日本政府は新型コロナウイルスの拡大によって、厳しい水際対策を長期間にわたり実施し、全世界からの外国人の入国を原則禁止としていた。以前も、全国の小・中学校や高校で、国際交流と外国語教育に携わる目的の「JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)」の青年が苦境に陥っている現状をお伝えした。3月に政府は、希望する外国人留学生の相当数が5月末までには入国できるようになるとの見通しを発表したが、時すでに遅く、辞退者や、日本以外の国に留学先を変更する人も出る事態となってしまった。アメリカの首都ワシントンDCでは、1912年に東京から桜の苗木約3000本が贈られたことにちなんだ、「全米桜祭り」が寄贈から110年の節目となり、様々なイベントも開催されている。その場でも、必死な日本への留学生の呼び込みを行う姿も垣間見えた。

全米“最難関”のクイズ大会 「日本との懸け橋に」若者の思い

4月22日に行われたのは、全米でも屈指と言われる日本語コンテスト「全米ジャパンボウル大会」だ。2022年は30周年を迎え、日本語を学ぶ約200名の高校生が招待され開催されている。クイズは3人ないし2人1組のチーム戦で、その内容は幅広く、日本の社会や文化、日常生活の会話や、歴史、地理、時事問題に及ぶ。多くの参加者が日本への留学を希望していて、将来は日本とアメリカの懸け橋になることを目指しているという。クイズの内容は、日本人の私でも悩むようなものもあったが、参加者は流ちょうな日本語で答えていた。

約200人が参加した「全米ジャパンボウル大会」の様子 
この記事の画像(8枚)

「Q:外国人で初めて日本の相撲で横綱になったのは?」 (A:曙太郎)
「Q:兼六園があるのはなんという名前の都市?」 (A:石川・金沢市)
「Q:平成30年は西暦で何年?」 (A:2018年)
という比較的ライトなクイズから
「Q:1930年に初めてパチンコ店がオープンした都市は?」 (A:名古屋市)
「Q:『骨を折る』を使って例文を作れ」
(A:科学者はコロナワクチンの開発に骨を折った人です(回答者の答えのママ)
など高度なものまで、千差万別だった。

「日本の勉強をしている時に織田信長に憧れました。毎日、常用漢字を勉強しています」
決勝ラウンドでは1人1人が日本語学ぶことの楽しさや、日本との関係に興味をもったきっかけも話すなど、日本に対する情熱と強い憧れも感じさせた。大会には高円宮妃久子さまや、駐日米国大使のエマニュエル氏、駐米日本大使の冨田浩司氏もビデオメッセージを寄せ、盛会のまま30年の記念大会は幕を閉じた。

全米ジャパンボウル大会は今年で30周年を迎えた
高円宮妃久子さまもビデオメッセージで参加者を激励

コロナによる深刻な留学生の「激減」 影響は多方面に…

日本への留学や、勉強に熱心な若者がいる一方で、最新の調査では日本に入国する外国人の減少が顕著となっている。文科省の発表では、2019年度に入国した留学生が約10万人だったの対して、2020年度は約1400人と前年度から約99%減少。アメリカのIIE(国際教育協会)が発表したデータでも、コロナ拡大前の2018年から2019年にかけて、アメリカから日本へ留学した学生が約8900人だったが、翌年は約3400人に減少。文科省の発表でも、2020年度のアメリカからの留学生はたった240人。前年度から1万8000人近くも減少しているのだ。

これまで、日本政府は「留学生30万人」計画を打ち出し、積極的に外国からの留学生を受け入れてきた。その結果、留学とは名ばかりで就労目的の「出稼ぎ留学生」が増えたことも指摘されているが、この留学生の減少は多方面に影響を与えることは間違いなさそうだ。博士課程を卒業する人から、医療や介護に従事する人材、技術系のプログラマーやサービス業に従事する人材など、すでに外国人留学生は労働力として、日本社会に根付いている。近年では、深刻な労働力不足に陥っている自動車整備業界の救い手として、外国人留学生の雇用が果たしていた面も大きく、今後少子高齢がますます進む中で、自動車の整備人員に不足も問題になる可能性が高まっているという。

