“おひとりさま”や夫婦のみの世帯が増えている。

内閣府男女共同参画局が2021年7月に作成した資料によると、「単独世帯の割合は2015年に全世帯の3分の1を超え、その後も上昇」と推計。「4割を超えていた夫婦と子の世帯は、2015年におよそ4分の1にまで減少」したとしている。

(出典:内閣府男女共同参画局:結婚と家族をめぐる基礎データ)
(出典:内閣府男女共同参画局:結婚と家族をめぐる基礎データ)
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子どものいない夫婦や独身者は、「相続」をどのように考えたらいいのだろうか。「財産を残したい子どもがいないから全く考えていない」などと気にしていないかもしれないが、実は遺族の間で揉めることもあるというのだ。

“子どもがいる夫婦”との違いとは?

では実際、子どもがいない夫婦や独身者の相続はどのようなトラブルが起きやすいのか? また今から準備をしておくべきことは何だろうか?

CTC行政書士法人の行政書士・中谷綾乃さんと、山口総合法務事務所の司法書士・山口英一さんに話を聞いた。


――子どもが“いる夫婦”と“いない夫婦”では、相続にどのような点で違いがある?

子どもがいる夫婦の場合は、法定相続人は配偶者と子どもですが、子どものいない夫婦の場合は、配偶者と、故人の親、親が亡くなっている場合は故人の兄弟が、法定相続人となります。

つまり、「配偶者」と「血族関係にある者」が相続人となり、故人の親、親が亡くなっている場合は兄弟姉妹、兄弟姉妹が亡くなっている場合は姪甥と、遺産分割協議をする必要があります。


――では、独身者の場合は? 

独身の方の場合、子→親(祖父母)→兄弟姉妹(甥姪)の順で相続することとなります。

子どもがおらず、両親がご存命の場合には両親が相続人となります。両親もすでに亡くなっている場合、自身の兄弟・姉妹が相続人となります。

もし、兄弟・姉妹が亡くなっていて、甥姪がいる場合には、甥姪が代襲相続人(元々の相続人の代わりに相続人となる人)として相続人となります。

疎遠な姪甥と話し合うことでトラブルになることも

――このようなケースは相続で揉めることは多い? 

子どものいない夫婦の場合、配偶者を見送った悲しみも癒えないうちから、疎遠な姪甥と話し合うことは負担もありトラブルになることもあります。終の棲家を売却して遺産分割することになれば、残された配偶者のその後の生活が心配です。

子どものいる夫婦であれば、残された家族(親と子ども)で手続きをすることができますが、親子・兄弟であっても揉めてしまうことがあるのが相続です。子どもがいない夫婦の相続は、自分の血族ではない「配偶者の家族」と話し合いをする必要があります。

精神的な負担も大きく、大切なパートナーを亡くした悲しみの中、相続手続きに疲弊してしまうこともあります。

独身者で子どもがいない場合は、親・兄弟・甥姪が相続人となります。

高齢でお亡くなりになった場合、親・兄弟は既に亡くなり、甥姪で遺産分割協議をしますが、生前に甥姪とあまりお付き合いがない場合は、突然連絡があって事情などがわからない中で、相続手続きをしなければならず、相続人の方々の負担が大きくなってしまうケースもあります。


――相続の準備として遺言書を作成する人もいる。どんなメリットやデメリットがあるの?

遺言書を作成する主なメリット次の通りです。

・相続トラブルを回避できる。
・相続人の相続手続き負担を軽減できる。
・財産を渡したい人に渡せる。
・配偶者と兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合、兄弟姉妹や甥姪には遺留分がないので、配偶者にすべてを相続させるという遺言を残しておけば、その通りに相続させることができる。
・遺言書に遺言執行者を定めておけば、遺言執行者だけで相続手続きをすることができます。

遺言書を作成すること自体に大きなデメリットはありませんが、あえて挙げれば作成に手間と費用がかかる点がデメリットです。

遺言書作成にはメリットも多い(画像はイメージ)
遺言書作成にはメリットも多い(画像はイメージ)

――揉めるような財産を残さないようにするため、できるだけ使ったり、生前贈与や寄付などをするのはどう?

揉めさせないようにするというよりも、ご本人の希望を叶えるために、使い切ったり、生前贈与や寄付は良いかと思います。ただ昨今では人生100年時代といわれておりますので、タイミングはよく考えられると良いかと思います。


――分割がしづらい不動産(家など)がある場合には、揉める可能性が高くなったりするの?

現金のように分けられないので、場合によっては不公平感が生じることが考えられます。

遺言書のほかに民事信託を活用する方法も

――残された人のために、他にはどのような準備をしたらいい?

遺言書でも自分の次に財産を承継する方は決められますが、民事信託を活用する方法もあります。財産を家族などに託せる制度で、受託者は信託契約に基づいて委託者の財産の管理や承継を行うことができるようになります。

また、自分の次の方の更に次の方(また更に次の方も可)まで財産を承継する方を指定することができます。

例えば、自分が亡くなった後は配偶者へ財産を承継させて、配偶者が亡くなった後は更に別の方が財産を承継するように決めておけます。そうすると、ご自身の家系で代々承継してきた財産を配偶者が承継した後、配偶者からご自身の家系(例えば甥姪)へ戻すことも可能です。

民事信託を活用する方法も(画像はイメージ)
民事信託を活用する方法も(画像はイメージ)

――このような相続に対する準備は、いつから始めるべき?

なるべく早い方が良いかと思います。病気になったり高齢になってからだと、手続きをするエネルギーが残っていない場合もありますし、認知症のリスクもあります。生命保険と同じように元気なうちに準備をはじめられるのがおすすめです。

(画像はイメージ)
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子どものいない夫婦は子どものいる夫婦と法定相続人が違うことで揉めるケースもあるという。
人生は、いつ何が起きるかは分からない。残された人が争ったり、困ったりすることがないよう、今のうちに遺言書の作成などを検討しておくのがよさそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。