コロナショックで私たちの働き方も大きく、しかも突然変わることを余儀なくされました。会社に行かず、なるたけ在宅で仕事をするよう政府からの要請に、企業も必死でこたえている状況です。

在宅勤務を巡って、「通勤時間もなくて生産性が上がる!」「子どもが休校なので、一緒にいる時間が増えてありがたい」という声もあれば、「どう評価されているかわからず悶々とする」「プライベートと仕事の区切りがつかずに長時間労働に」等、受け止め方もそれぞれ。また、「孤独を感じる」「家に居場所がないのがつらい」とも。

せっかくならば、この緊急事態宣下の在宅自粛生活を有意義に過ごしたい、いつか少しでも日常が戻る頃に、「充実してた!」と振り返れるよう、パパのためのマインドセットを聞きました

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テレワークの今こそ、パパの力を発揮できる初めてのチャンス!

インタビューのお相手は、NPO法人ファザーリングジャパン理事の川島高之さん。冒頭に、「今の在宅生活いかがですか?」と単刀直入に伺ったら、「幸せですね!」と即答で返ってきました。

それもそのはず、川島さんは三井物産社員時代から、「ライフ」「ワーク」「ソーシャル」の三本柱で人生を構成することを実践してこられた方。仕事も自分の人生も父親であることも楽しもう、そして社会と繋がって貢献していこうと、小学校のPTAから少年野球チームのコーチなど、家族と地域活動にも全力投球されてきました。

NPO法人ファザーリングジャパン理事の川島高之
NPO法人ファザーリングジャパン理事の川島高之
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そんな川島さんから飛び出してくる言葉は、きっと「家に居場所がない」パパにとってのヒントに満ちています。そして、ママ側からすると、「わたし、そんな風に見えていたのか!?」と気づかされる盲点も・・・。

新型コロナウィルスに関するニュースは深刻さを増し、見えないウィルスとの闘いに心も疲弊してきます。ステイホームの期間も続きそうです。「私たちにできることは家にいること」それを遂行しながらも、ストレスも増えてきます。

どうかこの記事を読んでくださった方のご家庭に、笑顔が増えますように。

“会社ありき”で過ごしてきた人の苦しみ

佐々木:
コロナショックで突然の在宅生活になっている方も多い今、パパたちからはどんな声が聞こえてきますか。

川島理事:
僕の周りには、“超・会社依存的”な人が少ないですからね、ハッピーに過ごしている人が多いと思いますね。家にも地域にも居場所をもって、またNPO活動をしているとか・・・とにかく人生を支える柱がたくさんある人はハッピーなんじゃないかな。在宅中心で仕事ができれば、通勤もなくて効率も上がるし、付き合いのためだけの飲み会だってないわけだしね。反面、“会社ありき”で過ごしてきた人が苦しんでいますよね。

佐々木:
まさに、”会社ありき”だった方々、家に居場所がなくてつらい・・・という声を聞きます。「あなたの昼ごはんまで作らないといけないわけ?」とママたちのイライラも募る一方。この在宅期間、どんな心構えで家族と向き合っていくのがいいでしょう?

川島理事:
今起きている事態を、「パパの出番だ!パパの力を発揮できる初めて訪れたチャンス!」と捉えることが大事だと思います。そしてこんなチャンスは2度とないかもしれない。会社ありきで家庭に居場所がないのも、もちろん本人の問題もあるかもしれないけれど、それ以上に、居場所を作りたくても作りようがなかった働き方・職場環境だったのかもしれないですよね。それがようやく、家にいてもいい、家にいてください、となったわけです。このチャンスを生かさない手はないですよ。

ママを解放する時間を〜それが子どものためにもなる

佐々木:
具体的にはパパの力ってどんなことでしょう?

川島理事:
まずはね、息詰まるママたちをとにかく解放してあげることでしょう。半日でもいい、「おれが子どもの面倒を見るから自由に過ごして」と1人にしてあげられる時間を作る。ママたちはゆっくりお茶を飲むもよし、好きな音楽を聴くもよし、自分のために自由に時間を使ってもらう。そして、それは実は、子どもをママから引き離してあげることにもなるんですよね。ママたちの言っていることはもちろん正しいことも多いんだけど、、、でも子どもを追い立てて息詰まらせていることもあるわけですよ。だから、ママには「ママをラクに解放してあげたい」とだけ伝えて、実は子どもをママから守ることにもなる。

結婚後家事を覚えたという川島さん 息子さんとは折々一緒に料理(2007年)
結婚後家事を覚えたという川島さん 息子さんとは折々一緒に料理(2007年)

佐々木:
え?なんて耳の痛い・・・(笑)。でも、それってパパならではの視点ですね。パパだからこそできる子どもとの関わりはなんでしょうか?

