4月24日に投開票された松山市議会議員選挙の結果、愛媛で初めてLGBTQ=性的マイノリティの議員が誕生する。保守王国・愛媛に吹いた新しい風、その挑戦の姿を追った。

松山に来て13年、立候補の背景にコロナ禍

渡邉啓之さん:
LGBTQということで一瞬注目がくるので、本心的には「来た!」と思いながら

渡邉啓之さん(49)は、生まれた時の性別は男性だったが、心は女性のトランスジェンダー。自分の恋愛対象が男性であることに気づいたのは、中学生のころだった。27歳で性別適合手術を受けた。

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渡邉啓之さん:
今、渡邉啓之と言いましたので、皆さまピーンとこられたと思いますが、昔風で言うと“おかま”でございます

LGBTQを公表し、「松山市政に当事者の声を届けたい」と選挙に臨んだ渡邉さんだが、立候補を決断した一番の理由は別にあった。

渡邉啓之さん:
松山に来て13年。それまで大阪とかで20年とかやってましたんで、夜。ほんまに夜一本でやってました。こんなんなるとは。たぶん水商売の人、みんな考え方が変わったと思います

1972年、京都に生まれた渡邉さん。13年前に松山に移住し「渡邉けい」として繁華街のバーで働いているが、繰り返す新型コロナの波に限界を感じていた。

渡邉啓之さん:
何かがあって一番最初に切られるものは、私は水商売だと思ってるんですね。とりあえず救済をしなければ、みんな生きていけないんじゃないでしょうか

ともにバーで働く伊藤亜美さん。渡邉さんとは20年以上の付き合いだ。

伊藤亜美さん:
精神強そうに見えて意外ともろいんですよ。最初(選挙に)出るって言った時は、それが一番気になりました。ボロボロって崩れ落ちるんじゃないかなって

”地べたを整える議員”になりたい

渡邉啓之さん:
松山市議選に立候補しました、渡邉啓之と申します。よろしくお願いいたします

通りかかった人:
最初から応援しよるけんね、頑張りなさいよ

渡邉啓之さん:
私は地べたを整える議員になりたい。だって、私は地べたで育ちましたから

この日は、渡邉さんの友人たちが選挙活動の手伝いに来てくれた。ともに手を振る涼子さんも、またLGBTQの1人。香川で女性会社員として働いている。

涼子さん:
黙って働いていると結婚出産の話、結構聞かれますしね。結婚はしないの?子ども作る予定ないの?できねーよって。声をあげてくれるのは大きいかなと思います。15年くらい昼の仕事をしてきたので、困ったこともあったけど諦めの方が強いかも

渡邉啓之さん:
そこで諦めるのも、もったいないじゃないですか。私がこの世界に入った時は、全否定される世界やったんですね。LGBTQ当事者が経験したことやから言える

目指すのは、LGBTQだけでなく全ての人が生きやすく、諦めのない社会。声をあげ続けるうちに、さまざまな応援メッセージが届くようになった。

渡邉啓之さん:
この方やったら「渡邉さんは、私が初めて政治家に興味をもったきっかけの方です」と。ほんとにほんとにマジでうれしいです。これしか言いようがないのよね

43人中、4位で当選「松山市は変わる」

選挙戦、最終日。初めのころは遠巻きに見ていた市民にも変化が表れた。

渡邉啓之さん:
頑張ってねと、たくさん声をかけていただいて。私が生きてきた中で、こんなにたくさん声をかけてもらったことはありませんでした。本当にどうもありがとうございました。何かね、ほんとに…。一番最初にクレームをいれられたのもこの場所ですし、シッシッってやられたのもここですし。でも、やっぱり最後みんな温かい言葉を…。もうやだ…。ごめんなさい。まだ終わってない…

涙ぐむ渡邉さん、選挙活動の締めくくりは繁華街を選んだ。

渡邉啓之さん:
夜の飲食店は文化です。なくなったらダメなんです。私は夜の飲食店で働いているからこそ、この夜の街を守りたい。もっともっと私、この夜の街で働いていたいです

そして投票日当日、会場で開票を見守る。

渡邉啓之さん:
やばいやばい、マジ…3000票いきました

陣営のスタッフ:
当選確実です!

最終の得票数は5169票。43人中4位という、自身の予想をはるかに上回る上位当選だった。

渡邉啓之さん:
伝えていけば伝わるというのがわかりました。私が一番目標にしてるのは「実は自分、LGBTQなんや」って言われたら、「あ、そう、だから?」て。「まぁいいやん、一緒に遊ぼうや」とか、「あ、そうなんや。じゃあ、一緒に仕事しよ」って。素直にそう言える環境を作っていきたいです

愛媛県内で初めてLGBTQ当事者の議員が誕生する。

渡邉啓之さん:
私は何にもできひんっていう子に見てほしい。私もそう思ってました。何もできへんと思っていました。絶対、松山市変わるよね

当選から一夜明け、渡邉さんの姿は松山市駅前にあった。

通りかかった人:
良かったね

渡邉啓之さん:
ありがとうございます、もう泣いちゃう。やめてください。泣いちゃうんで

渡邉啓之さん:
今回の選挙で、私1人では何もできないっていうのがよくわかったんです。だから、市議会議員になったって絶対に1人ではできないと思うんです。でも、志の一緒のものならば、私、何かできるような気がするんです。せっかくね、こんな人間が入るんやから、そんなふうになれたらいいなと思います

(テレビ愛媛)

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