戦火を逃れ、福岡へ避難してきたウクライナ人親子。安全な生活を送れることに感謝する一方、日本語や生活習慣の違いに戸惑うことも多い。異国の地にやってきた、ある親子の生活に密着した。

息子と避難 慣れない生活への苦労も

福岡・志免町。取材班を出迎えてくれたのは、日本在住のウクライナ人、ナタリヤさん(38)だ。そしてナタリヤさんが紹介してくれたのは、親戚のリディヤさん(39)だった。

福岡へ避難してきたリディヤさん
福岡へ避難してきたリディヤさん
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青いウクライナの民族衣装を身にまとったリディヤさんは、16歳になる次男のアドリアン君とともに3月26日、福岡の地へと避難してきた。

リディヤさん:
首都のキーウで、アドリアンと2人暮らしでした。長男は今大学生で、ポーランドにいます。繰り返し爆発やミサイルが落ちてきて、戦争の音をずっと聞くのが大きなストレスでした

当時、リディヤさんとナタリヤさんが交わしていたやりとりが、スマートフォンに残されていた。

リディヤさん:(当時のSNS)
ヘリコプターが2機落ちてきた。ずっと隠れる生活は嫌だ

戦闘の生々しい様子が伝わるやり取り
戦闘の生々しい様子が伝わるやり取り

ナタリヤさん:(当時のSNS)
もう出られた? 無事を祈ってるよ

リディヤさん:(当時のSNS)
いま駅です。出られるよう祈っててほしい

リディヤさんは、親戚の中でも昔から仲の良かったナタリヤさんを頼りに日本への避難を決断。持ち込んだ荷物は、小さなバッグ2つだった。パスポートやノートパソコンなど、貴重品しか入っていない。

(Q.避難する人の荷物は皆このくらい?)
リディヤさん:

はい。人を一人でも多く乗せるため。荷物を持っていたら、駅で置いていかないといけなかったです

今は、ナタリヤさんの自宅で一部屋借りて生活している。

リディヤさん:
ウクライナはベッドしかないから、布団は初めて見ました

慣れない異国での生活。これまで旅行でも日本へ来たことはない。日本語を覚えるのも一苦労だ。

リディヤさんを手助けするナタリヤさん
リディヤさんを手助けするナタリヤさん

リディヤさん:
アリガトウ…、ゴズマイカタ…

ナタリヤさん:
ございます

リディヤさん:
ゴザイマス。コンニチハ

ナタリヤさん:
…しか分からないみたいです

最愛の息子の無事に「神様に感謝」

そんなリディヤさんの日常とは…。向かったのは近所のスーパーだ。

リディヤさん:
スーパーは、ウクライナと基本的に一緒ですが、やっぱり商品が読めないのと、調味料の使い方が分かりません

一人での買い物はまだ難しいようで、常にナタリヤさんが付き添う。
すると、リディヤさんは「とある商品」を見つけ、うれしそうな様子だった。
見つけたのは日本のカルピス。ウクライナ人は、甘い味付けを好むという。

ナタリヤさん:
日本の大人が、あまり甘い物を食べないのはびっくりしました

買い物を終えると、昼食の準備に取りかかる。この日のメニューは、ウクライナの郷土料理「ボルシチ」だ。
赤カブや肉をトマトソースで煮込んだスープで、ウクライナではほぼ毎日、食卓に載る。
リディヤさんは日本食も好んで食べるが、やはりボルシチが無性に食べたくなる時があるという。

料理を作っていると気持ちが楽と話すリディヤさん
料理を作っていると気持ちが楽と話すリディヤさん

リディヤさん:
料理を作っている時とか忙しい時は、あまり悲しいことを考えなくていいから、気持ちが楽です

アドリアン君:
何か手伝うことはない?

率先して料理の手伝いをする次男のアドリアン君。実は、あともう少しで学校を卒業するというタイミングでの国外避難となった。

(Q.卒業できない?)
アドリアン君:

他の国でも、どうにか卒業はできないかと思ってます。よく分からないけど

卒業目前での国外避難となったアドリアン君
卒業目前での国外避難となったアドリアン君

(Q.日本で学校は?)
アドリアン君:

学校は行けたら行きたいけど、どうなるか、今は分からない

予想もしなかった苦難の連続。
しかしリディヤさんにとって、最愛の息子が無事でいることが何よりの喜びだ。

リディヤさん:
一番、神様に感謝しているのは、息子が危ない所にいないこと。平和の国にいることです

携帯に届く“警報”…のしかかる恐怖と不安

暖かく安全な場所でテーブルを囲み、できたてのボルシチを口へ運ぶ。

リディヤさん:
おいしい

慣れ親しんだふるさとの味にほっとしたのもつかの間、リディヤさんは何やら自分の携帯を見て深いため息をついた。

リディヤさん:
ハァ~、ナタリヤ

携帯の画面には、ミサイルの危険を知らせる警報が表示されていた。

ナタリヤさん:
「気を付けて。これからミサイルが落ちます。避難する場所に逃げてください」…ウクライナのSIMカード入れてるから、(国から)届いてるね、まだ

携帯に表示されたミサイルへの警報
携帯に表示されたミサイルへの警報

リディヤさん:
警報は、少ない時は1日1~2回。多い時は15回くらい来た時もある

リディヤさんの両親や妹は、いまだウクライナのドニプロに残ったままだ。リディヤさんは、すかさず安否確認の電話を入れた。

ウクライナに残るリディヤさんの家族
ウクライナに残るリディヤさんの家族

リディヤさん:
あなたたちは大丈夫?

