温泉旅館で働くオランダ人女性。留学した日本で働くのが夢で、縁あって長野県松本市の企業に就職した。この春には旅館の若女将に。今、仕上げの修業中だ。

日本の文化を愛するオランダ人女性

「いらっしゃいませ」と着物姿で接客をするノエル・ライカーズさん。オランダ出身の30歳だ。

ノエル・ライカーズさん(右)
ノエル・ライカーズさん(右)
この記事の画像(15枚)

ここは松本市の「美ヶ原温泉 翔峰」。美ヶ原温泉屈指の規模で、北アルプスや松本市街地を一望できる露天風呂が自慢だ。

美ヶ原温泉 翔峰(長野県松本市)
美ヶ原温泉 翔峰(長野県松本市)

運営しているのは交通、観光、小売などに会社を展開するアルピコグループ。ノエルさんはここの社員で、2021年の暮れに「翔峰」に配属された。

客:
きれいでした。着物が似合ってましたね

旅館の女将・内城良子さんと共に客を迎えるノエルさん。4月から女将を補佐する「若女将」になる。

ノエル・ライカーズさん:
最初はびっくりしました。この私でいいのかなと思っていました。チャンスがあることは、すごいありがたかった

熱意や日本の文化への造詣の深さが買われての抜てきだ。

「留学先の信州で再び暮らしたい」就職試験に挑戦

ノエルさんはオランダ南部の街、ベーク・エン・ドンクの出身。日本に興味を持つようになったきっかけはアニメや漫画だが、空手や柔道を習ううちに礼節を重んじる日本の考え方にひかれるようになった。

ノエル・ライカーズさん:
空手とか柔道につながる考え方、武士道とか、そういうところですよね。そこから歴史に興味を持ち始め、歴史から神道、神話の話が出てきたので、そこに結構はまってました

留学先を探していたところ安曇野市でホストファミリーがみつかり、松本深志高校に1年間、通った。

ノエル・ライカーズさん:
日本の文化もそうですけど、日本アルプスが感動しました。ものすごいきれいでした。オランダは山のない国です。その時までは山を見たことがなくて

留学後もオランダの大学と大学院で、日本語や日本文化を学んだノエルさん。「信州で再び暮らしたい」と県内企業の就職試験を受けたが、結果は不採用だった。

日本で就職したいという思いを抱えていた2016年、チャンスが巡ってきた。日本を旅行していた際、留学時代の知人からアルピコグループが「インバウンド推進室」のスタッフを求めていると聞いたのだ。ノエルさんはすぐに応募した。

――就職面接は旅行中に?

ノエル・ライカーズさん:
そうです。スーツとかもなくて、確か黒いスニーカーで行きました。「採用します」って聞いたときは、これからの人生変わりますねって(思った)。夢がかなったってことはうれしかった

グループのホテルで2年間、接客を学び、その後はインバウンド推進室で宿泊プランの開発や販売販促を担当した。

「翔峰」への配属は、新型コロナウイルスの影響で外国人観光客が激減し、インバウンド推進室の業務が減ったこともあるが、旅館の新たな顔になってほしいという思惑もあったようだ。

美ヶ原温泉 翔峰・塚崎竜一総支配人:
非常に明るくて、日本文化や歴史や伝統に敬愛が深くて。そういう部分は日本の旅館も非常に大事にしているところ。マッチング的にも適合しているんじゃないかなと思いました

お茶に所作…若女将として仕上げの修業中

若女将は新たに設けられた仕事。

ノエル・ライカーズさん:
ここは煎茶道が体験できる場所になります。ここで私が、いらっしゃるお客さまにお茶を出します

ノエルさんは、4月からここで煎茶を客にふるまう予定で、既に日本茶のインストラクターから指導を受けている。

ノエル・ライカーズさん:
この温度でお茶の甘みが出る、渋みが出るっていうところを研修します

さらに同僚とともに茶道教室にも通っている。

ノエル・ライカーズさん:
抹茶道も日本の文化。全体を知らないといけないので、習うことになりまして

女将の内城良子さんから所作を学ぶ
女将の内城良子さんから所作を学ぶ

この日は、女将歴14年の内城さんから細かい所作を学ぶ。フロントや経理も経験したベテランだ。

ノエル・ライカーズさん:
失礼致します。ようこそお越しくださいました

次は酒のつぎ方。

女将・内城良子さん:
冷たいものはなるべくここを持たない。まず小指を置いてから(瓶を置く)

ノエル・ライカーズさん:
ちゃんと身につけていかないといけないなと

女将・内城良子さん:
一つ一つはぎこちないけど、すんなりやれば全然。ただ見てる人は見てるので

歩き方を指導
歩き方を指導

空いた時間にも歩き方の指導。修業中のノエルさんを励ますのは、遠く離れたオランダにいる母親だ。

母・イヌさん:
なかなか会えなくてさみしいですけど、娘が日本で働くという夢をかなえたことがすごくうれしいです

ノエル・ライカーズさん:
今、コロナで旅行できないので会えないのがすごいさみしいんですけど…元気そうで安心します。私もここで頑張ります

コロナの影響が続く宿泊業界。ノエルさんは若女将として、いずれ戻ってくる外国人客にも「和のおもてなし」をして、宿を盛り上げたいと話す。

ノエル・ライカーズさん:
日本の文化がすごく好きなので、私の考える「おもてなし」を翔峰のお客さまに発信していきたい。緊張はしますが、頑張っていきたいと思います

(長野放送)

長野放送
長野放送

長野の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。