5月6日に全国公開された映画「マイスモールランド」は、17歳の在日クルド人の主人公・サーリャが、ある日突然在留資格を失い、理不尽な社会のなかで自分のアイデンティティーや居場所に向き合う物語だ。
 

17歳の主人公・サーリャ ©2022「マイスモールランド」製作委員会
17歳の主人公・サーリャ ©2022「マイスモールランド」製作委員会
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撮影にあたり約2年間、日本に住むクルドの人々に取材を行った川和田恵真監督に話を聞いた。後編は、川和田監督が取材で触れた日本の難民受け入れの現状、そして映画に込めた想いについて。

1%に満たない日本の難民認定率

ーーこの映画を作るにあたって、約2年間、日本に住むクルド人の方々(現在埼玉県を中心に約2000人が日本で暮らしている)に取材を重ねてきたと思います。その中で感じたこと、印象に残っていることはどんなことですか?

川和田監督:
いろんな家族がいたので、一言で「今、日本にいるクルド人はこうです」と言えるわけではないですけど、家族が入管に収容されてしまっている方がいて、ずっとその帰りを待ちながら暮らしている家族のお母さんが、日本に逃れてきたのに「自分たちは“治らない病気”にかかってしまったようだ」というようなことを言っていて……。それは心に残っています。
 

川和田監督
川和田監督

取材時を思い出しながら話す川和田さんの表情が暗くなる。口から出る言葉は一つひとつが重い。過酷な状況を目の当たりにしてきたのだろうと感じた。

川和田監督:
自分が取材した人たちはもう10年とか20年とか、難民申請をし続けているんですが、その中に認められた人って誰もいなくて。日本の認定率って1%に満たないんですね。日本に逃れてくる人たちは、日本が難民条約を批准しているということも知っているし、日本は治安がいい国だとすごく希望を持って来ていて、日本自体のことはすごく好きだと言っている。けれど、やっぱり入管の話になるとすごく表情が暗くなるんです。

(参考:2020年の日本での難民申請者は3,936人、うち認定されたのは47人。認定率にすると約0.5%に留まっている。例えば、フランスは認定率14.6%(認定数18,868人)、アメリカは認定率25.7%(認定数18,177人)、ドイツは認定率41.7%(認定数63,456人)など。
各国の状況が違うため単純比較はできないが、日本の難民認定率の低さは顕著だ。
※UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)Refugee Data Finder、NPO法人 難民支援協会HPより)

入管の現状・・・「自分がもらっている薬がなにかも分からない」

入管。出入国在留管理庁の通称。外国人や日本人の出入国管理などを行う法務省の外局のひとつだ。外国人収容所に収容されると、鉄格子のある部屋に数人で暮らし、仕事はおろか外に出ることすらできないという。映画「マイスモールランド」の中でも、主人公サーリャの父親が入管に収容され、家族で面会に訪れるシーンが描かれた。

川和田さんは、そうした「管理」と「保護」を同一機関が行っている、矛盾ともいえる現状についても表情を険しくさせた。

ーー実際に、入管に収容された方にも会いに行かれたんですよね。

川和田監督:
私が会った方は、本当に体調が悪くなってしまっていて、自分がもらっている薬が何かもわからず、精神安定剤といったものを知らぬ間にたくさん飲んでいるような状況だったんです。ほかにも、インフルエンザにかかっていたのに何日もそのままで、なかなか病院に行けなかったという状況も聞きました。
特に、その医療の面でいうと昨年亡くなってしまった方もいたので、すぐにでも改善してほしいところだと感じました。
(参考:2021年3月、収容されていた当時33歳のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが体調悪化のため亡くなった)

そして、現在日本が受け入れを進めているウクライナからの「避難民」にも話が及んだ。

川和田監督:
(ウクライナからの避難民を)難民として受け入れることも可能なんですけど、あくまで避難民や準難民という新しい言葉を作って、その枠で受け入れをしようという法案も進んでいて……。そこまで複雑化する必要がまずないというか、“そこまでして難民を受け入れない”“受け入れているのはあくまで難民ではない”というその住み分けをする理由って……。ちょっと理解に苦しんでしまいます。

現在進行形で起きていることを知ってほしい

これまで述べてきた「難民」は、国際条約に基づいたもので、本人からの申請によって難民認定がされるものであるのに比べ、「避難民」に法律上の規定はない。日本政府の避難民への対応は、90日間の短期滞在を認める在留資格を付与し、本人が希望すれば、必要に応じ就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」という在留資格への変更が可能、というものだ。難民認定を受けた場合と比べれば在留資格は不安定だといえる。

難民認定やその体制づくりに改善がみられない状況で、避難民を受け入れ十分にサポートする力が、今の日本にあるのだろうか。川和田さんの話を聞きながら考えていた。

ーーこの映画を通して伝えたいこと、込めた思いはどんなことですか?

川和田監督:
この映画で描いていることは本当に私達のすぐそばで、今も現在進行形で起きているということを、まずは知ってほしいなと思います。無関心が関心に、少しずつ変わっていってほしい、そう思っていて。知るということが積み重なることで少しずつ社会が変わっていくと私は信じていて、そのきっかけにこの映画がなれば、とても嬉しいなと思います。

インタビューを終えて・・・

実際に私は、この映画と出会うまで、2000人ものクルド人が故郷を逃れて日本で暮らしていることを知らなかった。そして、その人々がどんな暮らしをして、日々どんな身体的・精神的危機に晒されているのかも、考えたことがなかった。

自分が自分でいるために居場所を持とうとすること、そしてその権利を主張することは、悪いことだろうか。

私たちができることは、祈るだけでなく、何ができるか考えてみること。そしてそのために“知る”こと。この映画が一人でも多くの人に触れ、日本の難民受け入れの現状について考えるきっかけとなることを切に願う。

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宮司愛海
宮司愛海

世界は目に見えないものだらけ。
スポーツ取材を通して、アスリートの皆さんが重ねる見えない努力に触れてきました。だからこそ、自分から見える景色だけでなく、隠れているものごとを掘り起こし、ていねいに言葉にして伝えていくアナウンサーでありたい。そんな思いで仕事をしています。
福岡県で生まれ育ち、2010年に早稲田大学入学と共に上京。1年の休学を経て15年にフジテレビ入社。 入社後は「めざましテレビ」やバラエティ番組などを担当し、2018年からスポーツニュース「S-PARK」を担当しながら幅広いスポーツ中継に携わる。夏季東京オリンピック、冬季北京オリンピックでのメインキャスターを経て、2022年4月からは報道にフィールドを移し「FNN Live News Days」(月、火)を担当中。