大量の機密文書を持ち出した罪で起訴されたアメリカのトランプ前大統領が、裁判所に出廷した。前代未聞の事態になっているが、当の本人は、来年の大統領選挙に向けて自信を見せている。
この記事の画像(9枚)アメリカ トランプ前大統領:
自分が法を超えているとは思わない。私は法律を順守した。全て正しい事をしたのに起訴された
大統領経験者としてアメリカの歴史上初めて連邦政府に起訴されたドナルド・トランプ前大統領。起訴状によるとトランプ前大統領は、退任後に数百の機密文書を、ホワイトハウスから自宅に持ち出したとして、スパイ防止法違反など37の罪に問われている。その書類の中にはアメリカの核計画や敵対国への報復計画なども含まれていたという。
そして、フロリダ州の連邦裁判所に出廷したトランプ前大統領。支持者と反対派、双方が声を上げる中、審理は日本時間の14日未明に始まり、罪状認否でトランプ前大統領は37の全ての罪について無罪を主張した。
その後、ニュージャージー州で支持者を集めて演説したトランプ前大統領は、「2024年11月の大統領選挙で再選を果たす」と断言した。
トランプ前大統領:
今回の起訴は選挙妨害であり、大統領選を不正に操ろうとするものだ。しかし彼らは敗れ、我々が、かつてないほど大勝するだろう
起訴されてもなお強気の姿勢を崩すことはない。
トランプ前大統領 強気を続けられる理由は?
機密文書を自宅に持ち出したとして37の罪に問われているトランプ前大統領。本人はすべて捏造だと否定しているが、これからの裁判でトランプ氏はどうなるのか、アメリカ政治を専門とする上智大学・前嶋和弘教授に聞いた。
無罪を主張しているトランプ氏だが、どんな罪に問われているのかまとめる。起訴状によると、トランプ氏は大統領退任後、アメリカの「核計画」や「敵対国への報復計画」など数百の機密文書を、ホワイトハウスから自宅へ持ち出したとして、スパイ防止法違反など37の罪に問われている。機密文書をトイレに山積みしていたなど、管理もずさんだったと言われている。
Q.なぜ機密文書を持ち出して、返さないのでしょうか?
上智大学 前嶋和弘教授:
分からないです。最大の謎です。大統領は現職ならば、機密文書を指定したり、解除することができます。トランプ氏は大統領の特権を今も持ってるんだってことで、「心の中で解除している」という表現をしていますけど、それが認められるかという問題です。国立公文書館やFBIあたりが「返せ」と何回か言っているのに、なぜ返さなかったのか、単なるズボラだったのか、あるいは何かPRしたいことがあったのか。例えば会員制クラブで誰かが来たら見せる可能性があるということを指摘する人もいます
Q.機密文書をトイレに置いていた写真が流出したのはどういうことなのですか?
上智大学 前嶋和弘教授:
この写真は捜査側が提供したものです。FBIが写真を撮って、「機密文書をトイレに動かしてごまかしていた」のだという証拠の一つです
Q.トランプ氏はゴルフ場でこの機密文書を見せびらかしたという情報もあり、単に自分を大きく見せたかったのか、自慢したかったのか、そんな単純な動機だったということもあるのでしょうか?
上智大学 前嶋和弘教授:
そういう単純なところもあったかもしれません。トランプ氏の性格なので、「見せてやるよ」って感じで見せてしまったのかも。「重要な物なんだけど、お前は大切な友人だから」と見せた可能性はあります。また一方でトランプ氏の立場に立ってみると、「機密文書を管理をするのは俺なんだ」というところです。大統領をやめて権限があるかどうかというところで、「ない」と見られていますが、そこの争いでもあります
Q.気になるのが今後の裁判。有罪なのか無罪なのか、鍵を握るのは今後の裁判を担当する「キャノン判事」です。キャノン判事はトランプ派だと言われているので、裁判がトランプ氏に有利になるのでしょうか?
上智大学 前嶋和弘教授:
可能性は既に指摘されています。キャノン判事はトランプ大統領時代に決まりました。選挙の後、次の大統領のバイデン氏に代わる前に決められました。かなりの保守派の方です。既に去年から FBI の捜査があって、トランプ氏がかなり反発していたのですが、キャノン判事が地裁の判事をしていて、トランプ氏に有利な決定をして、のちに高裁が止めたということがありました。いわくつきの人物です
Q.ただ1人の判事の判断で動いていくことはあるのでしょうか。トランプ氏寄りの判事が全てに対応していくのではないと思うのですが、いかがでしょうか?
