2025年11月3日から4日間、国際会議「One Young World」がドイツ・ミュンヘンで開催された。
このOne Young Worldは”ヤングダボス会議”とも呼ばれ、18歳から32歳の若者2000人以上が世界190カ国以上から集まって、世界の課題について議論する国際会議だ。各国同様、日本からも若きリーダー3人が参加した。
今年は「Anti-Hate(差別とどう戦うか)」や「Responsible-Tech(責任あるテクノロジー)」といった5つの議題が設定され、基調講演やディスカッションの議論を通じて参加者がそれぞれの視点を共有し合った。
筆者(フジテレビアナウンサー・宮司愛海)も現地ミュンヘンで会場を取材し、サミットの様子を間近で見つめた。
世界の課題を「自分事」として考える日本や世界の若者たちは、今、何を見て何を感じているのか。そして私たち“大人”は何をすべきなのか――。
難民支援のために
帰国から約1ヶ月半が経った今、どうサミットを振り返るのか。
代表として派遣された上智大学4年の菊池海さんに話を聞いた。
菊池さんは、大学のサークルや民間のボランティアで入管に赴いて難民を支援したり、欧州でも難民受け入れ制度が整っている国だとされるスウェーデンへ1年間の留学をしたりと、大学生活を通じて難民問題への関心を深めてきた。
One Young Worldに応募した理由について、菊池さんはこう語る。
「難民支援に関わる中で、2年前の留学時とは世界の状況がすごく変わってきたと感じたんです。難民を送り出す側、受け入れる側。それぞれが今どんな見方をしているのかを、一度自分の目で確かめたかった。それが大きな理由の一つです」
難民支援と“生理の貧困”がつながる
One Young Worldには4日間で様々なプログラムが用意されている。
講演、ディスカッション、ネットワーキングイベントなど、参加者たちはそれぞれ自分の関心のあるところへ自由に参加する。
会場内で最も大きなホールで、政治、ビジネス、人道支援、環境、芸能、スポーツなど多様な分野で活躍する第一人者による基調講演を聞いたり、会議室で行われるワークショップでは参加者が小さなグループに分かれて設定されたテーマについてディスカッションを行ったりと、誰からも指示を受けることはない。
全て「自分の意志」に沿って行動する。公式の数字は発表されていないが、筆者の概算によると4日間で100以上のステージ、30以上のワークショップが開催されていた。
日本代表の菊池さんも、難民問題・環境・先住民族など多岐にわたるセッションに参加し、その中で、「生理の貧困」をめぐる議論が最も強く心に残ったという。
「葉っぱをナプキン代わりに使っていたり、生理を理由に隔離されたりといったことを途上国の方から聞いて…同じ女性でも、国や環境でここまで違うのかと衝撃でした。確かに、私が関わってきた難民支援の中でも、生理用品の使い方がわからない人が多いことには気づいていて、その時生理の貧困と難民問題が“人権”としてつながっていることを実感しました」
同じ女性であっても、置かれた環境によって人権のあり方が大きく左右される。
その現実に、強い衝撃を受けたという。公立中学校に通っていた頃に感じていた性教育の不十分さ、そして難民支援の現場で目撃した世界での生理に対する知識の格差が菊池さんの中で重なり「これが自分のやりたいことかもしれない」と、点と点がつながったような感覚があった。
まずは“周りの課題”への気づきを
今後は、留学時にスウェーデンで実際に体験した「13-25歳の若者が無料で性に関するカウンセリングやピル、性検査ができるクリニック」なども参考にしながら、日本でも「専門家に気軽に相談する」という考え方を広めていきたいと考えている。
「相談することを恥ずかしがらないこと、嫌なときには嫌だと言えること、相手を尊重すること、そして正しい知識や製品の使い方を広めていくこと、そうした活動につなげられたらと考えています。」
サミットで出会った異なる国の若者たちと向き合う中で、皆が“誰もが過ごしやすい世界を作りたい”という同じ方向を向いていたことに励まされながら、菊池さんは活動を続けていく。
「まずは自分の周りにある課題に気づくことからだと思います。自分の違和感を自分事にできる人がもっと増えること。政治への関心もその一つですし、身近な“生きづらさ”に気づくことが変化の第一歩なんだと思います。」
誤情報・偽情報を防ぐ戦略
実は私も、少人数でディスカッションを行うワークショップに実際に参加してきた。
扱われているテーマは多岐に渡っておりどれを選ぶか迷うほどだったが、その中で私が選んだのは「Strategies to Combat Misinformation and Disinformation(誤情報・偽情報を防ぐための戦略)」という、メディアリテラシーを題材にしたワークショップだ。
会議室に様々な国の若者6〜70人が集まり、7〜8人ごとに一つの丸テーブルを囲んでディスカッションするという形式で、私が座ったテーブルにはスイス、イギリス、トルコ、香港、サウジアラビアから参加している若者たちがおり、皆穏やかに、テキパキと議論を進めているのが印象に残った。
グループディスカッションには3つの議題が用意されており、一つ目が「偽の情報を見抜き対処する際にメディアリテラシーが直面している主な課題は何か」、二つ目が「これらの課題に取り組むためにはどのような解決策が考えられるか」、三つ目が「提示された解決策のうち一つを基に、他の参加者たちと一緒にアイデアを構築せよ」というものだった。
最後に各グループが議論の内容を発表する時間には、さまざまなアイデアが飛び出した。
たとえば、情報の偏りを減らすために、Webブラウザ上で自分の考えとは逆の立場の情報を意図的に表示させる仕組みを作るという提案。あるいは、そもそもマスメディアがもっと若い世代を積極的に雇い、多様な視点を内部に取り込むべきだという意見。
加えて、学校教育におけるメディアリテラシー教育をどう強化していくか、といった具体策も共有された。
若者の議論に、大人はどう関わるべきか
アイデアの中には荒削りなものや、現実との距離を感じるものも確かにあった。
しかし、こうして若い世代のリーダーの考えに触れて感じたのは、「完璧な答え」を若者に求めること自体が間違いなのではないか、ということだ。
大人に求められるのは、若者の意見を評価することでも、現実を理由に否定することでもなく、試行錯誤するための「余白」と「失敗できる環境」を用意することなのかもしれない。
議論の場に同席し、必要な知識や経験を共有しながら、次の一歩を後押しする、そんな伴走者としての役割が今あらためて問われていると感じた。
One Young Worldは、すぐに世界を変える魔法の答えをくれる場ではない。だが、世界のどこかで同じような違和感や怒り、希望を抱いている若者が確かに存在することを実感できる場所だ。
そこで交わされる議論や出会いは、帰国した瞬間に終わるものではなく、それぞれの国や地域に持ち帰られ、日常の中で少しずつ形を変えていく。
「世界を変える」という大きな言葉ではなく、「自分の身の回りの課題に気づき、行動する」こと。その積み重ねこそが、One Young Worldの本質なのかもしれないと感じた。
