老舗のそば店が家族を守るため、意外なお店に生まれ変わる。そんな宣言が注目されている。

東京都江東区に「蕎麦処 小進庵」という、そば店がある。創業は明治40年(1907年)で二八そばが看板メニュー。家族経営で営業してきた。

小進庵(提供:大森さん)
小進庵(提供:大森さん)
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4月、このお店に一枚の紙が貼りだされたのだ。そこにはなんと「当店は5月20日(金)より そば専門店からうどん専門店に生まれ変わります」という宣言。家族がそばアレルギーになってしまったのだという。

「蕎麦屋の営業を続けるのは家族の命と健康を守るのは難しいと判断いたしました。4代目店主大森貴行は 2022年4月 うどん屋に生まれ変わることをここに宣言いたします」

うどん店への転身を宣言した貼り紙(提供:M.Kimuraさん)
うどん店への転身を宣言した貼り紙(提供:M.Kimuraさん)

貼り紙にはこのような宣言に続いて、家族の健康と笑顔を大切にしたいこと、これからはうどん作りでお客の幸せと笑顔を作ることを目標としていくことなどが書かれていた。

小進庵を訪れた、TwitterユーザーのM.Kimura(@kimyu2000jp)さんが貼り紙を撮影して投稿をすると話題に。Twitterでは決断を尊重する反応などが寄せられ、13万以上のいいねを集めた。(5月13日時点)

2人の子どもがアレルギーに…コロナ禍もあり決意

そばとうどんは同じ麺類だが、素材や作り方などは違うはず。一世紀以上続けてきたお店を転身させるのには、苦労もあったはずだ。店主の大森さんに実情を伺った。


――そば店からうどん店に転身することを決めた、経緯を教えて。

私には息子(9)と娘(6)がおり、2018年ごろ、息子がそば粉を触ったとき、肌にぶつぶつなどが出てしまいました。アレルギーテストを受けたところ、2人ともそばアレルギーと分かりました。幸いにも小麦アレルギーはなかったので、家族の健康と命を守るためにうどん店になろうと思いました。実際に決断をしたのは、2022年の1月ごろでした。

小進庵の四代目店主・大森貴行さん(提供:大森さん)
小進庵の四代目店主・大森貴行さん(提供:大森さん)

――四代続いたそば店をやめることはどう思う?

長い間悩みました。そば店として続いてきたのは、先代の努力やお客様にご愛顧をいただいたしるしでもあります。それを止めていいのか、そばを辞めていいのか。本当に苦渋の決断でした。ただ、父親として、お店を守れるのも家族の力があるから、家族がいるから歴史は作れると思いました。コロナ禍もあります。健康を害されている人の様子も見て、家族の健康や命が一番大事だと思いました。

小進庵で提供してきたそば(提供:大森さん)
小進庵で提供してきたそば(提供:大森さん)

うどん作りのために香川県へ修行…子どもは「おいしいよ、パパ」

――うどん店を目指したのはなぜ?転身のためにどんなことをした?

お店ではうどんも提供していましたが、そばが注文の9割ほどでした。そこで、讃岐うどんを食べてみようと、2022年の2月ごろ、香川県に行って食べたところ、どれも美味しくて衝撃を受けたんです。こんなうどんを出したいと思いました。香川にはうどんの学校があるのですが、ホテルに泊まって通い、作り方やだしの取り方、天ぷらの作り方などを一から勉強しました。

香川県で食べたうどんの一つ(提供:大森さん)
香川県で食べたうどんの一つ(提供:大森さん)

コシが強くてモチモチしたうどんを作るにはどうすればいいのか。先代から習ったうどんの作り方とは違いがあり、自宅に帰ってきても作り続けて、ようやくできたという感じです。


――そばとうどんで通じるもの、違いを感じるものはあった?

そばとうどんは生地を作って伸ばして切ることは共通していますが、違いもあります。そばは水を吸収しやすく、乾燥しやすいので短時間で作ることが大切でした。うどんは塩水を吸収しにくく、こねて踏んで熟成させて寝かせて、さらに踏んで熟成させて切る…といった感じです。粉に水を吸収させる工程を大切にしていると感じました。

うどん作りを続ける大森さん(提供:大森さん)
うどん作りを続ける大森さん(提供:大森さん)

――家族は作ったうどんを食べたりはした?

(アレルギーのため)子どもたちにはこれまで、私が打ったそばを食べさせられませんでした。悲しかったのですが、うどんは作ると食べてくれて「おいしいよ、パパ」と言ってくれます。これだけでもやってよかったと思います。後はお客様に食べてもらえれば、もっといいですね(笑)

おいしいうどんを提供することが恩返し

――うどん店の看板にしたいメニューはある?

そば店では鴨を使ったメニューが人気でした。この鴨が当初、うどんのだしとは合わなかったのですが試行錯誤をして低温調理したローストにすると、非常に合うようになりました。オリジナルメニュー「鴨のローストステーキうどん」として、提供していきたいと考えています。

オリジナルメニュー「鴨のローストステーキうどん」(提供:大森さん)
オリジナルメニュー「鴨のローストステーキうどん」(提供:大森さん)

――そばの提供を終えることについて、お客に伝えたいことは?

当店のそばを愛してくれたことに感謝を申し上げたいです。これからの恩返しは、おいしいうどんを提供していくことだと思います。家族連れの小さなお子様、おじいちゃんおばあちゃんなどがニコニコ笑いながら食べてくれる。明るい雰囲気のお店づくりができたらと思います。


なお、そば店としての営業は15日で終了となる。。5月20日からは新たな一歩を踏み出す、小進庵のこれからに期待したい。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。