“モルドバ侵攻”口実作りの動き?

ウクライナと国境を接する国、モルドバ。旧ソ連構成国のひとつで、天然資源も大きな産業もないことから「ヨーロッパ最貧国」とも言われる。そのモルドバ東部、親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」と名乗る地域で4月末、電波塔などを狙った爆発が連続して発生した。

爆発によって損傷した電波塔(「沿ドニエストル共和国」・4月26日)
この記事の画像(11枚)

欧米では、これらがロシア軍による偽旗作戦で、侵攻の口実を作り出そうとしていると見る向きが強い。この「沿ドニエストル」には、平和維持目的で1500人規模のロシア兵が今も駐留を続けており、同じく4月末にはロシア軍高官がモルドバ侵攻を示唆するなど、緊張が高まっている。

「ロシア軍侵攻の明確な意図は見られない」

こうした中、モルドバのアナトリエ・ノサティ国防相がFNNの単独インタビューに応じ、いま、そしてこれからのモルドバについて語った。日本メディアの取材に応じるのは初めてだ。

国防相執務室で単独インタビューに応じるアナトリエ・ノサティ国防相

――親ロシア派が実効支配する「沿ドニエストル共和国」での連続爆発を、どう捉えているか。

アナトリエ・ノサティ国防相:
まず第一に、爆発は我々の施政権が及ばない地域で発生したものです。よって、我々はそれを正当に判断することはできません。いわゆる「沿ドニエストル」の軍や行政の管轄下にあるからです。ですから、さまざまなルートから情報を入手しています。主にオープンソースからです。これが、今、我々にできる方法です。(爆発が発生するような)状況は国民にストレスを与え、とても平和とは言えません。ウクライナでの戦争は、国民をより恐怖に陥れます。

――ロシア軍高官がモルドバ侵攻を示唆したが、その可能性はあるか。

ノサティ国防相:
あるロシア軍高官の発言ですが、ロシアの公式見解ではないと思います。どのような状況であのようなことを述べたのかもわかりません。侵攻の可能性について、我々の分析では現時点でロシア軍がモルドバ方面に侵攻する明確な意図は見られません。

「現時点でロシア軍侵攻の明確な意図は見られない」と語るノサティ国防相

――もし侵攻されたら?

ノサティ国防相:
軍として、保有する装備と人員を使って実戦に臨むつもりです。必要であれば、もちろん従来の軍隊を展開します。 無論、100万人のロシア軍全てがモルドバに攻めてくるとは想定していませんが。  

――モルドバ国境に近い、ウクライナ南部オデーサも攻撃されている。

ノサティ国防相:
今のところ、ウクライナ軍はオデーサとミコライウを非常にうまく防御しているようです。ロシア軍がそこに到達するためには多くの時間が必要です。つまり、我々には作戦能力を強化するための十分な時間があります。

プーチン大統領の「演説のトーン」

――ロシアの対独戦勝記念日のプーチン大統領の演説に、宣戦布告などの発言はなかった。

ノサティ国防相:
演説は見ました。彼は別のスピーチ原稿を用意していたのでしょう。しかし戦況が変化し、当初の戦略的目的は実現しなかった。だから、演説のトーンが少し違っていたのです。ロシア軍は想定していた期間内に、作戦を完全に遂行できなかったということです。

――プーチン大統領の次の一手をどう見る?

ノサティ国防相:
これは、私だけでなく誰でも予測するのは難しいと思いますが、まずはウクライナ東部におけるロシアの軍事作戦がどう継続するかによるでしょう。

対独戦勝記念日に演説したプーチン大統領(モスクワ・5月9日)

EU、NATOをめぐるモルドバの「立ち位置」

モルドバで「鉄の女」と呼ばれるマイア・サンドゥ大統領は、2020年12月の就任以来、ヨーロッパ寄りの政策を掲げ、EU(欧州連合)への加盟を目指す姿勢を強く打ち出してきたが、3月3日、EU加盟を正式に申請したと発表した。同じ旧ソ連構成国のジョージア(グルジア)も同日、EUに加盟申請している。

米ハーバード大ケネディスクール卒の「鉄の女」マイア・サンドゥ大統領

一方、NATO(北大西洋条約機構)についてはどうか。ロシアと国境を接するフィンランド政府は5月15日、NATOへの加盟申請を正式に発表した。さらにはスウェーデンも申請に向けた調整が大詰めを迎える中、モルドバの従来の立ち位置に変化はあるのか。

――EUおよびNATOについて、あらためてモルドバの立ち位置は?

