富士山の登山シーズンは7月上旬から9月上旬までだが、それ以外のシーズン、いわゆる“閉山中”も登山が禁止されているわけではない。
この閉山中に登山する人は後を絶たず、とくに冬には死につながる滑落事故も起きている。冬の富士山の危険性を、ドクターヘリの医師や登山ガイドが指摘した。

「搬送手段ではない」ドクターヘリの役割

順天堂静岡病院・石川浩平医師:
あちらがドクターヘリです。重症度が高い、もしくは緊急度が高い患者を病院に入る前から救命する、命に危険性がある患者に対して、治療を施すという目的のヘリコプターです

静岡県内には2機配備
静岡県内には2機配備
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初期治療までの時間を大幅に短縮できるドクターヘリは静岡県内で2機あり、そのうちの1機は順天堂大学医学部附属静岡病院を拠点としている。

県東部を活動範囲とするこのドクターヘリは、2020年度に943件の出動があった。

順天堂静岡病院・石川医師:
例えば心筋梗塞が疑われる患者であれば、心電図をとることもできますし、除細動という電気ショックをかけることもできます

フライトドクターの順天堂静岡病院・石川医師
フライトドクターの順天堂静岡病院・石川医師

石川医師は、この病院のフライトドクターだ。ドクターヘリには治療や手術まで対応できる器具が用意されていて、患者の搬送にとどまらない機能があるという。

ドクターヘリには手術ができる器具も
ドクターヘリには手術ができる器具も

石川医師:
ドクターヘリ自体は搬送する手段のものではなくて、治療をいかに早く始めて患者の転帰(症状の経過)や救命に寄与する役割をしている。(症状が)悪い方をさらに悪くしない、むしろ良くして病院まで搬送するのが目的

冬のケガは低体温で出血量増加

こうした役割が期待されるドクターヘリだが、冬には富士山への出動も少なくないという。

落合健悟記者:(2022年2月取材)
富士山5合目に向かう道です。雪が積もっていて(表示が)見えづらいですが、「冬季閉鎖中」となっていて、現在通行止めとなっています

5合目に通じる道路は11月初旬から4月下旬まで閉鎖
5合目に通じる道路は11月初旬から4月下旬まで閉鎖

今、石川医師が問題視しているのが閉山中の富士山での登山者の事故だ。2022年1月にも下山中の男性が滑落し死亡した。

滑落事故の救助(2022年1月)
滑落事故の救助(2022年1月)

石川医師:
順天堂病院にも年間数人は内因性、外因性含めて(富士山でのケガ人が)搬送されています。受傷から2~3時間経過して医療を施すので、緊急度・重症度の高い患者は亡くなってしまう方もいます。冬場は体温が低いので、夏場と同じようなケガをしても、体温がさがり出血量がかなり増えるんですね

気象庁によると、この事故が起きた1月の富士山頂の平均気温はー18.2℃だ。登山シーズンの7月の5.3℃と比べると20℃以上低くなっていて、気温だけを見ても夏と環境が大きく異なることがわかる。

冬の富士山頂
冬の富士山頂

行政も登山禁止できず“苦肉のルール”

夏の登山シーズンにガイドを務める福田正浩さんも、冬の富士山の危険性を指摘する。

登山ガイド・福田正浩さん:
冬はやはり春から秋の状況とは大きく違い、気温も低くなりますし、風も強くなる。そして雪も降って積もっている。山の斜面を登るとなると、道具もそれなりにカスタマイズ、状況に合ったものが必要になってくるので、非常に慎重にならざるを得ない山だと思っています

 
 

行政や警察も、夏のシーズン以外の登山を控えるよう呼びかけている。ただ登山はあくまでも自己責任において行われるもので、閉山中の登山を法的に禁止することはできない。

環境省・静岡県・山梨県でつくる「富士山における適正利用推進協議会」は、十分な技術・知識をもたない者が閉山中に登山しないよう求めるため、「夏山以外の富士山で守るべき3つのルール」を定め、万全な準備をしない者の登山禁止、登山計画書の提出、携帯トイレの持参を呼び掛けている。

環境省・静岡県・山梨県も注意喚起
環境省・静岡県・山梨県も注意喚起

協議会によると、2019年の富士山での遭難者数は67人で、このうち閉山中は11人と16%だ。遭難者のうちの死亡者にかぎると、年間8人のうち閉山中が4人で50%を占める。閉山中の遭難は死につながりやすいことがわかる。

山小屋閉鎖で救助までに長時間

登山ガイド・福田さん:
本当に(閉山中に)富士山に登るのかを考えたうえで、少しでもリスクがあると思ったら登山はやめていただきたい

登山者の準備が万全であったとしても、閉山中は山小屋や警察の駐在所も開いていない。すぐに助けを求めることもできず、救助・搬送までの時間は夏よりも長くなり危険性はさらに高まる。

夏に賑わう山小屋も閉山中は閉鎖
夏に賑わう山小屋も閉山中は閉鎖

順天堂静岡病院フライトドクター・石川医師:
気軽に行って帰れるところではない。富士登山に適しているとされる期間が7~9月の2カ月しかないということは、それなりの理由がある。地上では救える命も、山の環境・状況・条件下では同じではないと認識してほしい

2021年夏に、2年ぶりに開山した富士山。
日本一の山で事故を起こさないためにも、自分の命を守るためにも、閉山期間中の登山の危険性を理解したい。

滑落事故の救助(2022年1月)
滑落事故の救助(2022年1月)

そして、救助に向かう警察・消防や搬送に向かうドクターヘリの医師や看護師にも危険が伴うことを、肝に銘じたい。

(テレビ静岡)