上智大学 前嶋和弘教授:
そもそも陪審員制度が適用されます。決めるのは基本、陪審員で、司会をキャノン判事が務める可能性が高いです。司法省が判事を変えてくれと動いていますので、判事が変わる可能性もあります。いずれにしても決めるのは陪審員ですので、誰を陪審員に選ぶのかが問題になります
37の罪に問われているトランプ氏だが、頭の中で「大チャンス!大統領選へのブースターだ!」と考えているのではないかと、前嶋教授はみている。
上智大学 前嶋和弘教授:
アメリカは今分断されています。民主党側はかなりの人が「前大統領がやったことはとんでもない」と思っています。一方で共和党支持者は「濡れ衣だ。バイデン政権が考えて、司法省が選んだ特別検察官がトランプ前大統領をはめた」とみているわけです。今回は連邦で捜査されていますが、4月にニューヨークが訴えました。ニューヨーク州で不倫相手に口止めした疑惑があって起訴されています。その時に共和党支持者内での2024年の大統領選挙のトランプ氏の支持率が、10ポイントか、調査によっては20ポイントぐらい上がっているんです。もしトランプ氏が大統領選の予備選に勝って、本選挙になったとき、民主党側としては「あの犯罪者がいいのか」と戦ってくるでしょう。逆に共和党側は固まってトランプ氏を応援することになるという構図がみえますね
一般的にトラブルだと考えられるものでも、トランプ氏にとってはチャンスになるかもしれない要素がいくつかある。不倫相手への口止め疑惑で起訴されて支持率が約10ポイントアップした例があった。そうなると、
・今回の機密文書持ち出し
・連邦議会襲撃事件への関与
・大統領選挙結果違法干渉疑惑
疑惑の全てが大統領選挙の“追い風”になる可能性があると考えられるということだ。
Q.トランプ氏にとってマイナスになることはないのですか?
上智大学 前嶋和弘教授:
民主党からは、大統領選の本選挙になったときに、たたかれやすくなります。共和党側でも、やはりあんな男は“オワコン”だ、何であんなのがという見方がまだ大きくはありませんが 、今後そんな見方になってきたら、まずいことになるでしょう
Q.もし有罪になったとして、大統領になって恩赦によって自らの罪を消滅させたり、軽減させることができるのですか?
上智大学 前嶋和弘教授:
過去にはないのですが、できます。14日の演説の最後に「選挙の日を見よ」と言っていました。それが刑を軽くできるというメッセージなんです。また有罪になって収監された場合でも選挙戦を戦えます。過去に1920年の大統領選挙の社会党の候補が、一般投票で4%ぐらいの得票があった例があります。収監されても選挙戦はできます
Q.共和党の人もさすがに有罪になったら、代表として認められないとはならないのですか?
上智大学 前嶋和弘教授:
今回のニュースで、アメリカの中の保守系のニュースとかを見ていると、圧倒的に多いのは「濡れ衣だ。民主党がはめたんだ」という論調です。トランプ氏の14日の演説でも、「過去のどの大統領もこんなことはいっぱいある。俺だけはめてくるのは政治的な陰謀だ」と言って、それを支持者が信じているところがあります。我々にとって考えにくいところなんですが、現実としてそういう感じだと思います
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問。
Q.色々な疑惑があってもトランプ人気が高いのはなぜ?
上智大学 前嶋和弘教授:
不思議な力ですね。14日の演説も難しい話は一つもなく、言っていることは矛盾だらけなんですが、共和党支持者だと民主党が悪いように思ってしまう。最後は「Make America Great Again(アメリカを取り戻そう)」で終わるんです。それから既得権益を持っている奴らをぶっ潰そうぜという分かりやすいメッッセージを出し続けて、それに呼応する人がいっぱいいるんですね
Q.アメリカの大統領が誰になるかによって、日本も大きな影響を受けますので、ちゃんとジャッジできる人物に大統領になってほしいと思いますが
上智大学 前嶋和弘教授:
その通りです。前回トランプ大統領が2017年にスタートした時、安倍元首相が日米同盟の重要性を頑張って教えて、何とか分かってもらいました。今回もしトランプ氏が大統領になった場合、日本政府はかなりの努力が必要になるかもしれません
今後の動向に注目していきたい。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月14日放送)