川島理事:
とにかく本気で遊ぶことですよ。パパにも男の子だった時代があるわけで、その頃は次々と遊びを生み出していたはず。それを思い出してほしいんです。家の中でも、工夫してスポーツはできます。食卓でスリッパを使って卓球もできる、様々な大きさのボールとラップの芯や折り畳み傘、プラスチック製のバット、何であれ少し長さのあるものがあれば、障害物を置いてゴルフもできる、思い切り相撲をとったり、ケンケンしながらお尻をぶつけ合ったり・・・。もちろん工作するのもいい。子どもと一緒に考えてもいいし、「お父さんすごく時間があるから、遊ぶの付き合ってよ。何したい?」と子どもに考えてもらうこともできますよね。

パパの家事力は「新入社員」だと思って育てよう

佐々木:
外出自粛生活の中で、部屋の中でも体を使って遊んでくれるの、ありがたいですね。ところで、パパたちからは家事を手伝う際に妻からやり方が違うなどと指摘されると、2度とやる気が起きなくなる・・・という声もよく聞きます。これに関しては、妻側はどんな言葉がけがいいんでしょうか?

共に料理をしてきた息子さんも、今年新社会人に。写真は高校時代
共に料理をしてきた息子さんも、今年新社会人に。写真は高校時代

川島理事:
家事に関しては・・・申し訳ないんだけど夫を新入社員だと思って接してほしいんです。特に今の40代以上は、家庭科と技術と男女で履修する教科も別だし、家の中でもほとんど手伝いもしてきたことがないわけです。女性はなんだかんだ、母親の手伝いをしたり、見て育つところもあったり・・・結婚する時点で、家事に関してはベテラン社員と新入社員くらいの違いがあるところからスタートしています。だから、男の子を育てるのと同じ感覚で、とにかくほめて育ててほしい。

大体、仕事でも何でも、夫たちはダメ出しをされるとキレるかクシュンと心がしぼむか、どちらかしかありません(笑)。なので、「やり方が違うのよ」ではなく、「やってくれてありがとう!次やるときは、もっとこういう風にしてくれると嬉しい。」と、”You're right,but,”で相手を認めたうえで伝えてみるといいと思います。くれぐれも、いきなり”But"から入ると、夫には届かないですからねぇ・・・。

高校球児の息子さんのために作った「パパの手作り応援弁当」
高校球児の息子さんのために作った「パパの手作り応援弁当」

佐々木:
若干、面倒くさい・・・ですねぇ(笑)。そこまでの気遣いが必要なのですね。

川島理事:
そう思いがちですが、しかし、急がば回れの精神で、ほめてほめて育てる方が断然夫の家事力も育ちます。

家族それぞれの時間割を書き出してみよう

佐々木:
在宅生活になって、パパはパパで、もっと仕事に集中したいのになかなかできない、オンライン会議中に子どもが大きな声で呼んだりママが部屋に掃除にきたり、、、なかなか時間の使い方が難しい悩みもあるようです。

川島理事:
ひとつの例として、前日に次の日の予定を家族で時間割を手書きで書いて冷蔵庫に貼るというのも有効だと思いますね。もちろんアプリなどを使うのもいいですが、子どもを含めて家族全員のスケジュールを可視化することが大事なので、みんなで話し合いながら手書きするのが、お互いの予定を把握するためにはいいんです。パパのオンライン会議時間、ママの仕事時間や自由時間、子どもたちの勉強や遊びの時間をどう取るか、しっかり話し合う。そこで、日頃、仕事の大事なアポイントメントと同じ位置付けで考えて、丁寧に家族の時間と仕事の時間をあらかじめ確保する。もちろん急な変更も出てくるでしょう。でも、事前にお互いに予定を把握し合っておけば、どの時間に仕事の準備をしておけばいいか逆算して早めに取りかかれるし、1日の流れにもメリハリがつきます。そのうえでね、子どもには「オンライン会議中は、後ろを通ってもいいよ。でも、話しかけるのは終わるまで待ってほしい。」と伝えておくのです。そうすれば、子どもにとってもパパやママが突然パソコンに向かうのも理解できるし、仕事に興味をもつきっかけにもなると思います。まさにね、普段なかなか仕事をしている姿を見せる機会がないけれど、この在宅期は、仕事するってかっこいいな、おもしろそうだなと後ろ姿を直接見せるいいチャンスなんですよ。

在宅期に、これまでやりたかったことは何でもチャレンジしてみよう

佐々木:
コロナショックがいつまで続くかわからないものの、収束した後には、働き方、生き方含めて価値観自体が大きく変わりそうです。その時に、この在宅期間を有意義な時間の積み重ねだったと思うものにしていくには、何が必要でしょうか?

