歴史的な接戦となった韓国大統領選は、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補が与党候補の李在明(イ・ジェミョン)氏に勝利。尹政権の誕生によって日韓関係はどうなるのか。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、自民党の新藤義孝政調会長代理、韓国三大紙のひとつである中央日報東京総局長の金玄基(キム・ヒョンギ)氏を迎え展望した。

非常に僅差の勝利で、尹次期大統領は対立側の声も聞く必要

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長野美郷キャスター:
今回の大統領選の結果の受け止めは。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
これまで韓国では保守と進歩が10年ごとに政権交代してきたが、今回5年で交代したことは、文在寅(ムン・ジェイン)政権が深刻な国内の不安を呼んでいる表れ。だが史上最も僅差の選挙戦には、今の韓国の根強い分裂が表れている。韓国社会は過渡期にあり、生まれ変わろうと苦労している。その問題の本質を読み解く必要がある。

金玄基 中央日報東京総局長:
あまりの僅差で、僕は投開票日の翌朝5時半まで寝られなかった。当初の予想より僅差。「隠れ李在明派」が予想より多かったのでは。尹次期大統領は、現与党の声にも耳を傾けるという重い課題を就任前から課せられた。

長野美郷キャスター:
当選した尹候補が1639万4815票で得票率48.56%。敗れた李候補は1614万7738票、得票率は47.83%という僅差。

反町理キャスター:
勝敗を分ける大きな要素になったと思われるのが、野党候補者の一本化。3月3日、投票日へ1週間を切っている段階で、安哲秀(アン・チョルス)氏が尹候補の支持に回った。このタイミングや効果は。

金玄基 中央日報東京総局長:
当初の予想より効果がなかったと言われている。この一本化は野合だということで、無党派層の中でむしろ李候補に流れた票も結構あったと。尹候補に流れたのがほぼ半分、少しだけ多かった。ただ、尹候補側に心理的な安定感を与えた効果は確かにあったと思う。

反町理キャスター:
新藤さん、野合批判というとつい先日の日本の総選挙を思い出してしまうが、日本も韓国も、数を目当てにした組み合わせに対して国民はどう思うのか。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
そういう戦術的な試みは、局地的な成果をあげても決定的成果にならない。選挙民はそんなに振り回されない。それが決定的要因になるような国はなにかすごく寂しい。そんなことでは国は動かないはずだと私は思いますよ。

「公正と常識を正す」相手のスキャンダルを踏み台に勝った尹氏

尹錫悦(ユン・ソギョル) 韓国次期大統領

反町理キャスター:
尹次期大統領から「この国の公正と常識を正す」という話があった。文政権下の韓国では公正と常識が通用していなかったということか。具体的にどういうところが不公正で非常識だった? 

金玄基 中央日報東京総局長:
一番大きかったスキャンダルは、曺国(チョ・グク)前法相の娘が書類の捏造など進学に便宜を図ってもらったこと。特に若者の怒りが大きかった。これが現政権と当時検事総長だった尹次期大統領との戦いのきっかけになった。また李候補の大庄洞(テジャンドン)疑惑というのは、都市開発に関係する政策の中で、特定のグループの人間たちに莫大な利益を与え、その一部が李氏の側近などに流れたという疑惑。

反町理キャスター:
すると今回、尹候補は進歩系政党のスキャンダルを踏み台にして勝ったということですか。

金玄基 中央日報東京総局長:
確かにそうですね。今回の選挙は候補者の政策や好感度ではなく、「非好感度」を競う選挙だった。

反町理キャスター:
「どっちがより嫌われているか」という戦い。厳しい。よくあることなのか。

金玄基 中央日報東京総局長:
いや、珍しい選挙でした。候補者それぞれの奥さんにスキャンダルがあり、両方とも奥さんが記者会見や書面で謝罪をした初めての選挙では。

反町理キャスター:
新藤さんはどうお聞きに。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
韓国社会が今直面している、スキャンダルに対してどう対応するかということ。こういう選挙はあまり心地良いものではない。だが尹次期大統領の「公正と常識」には期待もある。文政権ではご都合主義で国と国との約束が守られず、司法がきちんと機能しない。尹氏はその司法を正そうとしてきたわけです。

対日重視発言も新藤氏「約束が反故にされた状態で新たな約束はできない」

尹錫悦(ユン・ソギョル) 韓国次期大統領

長野美郷キャスター:
尹次期大統領の対日政策について。尹氏は「両国民にとってどうすることが利益になるのか追求することが重要」と発言。岸田首相は「1965年の日韓国交正常化以来の友好協力関係の基盤に基づき、関係を発展させていく必要がある。尹次期大統領のリーダーシップに期待」。