リディヤさんの母親:
大丈夫よ

リディヤさん:
妹は?

リディヤさんの母親:
今のところは大丈夫

リディヤさん:
(連絡とれないと)ものすごく不安になります。家族をずっと思ってるから、2カ月近く、ろくに眠れていません。落ち着くことができません

日本に避難をしてもつきまとう恐怖。そして不透明な将来に対する不安も、重く心にのしかかる。

リディヤさん:
自分たちが、これからどういう風に生きていくかが大きな悩みです。何が起きるのか、どう生計を立てていいのかも分かりません

ナタリヤさん:
他の国に逃げても、逃げただけでは幸せというか、何かできる訳じゃないから。仕事もお金もないから、本当に不安ばかり…。今のところは、避難した人でもきついと思う

ロシアによる武力侵攻がいつ終わるのか、先が見えない状況の中、500万人近くが国外へ脱出したとみられるウクライナ避難民。
戦火を逃れて来た避難民が、異国で仕事に就き、自分で自分の生活を立て直すこと。それが今、次なる課題となっている。

自国での経験生かし弁当店へ…働きぶりに「頼もしい」

一方、日本で暮らして20年近くになるウクライナ出身の平山アンナさんの父親と母親が3月、娘を頼ってウクライナから福岡市西区へやって来た。

娘を頼って避難してきたラリーサさん
娘を頼って避難してきたラリーサさん

平山アンナさん:
おはようございます。(母を)よろしくお願いします

平山アンナさんと、ウクライナから避難してきた母親のチェリ二ゴバ・ラリーサさん(63)。

2人が訪れたのは、福岡市西区にある弁当店「あじや」だった。
避難してきたウクライナ人の受け入れ団体から声かけがあり、ラリーサさんは、この弁当店で働くことが決まった。
この日は初の勤務だ。少し緊張した面持ちは隠せない。

「お弁当のあじや」 倉園幸治社長:
皆さん、おはようございます。きょうはラリーサさん、ウクライナから。まだ2週間くらいです。まだ日本語とか全く分からない状態です。皆さんに協力していただいて職場にお呼びしましたので、皆さんどうぞよろしくお願いします

初勤務のラリーサさんを温かく迎える
初勤務のラリーサさんを温かく迎える

温かい職場の雰囲気にラリーサさんは、「ありがとうございました」と語った。

ラリーサさんが住んでいたのは、ロシア軍が勢力を拡大する東部ドネツク州。
戦禍から逃れるため、ロシアの隣国ジョージア、そしてトルコを経由し、3月27日に来日した。
今は娘のアンナさんが住む福岡の家に身を寄せていて、孫の小学校の入学式にも参加することができた。

福岡でかみしめる平和の尊さ。
しかし、福岡で生活を送っていくためには働き、収入を得る必要がある。

ラリーサさんは準備を整え、さっそく厨房へ向かう。
初めての仕事は、ゆで卵のカットだ。職場の同僚にやり方を教えてもらうと、慣れた手つきで作業を進める。
実はラリーサさんは、ウクライナのレストランで30年、調理スタッフとして働いていた。その経験を買われ、今回、福岡の弁当店で採用が決まったのだ。

ラリーサさんの働きぶりに厨房の担当者も…

卸部門責任者・磯野謙次さん:
ウクライナでも飲食店をやられていたということで、器用だと思います。すごく頼もしい

卵カットに続いて、ポテトサラダの仕分けも任された。

(Q.働いてみてどうですか?)
ラリーサさん:

Good,OK

働けることがありがたい。今置かれた環境の中、前を向こうとしている。
働く場所を提供した弁当店の社長は…

「お弁当のあじや」 倉園幸治社長:
市や県に問い合わせて、私たちにできることはないかとお尋ねしたところ、ウクライナの受け入れの代表の方を紹介していただきまして。ウクライナの方と福岡の民間企業の方々の団体を作りました。すぐにでも職がないと、生活、ご家族に頼るだけではやっていけないということで、職場の提供というのは一番の課題になっているみたい。必要とされるサポートをできるように考えているところです

日本で生活を立て直そうとするウクライナ避難民。始まった異国での生活。それを手助けしようとする支援の輪も広がり始めている。

(テレビ西日本)

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