「日本は私の初恋」 たった1人でビラを配布する青年

ワシントンDCで開催された音楽やアードのイベント「ペタルパルーザ」の様子

4月16日にワシントンDCで開催されたのは、「ペタルパルーザ」と呼ばれる、全米桜祭りに関連した、音楽やアートのイベントだ。当日は気温も良く、会場となった川沿いの公園には家族連れやカップルなどが参加し、多くの人でにぎわっていた。

そのイベントで私が出会ったのが、クリントン元大統領などの出身である、アメリカ屈指の名門ジョージタウン大学の大学院で、日本文化を研究しているマシュー・リーさんだ。日本にも2度留学し、日本語も流ちょうに話す。彼が配布をしていたのは、在米日本大使館で作成した、日本への留学についての情報などが盛り込まれたパンフレットだ。今年初めて作成されたという。マシューさんはこの日、500枚を1人で配布していた。マシューさんになぜ配布を行っているのかを聞いてみた。

日本への留学情報が載ったパンフレット配布するマシュー・リーさん

―マシュー・リーさん
「アメリカ人は日本の留学がわからないことが多いので、この資料を配っています。留学に必要な資格や、奨学金の情報などが載っています。」
マシューさんは、日本の北海道函館市に2カ月、秋田の大学にも1年間留学し日本語と文化を専攻していたという。その時の経験から、大の日本ファンになったという。

―マシュー・リーさん
「アメリカと日本の大学生活はかなり違います。アメリカの学生は成績を大切にしているが、日本の学生はサークルや部活、将来職場で役に立つ人間関係とかも学んでいますね。個人的には留学したときは人間として一番成長した時期でした。世界の見方が変わりました。日本に留学しなかったら、私は今の自分にならなかった」
と強調した後、アメリカ人が日本に留学する際のハードルについても指摘していた。

―マシュー・リーさん
「日本に留学するハードルは言語じゃないかな。外国人からしたら、日本はまだ不思議な国のイメージがあって、日本の大学でも英語で授業ができるところもあるのに、知られていない。日本語がわからないから、辛いと考えてしまう面があると思う。ビラを配布しても、正直反応は薄いです。でも、ちょっと良い反応を示してくれる人もいるんです。『日本に行きたい』とか、『日本に今度いくつもりだ』という人が何人かいて嬉しかったですね」
マシューさんは、大学院を卒業した後には、日本へ留学するか、日本で働くことを希望しているという。

―マシュー・リーさん
「日本は私の初恋でした。文化と歴史が興味深い。日本の田舎での生活もとても面白い。日本語はとても美しい言語で、その言語をもっと使いたい」

ジョージタウン大学院で日本文化を学ぶマシュー・リーさん

日本の課題は?これまでのやり方では留学生は来ない

マシューさんが配布していた、パンフレットを作成したのは在米日本大使館に勤める金城太一さん。文科省からワシントンに赴任し、教育問題などを対応している。留学生が激減する中で、日本に今後どう留学生を呼び込み、人数を回復させていくかについてインタビューした。

パンフレットを作成した日本大使館の金城太一さん

―金城太一さん
「留学生の受け入れを政府は再開したが、アメリカの方が興味を持ってくれないと、これまでのように留学生は増えないと思います。特にアメリカ人にとって日本は遠くて遠い国ですので、なんとか留学のハードルを下げるためにも情報提供が大事だと思います」
Q:反応は正直どうなのか?アメリカ人が日本で学ぶメリットは?
―金城太一さん
「留学を考えてくれている人もいて、『英語だけで日本で学べるんですか?』と聞いてくれる人もいる。英語だけで学ぶことができるコースもあるということも伝えていきたい。日本で学ぶことのメリットをどう打ち出すのかはとても大事で、日本の大学や企業の皆さんにも工夫してもらいたい。日本で実際に学ぶことで、日系企業などへの就職という選択肢も増えるでしょう」

アメリカからの留学生の中には、卒業後には日系企業や、教育機関、外交関係者として日本との懸け橋となって活躍している人も多くいる。水際対策によって、激減した日本への留学生の呼び込みは、そのまますぐに同じ数までは回復しないだろうし、むしろ同水準に回復する見込みも不透明だ。日本に来たい、日本に憧れるという外国人の若者達をどう増やしていくのか。改めて、地道な取り組みの積み重ねと、丁寧な情報発信の必要性を感じる機会となった。

中西孝介
中西孝介

フジテレビ 報道局 政治部 与党担当キャップ・ニュース制作部を経て、現在FNNワシントン支局

政策・政治
記事 50