金玄基 中央日報東京総局長:
選挙の中で、尹候補の対日政策に関して最も印象深かったテレビ討論の場面がある。「就任をしたらアメリカ・日本・中国・北朝鮮のどの国と一番先に首脳会談をやりたいですか」という質問。尹候補はアメリカ、日本、中国、北朝鮮の順だと答えた。対日関係への思い入れを象徴している。だから日本も、習近平中国国家主席が祝意の電話をする前に岸田首相が電話すれば、いい雰囲気が作れると思う。

金玄基 中央日報東京総局長

金玄基 中央日報東京総局長:
ただ、2つの問題がある。1つ目は韓国国内の問題。例えば徴用工の問題の解決にあたっては、被害者の方々や関係者の納得という国内的な正当性を確保しなければいけない。2つ目はもっと難しい問題かもしれないが、日本の問題。日本が韓国に対して「ボールは韓国にあり、何かカードを持ってきてほしい。それを見て判断する」という既存のスタンスから一歩も後ろに下がらない限り交渉は厳しい。

尹次期大統領は、日本について話すときにいつも小渕首相・金大中大統領の日韓パートナーシップ宣言の話をする。ここでは互いの国、北東アジアが本当に大事な国々であるという共通認識があった。だが現状では、韓国・日本の両政府がそうした共通認識を持っているか疑問。

反町理キャスター:
まずトップ同士が話し合い、大きな共通目標を作れと。新藤さんは。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
金さんのお話は、法の下の平等、法の遵守、価値観の共有といった前提が同じであり、お互いがより良くするためにということであればわかるロジック。小渕・金の宣言時はそうだった。だが今の韓国の最大の問題は、国家間の基本である日韓基本条約や請求権協定の根本を覆してしまっていること。もう話ができない。尹次期大統領がここをどう見るか。

いわゆる朝鮮半島出身者の労働問題は韓国内で解決する約束。日本企業にその負担を負わせることは何があっても受け入れられない。日本が最後は妥協してくれるだろうという、旧来の外交モデルを韓国は変えなければダメ。私たちは何度も良かれと思ってやってきたが、もうお互いにとって良くない。国家間の約束が反故にされた状態で新しい約束を作ることは、韓国だけでなく、どんな国ともできない。正しい道をきちんと歩まないと、いつまでたっても大切な隣国と真の友好関係が作れない。

新藤義孝 自民党政調会長代理

金玄基 中央日報東京総局長:
十分理解できますし、同感する部分も多い。ただ今回、政権交代があり、尹次期大統領は文大統領と正反対のスタンス。日本が前提条件として徴用工、慰安婦の問題についてこれを認めてから首脳会談だという条件を出せば、なかなか前に進めないのでは。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
韓国側から協定は守るという前提で、どういう対応ができるのかと考える努力や意思が伝われば、それに対する外交のチャンネルは常に開いている。どちらに目の前の政治的な勝利があった、利益があったという次元ではない部分で、日韓は結びつく必要がある。そうしなければ、中国・北朝鮮・ロシアに囲まれたこのエリアでお互いが安定できない。

尹氏は対中国・北朝鮮では強硬姿勢 日米との関係を重視

長野美郷キャスター:
尹次期大統領のアメリカ、中国、北朝鮮に対する外交姿勢について、どうご覧になりますか。

金玄基 中央日報東京総局長:
文政権とはかなり違うものになっていくと思う。例えば、中国が韓国に配備されている高高度防衛ミサイル(THAAD)の撤収を要求しているが、尹氏は「ならば中国が先に国境に配置されている長距離レーダーを撤収しろ」と言った。何もプラスになっていない文政権の弱腰の対中政策を継承しないときっぱり言っている。そしてアメリカとの同盟強化を訴え、日本も含めた三角協力を訴えている。

反町理キャスター:
北朝鮮に対して、いわゆる太陽政策はとるのか。

金玄基 中央日報東京総局長:
とらないと思う。文政権のような対話のための対話、結果が出せない話し合いはしないと言っている。文政権は配慮して、北朝鮮のミサイル発射にも「挑発」という言葉を使わないが、それで北朝鮮が韓国側の立場を支持してくれることはなく、なめてもっと強硬な策に出てくる。これに尹次期大統領はすごく怒りを持っている。対北朝鮮政策は根本的に変化し、アメリカや日本と似たものになっていくと思う。

新藤義孝 自民党政調会長代理:
文政権がやろうとした南北融和は夢でしかなかった。現実的にアメリカの力がアジアで相対的に弱くなっている中、私たちもきちんと韓国とアメリカと連携することがとても重要。これが基本となり、政策が展開し得ると思う。

BSフジLIVE「プライムニュース」3月10日放送

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