大事だからですよ。命があっての人生でしょ。命を大事にできないものはだめ。まず命が優先。だから、生きるために、幸せに生きるためには元気で健康で病気をしないで頑張ることがモットーだから、頑張れよと言いたいわけよ

宮本亞門さん:
最後の瞬間まで私は喋り続ける、伝え続けると仰っていたんですよね。このエネルギーとこの思いと、人に伝えようという、そして生きる、最後まで生きて伝える。生きなきゃと最後の時分まで言っている。本当に恐れ入りますと心から尊敬するとともに、感謝しております。亡くなる40日前なんて信じられない。すごすぎますよ

先月下旬から、メインキャストが集まり舞台稽古が進められてきました。

主役は子どもたち。

81年前の10歳の啓子さん役に抜擢されたのは、小学5年生の松永梨楓さんです。

松永梨楓さん(普天間第二小5年):
自分たちは九州に行きたかったけど、船が沈んで、啓子さんも「何で生きているんだろう」と思った瞬間はとてもかわいそうだと思いました。そういうつらいことが昔あったということを伝えていきたいし、今は本当に幸せということも伝えていきたいと思います

また、啓子さんの記憶をたどる「語り部」役に国仲涼子さんを起用し、「啓子さんの祖母」役を吉田妙子さんが演じます。

国仲涼子さん:
沖縄出身ではない宮本亞門さんが、こんな風に沖縄を見てくれているんだと深い愛情を感じますし、そこについていきたいという思いで。対馬丸に乗船した人たち、見送った人たち、待っていた人たち。少しでも心が近くなれるといいなと思っています

吉田妙子さん:
こういうことが二度とないように、悲しみや残酷な戦争もないように。見ていただけたら、少しでも感じていただけたら

このほか、川田広樹さんや尚玄さんなど県出身の俳優たちや平和を願いこれからを生きる子どもたちが一堂に集い、ともに舞台をつくりあげていきます。

宮本亞門さん:
とにかく(キャストの)皆さんのエネルギーがすごい素敵なんですね。年齢を超えた人たちがお互いに一つになる瞬間というのを感じて。対馬丸の話は悲しい話ですが、次の若い子たちに受け継いで頑張っていこうというテーマを皆さんとやっていると、とても大切なことに携わっていると感じがした

対馬丸の悲劇を生き延び、生涯にわたって語り継ぐ使命を全うした啓子さんの底力。

そして、「遺志を受け継ぎたい」と情熱を注ぐ宮本さん、舞台に携わる全ての人たちが気持ちを一つに平和と生命をつなぐ輪を広げていきます。

沖縄テレビ
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