ワシントンには数々の歴史的な建造物が残されているが、「ツイン・オークス」もその一つだ。130年前に建てられた瀟洒な洋館は1979年の米台断交以前は、台湾の大使公邸として使用されていた。今では駐米台北経済文化代表処が管理している。
この記事の画像(4枚)5月中旬、記者はその洋館に招待され、ある人を待っていた。
約束の時間に車寄せに黒塗りの車が滑り込むと、後部座席からパンツスーツを着こなした女性が姿を現した。小柄ながらヒールでさっそうと歩く姿はエネルギッシュな印象を与える。この女性が蔡英文台湾総統の側近で、女性初の駐米代表を務める蕭美琴(しょうびきん)氏だ。
バイデン大統領の就任以来初めてとなる日本訪問を前に、フジテレビの単独インタビューに応じ、ウクライナ情勢や台湾有事など気になる問題に率直に答えてくれた。
ウクライナの悲劇、台湾で繰り返されてはならない
ーー先ほど、ウクライナ・カラーのマスクをされていましたが。台湾の人々はウクライナの現状をどのように受け止めていますか?
蕭代表:
台湾の人々は、ウクライナ危機を、大きな心の痛みとともに見ています。ウクライナの人々が立ち向かう姿、自由を守る決意は、台湾の人々に非常に強いメッセージを送っていると思います。私たちは、ウクライナの人たちから学ぶべきことがたくさんあると思います。しかし同時に、ウクライナで起きている残虐行為は、台湾でも世界のどの場所でも、二度と繰り返されることのないよう、できる限りのことをしなければなりません。
ーー中国の軍事力を背景に台湾海峡の緊張が高まっていますが、日本にはどのような役割を期待しますか。
蕭代表:
日本がアメリカとの首脳会談の場でも、台湾海峡の平和と安定を強調してくれたことに感謝しています。台湾にとって台湾海峡の平和と安定は不可欠であり、建設的で効果的な方法を日本と共に模索していきたいです。それは結果的にも日本の利益にもつながるのではないかと考えています。
ウクライナへのロシアによる軍事侵攻は台湾においても大きな衝撃を持って受け止められ、その事態は度々、中国による台湾統一の構図と比較された。軍事侵攻が始まった直後の3月に行われた台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」の世論調査では、「台湾有事」での日本の役割に期待が高まっていることが明らかになった。
調査では「台湾有事には自衛隊が参戦すると思う」と答えた人が43.1%に上り「アメリカ軍が参戦すると思う」と答えた34.5%を上回る結果となった。
ウクライナ侵攻を巡り、ウクライナがNATO加盟国でないことや第三次世界大戦に繋がる可能性などを理由にバイデン大統領が米軍を派兵しない姿勢を示したことが世論調査の結果に影響したとみられるが、日本への期待は確実に高まっている。
中国が「オオカミ」ならば台湾は「ネコ」
アメリカ人の母親を持つ簫代表は、英語力を生かして、アメリカの議員たちに台湾支持を積極的に働きかけている。その巧みな外交を「戦猫外交」と簫代表は呼び、強気の姿勢を全面に打ち出す中国の「戦狼外交」との違いを明確にした。
蕭代表:
台湾は、地政学的に厳しい状況の中で、世界に働きかけています。ですから、私たち一人一人が戦士や戦闘員であることが求められます。ただ、猫は狼よりもずっと愛嬌があると思います。また、猫は非常に軽やかで柔軟性があり、適応力があるという特徴があり、狭い空間でも生き延びることができます。台湾の国際情勢は厳しく、私たちも常に自分たちが生き延びる空間を見つけなければなりません。日本を含む国際社会の多くの友人たちが、台湾を支援し続けてくれることを願っています。
さらに簫代表は、東京で開催されるアメリカと日本、インド、オーストラリアの枠組みの「クアッド」にも期待を表明した。
今こそ「地域の安定」にスポットライトを当てる時
ーー24日にアメリカ、インド、オーストラリアの4カ国の首脳が東京に集まり、安全保障などの分野で協議する「クアッド」が開催されますが、何を期待しますか?
蕭代表:
世界がウクライナの危機に注目している中、非常にタイムリーなイベントだと思います。安定の重要性と、インド太平洋地域が共有する共通の利益を強調することも重要だと思います。
バイデン大統領の日本滞在は5月22日から3日間。軍事力、影響力を増す中国を念頭に置いた懸念の声を受け、どのようなメッセージを発信するのか注目だ。
【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】