ノサティ国防相:
EU加盟はモルドバの戦略的目標のひとつです。(加盟候補国となったことは)大統領、政府、議会の偉大な功績だと感じています。経済面でも安全保障面でも、さまざまな変化が起きています。一方のNATO。モルドバはNATOと様々な活動を行ってきた非常に長い歴史があり、非常に良い協力関係にあります。しかし、NATO加盟という戦略的な目標は持っていません。我々は中立的な立場であるため、加盟を望むことはできないのです。

ノサティ国防相は、EU加盟は引き続き目指すものの、NATO加盟という目標はないと改めて明言した。あくまでも軍事的中立を保つ構えだ。

親ロシア派の声は…

ところで、我々は今回、5月9日に首都キシナウで行われた、ロシアの対ドイツ戦勝記念日のイベントを取材した。全国各地から親ロシア派の市民らがバスなどに乗って首都に集結し、警察発表によると約7000人が参加したという。

ロシアの対ドイツ戦勝記念日に行進する親ロシア派のモルドバ市民(2022年5月9日)

参加者の多くは旧ソ連の国旗などを掲げ、中にはプーチン大統領と熊が2ショットで描かれたTシャツを着る女性もいた。

プーチン大統領と熊がプリントされたTシャツを着る親ロシア派の女性

バッグにもロシア国旗がプリントされているという徹底ぶりだ。参加者の一部の声を紹介したい。

バッグにもロシア国旗

参加者の女性:
私はロシアを支持しています。ロシアとモルドバは経済的にも政治的にも一緒にならざるを得ません。ロシア抜きでは、モルドバに未来はないのです。

参加者の男性:
両親は私に愛国的な教育を施してくれました。学校の先生はこうした歴史的な出来事について説明し、真実とうそを見分ける手助けをしてくれます。将来子どもができたら、この記念日について教えたいです。

情報統制下にあるロシア国内とは異なり、モルドバはCNNだろうとBBCだろうと、いわゆる西側メディアは誰でも見られる。ウクライナのニュースにも日々接することができる。それにも関わらず、こうした親ロシア派の人々が今でも多数存在するのが現実だ。市民の一人は、「親ロシア派住民の多くは、主にロシア語のメディアしか見ない」と語った。取材したイベントの参加者は皆、意気揚々で、ロシア語で万歳を意味する「ウラー!」を連呼し、まるでロシアにいるような感覚さえ覚えた。

――今でもモルドバ国内には親ロシア派の住民が多数いる。

ノサティ国防相:
歴史上の問題です。モルドバは比較的若い国で、建国30周年を祝ったばかりなのです。ですから、いまだに多くの人々が「ソ連時代は良かった」という考えを持ち続けているのです。彼らの態度や現状に対する理解を変えるには、ある程度の時間が必要です。 ですから、EU加盟申請で多くの人々が、誰が我々の戦略的パートナーなのかという現実について、見方を変えるきっかけになったはずです。より良い生活を送るために、誰が我々をサポートしてくれるのかと。

EU加盟申請でさまざまな変化が起きていると語る、ノサティ国防相

もともとルーマニアと結合していたものの、その後ソ連に編入。1991年のソ連解体後も、東部に親ロシア派が実効支配する地域が存在するモルドバ。小国にも関わらず非常に複雑な歴史と国内事情を抱える中、「鉄の女」サンドゥ大統領の今後の手腕に注目が集まっている。

【執筆:FNNイスタンブール支局長 清水康彦】

清水康彦
清水康彦

FNNイスタンブール支局長 報道局社会部、経済部、外信部、ニューヨーク支局などを経て、2019年5月から現職。

国際
記事 20