ニューヨーク5番街、世界有数のショッピング街に、紺色の制服と白い手袋が波のように連なっていた。銃撃事件で発砲され死亡した27歳の警察官の葬儀が、2月2日、5番街にある教会で行われ、警察官数千人が見送ったのだ。「銃社会」のイメージが強いアメリカだが、それにしてもこのところ銃犯罪を含む治安悪化に歯止めがかからない。

バイデン大統領は翌3日、銃規制対策とともに「警察予算を削減しない」と述べ、注目された。この発言の裏には、2020年から続く「警察批判」と「治安悪化」に対するバイデン政権の“焦り”が見え隠れするようにも感じる。

高級ブランド通りが2キロ封鎖…車で4時間かけて遠方からも参列

2日は、ニューヨーク市警の警察官・ウィルバート・モラさん(27)の葬儀だった。モラさんは1月21日、家庭内暴力の通報を受けて同僚のジェイソン・リベラさん(22)とともに現場に駆けつけたところ、男に銃撃された。モラさん、リベラさんの2人とも殉職した。

殉職したウィルバート・モラさんとジェイソン・リベラさん
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前の週に行われたリベラさんの葬儀と同じく、この日のモラさんの葬儀も、「セント・パトリック大聖堂」という教会で行われた。目抜き通りの5番街に位置し、向かいにはクリスマスツリーで有名なロックフェラーセンター、並びにはティファニー、カルティエなどの高級ブランド店が軒を並べる。

葬儀が始まる30分程前に教会付近に到着すると、すでに5番街は交通規制が敷かれていた。しかも、周囲2キロ近くにわたっての封鎖だ。遙か先にはクレーンでつるされた巨大な星条旗が空を舞っている。隣に高級デパートがあったが、葬儀終了まで店を閉めているようだった。

歩行者天国状態となった5番街の車道に、紺色の制服を着た警察官が続々と現れる。そして大きなスピーカーからこうアナウンスが聞こえた。

「10時45分になったら整列してください」

モラさんらが所属しているNY市警の警察官が大半だが、制服の腕の部分のエンブレム見てみると、「デラウェア州」「ペンシルベニア州」などの遠方の地名があることに気がついた。中には、ニューヨークから車で4時間かかるマサチューセッツ州の街から来ている警官のグループもいた。

中にはマサチューセッツ州から来た警察官の姿も

当然、モラさんと顔見知りの同僚ばかりではないだろう。彼らは葬儀が始まるまでは記念撮影をしたりコーヒーを飲んだりとリラックスした表情だったが、式がはじまると整列し、棺を乗せた車列が通る間、敬礼のポーズをとり続け、「仲間」の旅立ちを見送った。

ニューヨーク市警に問い合わせたが、集まった警察官の人数は公表しないという。各メディアは「数千」という表現を使っていたが、目視する限り、5番街を800メートルほどにわたり紺色の制帽が埋め尽くしていた。1万人近くいたのではないかと思う。

5番街を埋め尽くした警官

コロナで銃所持急増 死者2万人

調べてみると、殉職警察官の葬儀に多くの警官が整列し見送るのは異例のことではない。コロナ前の記事を調べてみても、「数千の仲間が見送った」という報道があるし、殉職消防士の葬儀が同じセント・パトリック大聖堂で同様の形式で行われたこともある。市民のために命を落とした警察官や消防士の「殉職」を、大勢の仲間で見送ろう、というのがアメリカらしく、心を打つ光景だった。

しかし今回、若き警察官の殉職は、別の側面からも報じられた。それは米国で後を絶たない銃犯罪と治安の悪化を、多くの市民が不安に思っているからである。

FBIの調査によると、2020年は2000万丁を超える銃が販売された(推計)。2021年は少し減少したものの、この20年間で、2020年に次ぐ数字となっていて、2年間で4000万丁が販売されたことになる

銃撃事件による死者(自殺を除く)も2万人を超えていて、こちらも2014年以降で最多だ。理由はさまざまあるが、やはり新型コロナウイルスによる社会不安で銃を買い求めた人が多いとされている。

モラさんの葬儀の様子を見に来たニューヨーク育ちの女性も、「パンデミック以降、銃犯罪が急激に増えた気がする。子どもたちに、“地下鉄やバスに乗るときは気をつけなさい”といわなくてはいけない。私の子どもの頃とは違う」とため息を漏らした。

バイデン氏「警察予算削減しない」と明言

翌3日、バイデン大統領はニューヨークを訪問し、「3Dプリンタ」などで作られた“ゴースト・ガン”対策など、銃規制を強化すると表明した。会見で気になったのは、「解決方法は“警察予算の削減”ではない」という言葉だ。

この「警察予算の削減」は、2年前、白人警察官が黒人男性を死亡させた事件を契機に世界中に広がった「ブラック・ライブズ・マター」のデモ参加者の合い言葉だった。人種差別抗議がテーマだと思って取材していた中で、「警察予算削減」のプラカードが多かったことに驚いた記憶がある。

それほど、警察官のいきすぎた行為が問題視されていて、実際に当時のニューヨーク市長(民主党)は、税収の減少もあり警察予算を10億ドル削減すると発表した(2020年6月)。「法と秩序」を掲げ「ブラック・ライブズ・マター」運動をけん制したトランプ大統領(当時)とその支持者らとの間の社会的分断は、警察予算をめぐってさらに拡大した。

それから2年近く経ったが、政権が変わっても治安悪化は改善されず、市民の不満は募る一方だ。

中間選挙控え・・・「犯罪に弱腰」イメージ払拭の狙い?

AP通信は「3日のニューヨーク訪問は、『バイデン大統領が犯罪に弱腰だ』という共和党の批判を跳ね返す目的がある」と分析。その結果が、「警察の予算を削減しない」という明確な言葉だったといえる。バイデン氏のこの発言の裏にあるのは、秋に控える中間選挙だ。急激な物価上昇への不満がくすぶるなか、“治安への不安感”はなんとしても解消しないといけないということだろう。

銃規制を含む犯罪対策は、アメリカが過去に何度も直面し、未だに有効な手だてを見出せていない重要課題だ。支持率低迷にあえぐバイデン政権が「弱腰」批判を返上し、銃犯罪の防止に具体的な道筋をつけられるのか注目したい。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】
【取材:ハンター・ホイジュッラット/撮影:ムローザ敏男)】

中川 眞理子
中川 眞理子


FNNニューヨーク支局特派員。プライムニュースイブニング元キャスター。警視庁、警察庁担当、北朝鮮による拉致問題担当記者。「スーパーニュース」「みんなのニュース」担当ディレクター。2015年より厚生労働省担当記者を経験。

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