気象庁が世界最高レベルの技術を使い、6月1日から新たな取り組みを始めた。大きな被害を引き起こす「線状降水帯の予測」だ。
「無理・困難」だった線状降水帯の予測…2004年に只見で犠牲者も
線状降水帯は、台風などと比べて規模が小さいために予測が難しいとされ、これまでは“発生”を知らせる情報の提供だけに留まっていた。そこで気象庁は観測体制を強化し、エリアは「東北地方」など広域で具体的な地域を絞り込むまでには至らないものの、発生の半日前から予測情報を提供することになった。
この記事の画像(11枚)そもそも線状降水帯とは、大雨をもたらす発達した積乱雲が移動することなく次々と同じ場所に発生し、上空の風に流れて「線状」の強い降水域を形成、経験したことのないような大雨が一定の期間続くことを指す。
東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
線状降水帯は、福島でも過去何回か発生したことがあり、無縁ではない。
実は2004年7月にあった新潟・福島豪雨も、線状降水帯による大雨でした。この時は、只見地方で豪雨で犠牲となった方もいました。線状降水帯で積乱雲が発達する中で、降雨位置は変わらず集中的に雨をもたらした。福島では300mm強降っているんですよね。当時は「ニンジン雲」と言っていたんですよ
東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
18年前、気象庁は「予測は無理・困難」と言っていたのですが、それがようやくできるようになった。技術の進歩だと思います
2017年にまた…被害に遭った住民「新たな取り組みに期待」
線状降水帯は、2017年にも福島・只見町に記録的な大雨をもたらしている。1時間の雨量は、88.5mmと観測史上最大を記録。総雨量は260mmに達し、国道の路肩が崩れるなどの被害が発生した。
約50世帯120人が暮らす福島・只見町布沢地区。2017年の雨では、電気などのインフラが一時使えなくなるなどの被害があったが、犠牲者は出なかった。しかし、線状降水帯がもたらす雨量に恐怖を感じていた。
只見町布沢地区に住む刈屋晃吉さん:
(水が)ここまで来て、今少しでもう上がってくる。いやあ、怖いですよ。いつ崩れるかなという心配が付きまとうものですから
この地区では高齢化率が50%を超え、避難に時間がかかる人が多い。だからこそ、線状降水帯の発生予測によって、避難に必要な時間が生まれることを期待しているという。
只見町布沢に住む刈屋晃吉さん:
線状降水帯なんかの場合は、出たと同時に緊張感をもって対処するという気分になりますよね
犠牲者ゼロを目指して…行政も利用方法を検討
線状降水帯の発生予測について、行政側も早めの避難につながるだけでなく、避難を判断する材料が増えると歓迎している。今後は、防災行動計画「タイムライン」を改良するなどして、準備を整えていく予定だ。
只見町町民生活課町民係・三瓶真人 主査:
(タイムラインは)大雨洪水・台風だったりを想定して作っているんですけれども、そこに今後は線状降水帯というものも踏まえたケースを準備していかなくてはならないかなと考えています
一方で、懸念もある。線状降水帯の発生予測は「東北地方」など対象エリアが広く、精度に課題がある点だ。
只見町町民生活課・目黒公俊 町民係長:
現状で出ている広範囲な情報ですと、逆に混乱を生む可能性もあるので、なかなか難しいかなと。もうちょっと精度が上がってくるといいなと思います
2017年の大雨で避難情報を発令した際に、実際に避難したのはわずか3%だった只見町。犠牲者ゼロに向けて、新たな情報の利用方法が検討されている。
精度向上待つ前に…気象情報と合わせ「構える」ステージ再考も
東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
前線性による大雨の場合は、線状降水帯は起こりうる現象ですし、発生したら何らかの災害に繋がる。これを半日前に予測できるとすれば、防災上重要な情報にはなり得る。
私たちにとっても、気象台から半日前に線状降水帯の情報含め、一般の気象情報の中で出てきたときには、“構える” “ステージを上げる”ことにも使えるのかなと思います
「線状降水帯の予測」について気象庁は、段階的に精度を高めていく計画だ。
2022年6月1日から、発生の「半日前」から予測を提供するが、「東北地方」など広域のエリアが対象。これが2024年になると、対象エリアが「県単位」に絞り込まれ、そして2029年になると、対象エリアを「市町村単位」にまで具体的に予測できる体制を目指している。
そのため気象庁は、スーパーコンピュータ「富岳」を活用した予測技術の開発など体制整備を進めている。
東京大学客員教授・「防災マイスター」の松尾一郎さん:
予測ですから、当たり・はずれはある。気象庁も現時点で言うと、4回発表して1回当たればというところ。情報自体も通常の気象情報の枠組みで発表されます。この情報が発表される際には、事前に「大雨警報」が発表されるはず。従来の実況型の警報・注意報、土砂災害警戒情報、記録的短時間大雨情報などにも注意をしながら、どう行動するのか考えておくのが必要だと思います
(福島テレビ)