民主・共和両党が競うように“ウクライナ詣”

米国の民主、共和両党の大物がウクライナ詣を競う形になり、この紛争が米国の中間選挙に影響を及ぼす大きな要素になってきた。

米上院共和党のトップのミッチ・マコーネル少数派院内総務は、3人の共和党上院議員と共にウクライナの首都キーウを訪れてゼレンスキー大統領と会談したと14日発表された。

米上院共和党トップ・マコーネル氏がキーウを訪問 ゼレンスキー大統領の公式インタグラムより
米上院共和党トップ・マコーネル氏がキーウを訪問 ゼレンスキー大統領の公式インタグラムより
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ゼレンスキー大統領のインスタグラムには、同大統領がキーウの街中でマコーネル院内総務たちを迎える動画と共に次のようなメッセージが書きこまれていた。

「ミッチ・マコーネル少数院内総務に率いられた米上院議員団の訪問は、米国議会と米国民の超党派の支持を強く示すものだ。ウクライナのためだけでなく、民主的な価値と自由のための我々の戦いを支援してくれていることに礼を言う。真に感謝する」

実はこれに先立って4月末、齢82歳のナンシー・ペロシ米下院議長が3人の下院民主党議員と共にキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談してこう伝えていた。

「我々は、あなた方の自由を目指すための戦いがその目的を達成するまで一緒に戦います」

4月30日 米民主党トップ・ペロシ下院議長がキーウ訪問
4月30日 米民主党トップ・ペロシ下院議長がキーウ訪問

さらに5月8日の「母の日」には、バイデン大統領の妻のジル・バイデンさんが前触れなくウクライナ西部のウジホロドを訪問、ゼレンスキー大統領の妻オレナさんに花を贈って歓談しバイデン大統領に代わってウクライナへの支援を示した。

5月8日 両ファーストレディーがウクライナ西部で歓談 左:ジル・バイデン夫人 右:オレナ・ゼレンスカ夫人
5月8日 両ファーストレディーがウクライナ西部で歓談 左:ジル・バイデン夫人 右:オレナ・ゼレンスカ夫人

言ってみれば、ここへきて米政界の民主党、共和党の有力者が競ってウクライナ詣をしているわけだが、受けるゼレンスキー大統領も「超党派の支援に感謝する」と発言に配慮が感じられる。

ウクライナ支援をめぐる功名争いが続きそう

「ウクライナの戦いは、バイデンの国内政治の問題でもある」

英紙「ザ・ガーディアン」は、ペロシ議長の訪問を受けて5日電子版でこういう見出しの記事を掲載した。

米国民への世論調査では「ウクライナへの援助が足りない」とするもの37%、「支援は正しい」が36%で「支援しすぎる」は14%に過ぎなかった。(ワシントンポスト紙、ABCニュース共同調査)

バイデン大統領はウクライナ問題に限っては世論の「追い風」を受けているわけで、そうした中で民主党のトップのペロシ議長がウクライナを訪問したことは「来る中間選挙を意識してのことに他ならない」と言う識者の話を「ザ・ガーディアン」紙の記事は紹介している。

バイデン大統領の支持率は、インフレやコロナ対策の遅れに加えて最近では乳児用の粉ミルクが枯渇して母親たちの間でパニックになっていることもあって急落しており、このままでは中間選挙で与党民主党が大敗するのは避けられないと大方のマスコミが伝えている。

ペロシ議長らのウクライナ訪問はそうした民主党の失地を挽回し、中間選挙へ向けてウクライナ支援に対する世論の「追い風」をあおることをねらったのだというのだ。

一方の共和党は「遅れてはならじ」とマコーネル院内総務らがキーウを訪れたことは疑う余地もなく、会談の内容はともかくカーキ色のTシャツ姿のゼレンスキー大統領と記念撮影した議員団の映像が大事だったと思わざるを得ない。

米国の民主党と共和党は、11月8日の中間選挙へ向けてウクライナ支援をめぐる功名争いを続けそうだ。 

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。