川島理事:
まさにね、いつか来るアフターコロナを迎える頃に、この自粛の期間をどう過ごすかで、圧倒的な差がつくと思いますよね。それは人と競争するという意味の差ではなくて、「あぁ、充実してたな」と思えるか、なんとなく空っぽな気持ちのままで終えてしまうのか。

医療従事者や、社会を回していくためのスーパーや物流など、エッセンシャルワーカーの人たちを除いては、ほぼ、今までよりも時間ができたという人が多いわけです。だから、これまで普段できなかったこと、時間がないからと諦めていたことは、何でもトライしてみるといいと思うんです。趣味でもいい、家事を丁寧にすることでもいい、何か地域の活動を始めるのもいいかもしれない、もう一度勉強するのもいい。

たとえば僕は、付属校で大学受験を経験しなかったし、学び直したくて、今、午後の1時間Eテレで高校の講座を勉強しているんですよ。物理、数学、歴史・・・。これが強制でなくする勉強は本当に楽しい。家にいながらにして、リカレント教育(生涯学習)もできる。漬物を自分で漬けると美味しいこともわかった。これまで忙しくてドラマなど見たこともなかったから、今はオンラインでこれまでの話題作を遅ればせながら観ているし。音楽も好きでこれまでR&B一辺倒だったんだけど、仕事には集中できないからクラシックをかけてみたら、これがとてもいい。まさかベートーヴェンを毎日聴く生活が来るとは想像しなかった。家の中にいながらでもね、毎日新鮮な出会いと発見に満ちてますよ。

佐々木:
充実した様子が話からも伝わってきますね。ただ、どうしても人とのつながりに渇望する気持ちも湧いてきますよね?会話量が減るから、孤独で気持ちが塞いできます。

川島理事:
人は人との繋がりの中で生きているから、会って話すことの大切さも実感しますね。それに関しても何かが変わるかもしれないと思うのは、「地域」の価値を見直してみる機会だと思いますね。外に出られない状況の中で、少しだけ散歩する時間に、地域にも良さそうな店があるのを見つけてみる。実は徒歩圏内にも、気づかなかった良さがたくさんあるはずです。僕はこれまでのPTAや親父の会などを通して、地元にも友人がたくさんいるから、わずかな時間でスーパーに行く間にも、友人に出会う。そうすると、その時は話せなくてもオンラインで飲み会しようってどんどん話が出てくる。地元のコミュニティーと繋がりをもって地元で過ごすっていうことがこれからますます大事になると思いますね。アフターコロナの頃には、働き方も変わり、仕事が終わったら外に飲みに歩くよりも、家で、家族とご飯を食べることが当たり前になるかもしれない。その時に「地元」に居場所があるのは、人生を豊かにすると思います。

【インタビューの後に】

我が家は現在、夫は基本在宅、私は週3日出社してあとの2日は在宅ワーク。小学生2人の子どもは、休校です。習い事も休止。日時も曜日の感覚も曖昧になる中、早速家族の時間割について話し合うことを始めました。行き当たりばったりでその日を乗り切るよりも、子どもがどう過ごしたいか、それに夫と私のどちらがどう向き合うかが見える化されるだけで、狭い住空間でも空気は穏やかに、生活はカラフルになることを実感します。

移動せずともオンラインを発達させて生活を豊かにすることを希求してきたこの時代に、移動を制限されることがかくも辛いものだと実感するのは、何とも皮肉に感じます。

何を大切に、どう過ごすのか、生きる力が問われますね・・・。家族の時間割とともに、「家にいても毎日新鮮な発見と出会いに満ちている」という川島さんの言葉を、冷蔵庫に貼っておきたい気持ちです。

【執筆:フジテレビ アナウンサー 佐々木恭子】

佐々木恭子
佐々木恭子

言葉に愛と、責任を。私が言葉を生業にしたいと志したのは、阪神淡路大震災で実家が全壊するという経験から。「がんばれ神戸!」と繰り返されるニュースからは、言葉は時に希望を、時に虚しさを抱かせるものだと知りました。ニュースは人と共にある。だからこそ、いつも自分の言葉に愛と責任をもって伝えたいと思っています。
1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。