韓国大統領選挙の投票日まで1カ月となった2月9日。与党「共に民主党」の公認候補、李在明(イ・ジェミョン)氏(57)の妻が謝罪会見を開いた。

「公と私の区別を明確にしなければならなかったが、私がとても未熟だった。私の未熟さにより起きたことに対して、国民の皆さまに改めておわび申し上げる」

やや震える声で陳謝した金恵景(キム・へギョン)氏(55)は、深々と頭を下げた。

謝罪する李在明候補の妻・金恵景氏 (2月9日)
この記事の画像(7枚)

「牛肉4パック、値札を外して…」道庁の法人カードで支払い?

金恵景氏に向けられた疑惑は、夫・李候補が京畿道知事だった当時、道庁秘書室の男性職員が夫人の私的な雑用をさせられたという報道が発端となった。公共放送KBSによると、この男性職員は上司から「肉屋で牛肉4パック(約1万2000円分)を注文した。値札を外してラップをかけて、アイスボックスに入れて」と指示され、李夫妻の自宅に届けたという。KBSが公開したこの男性職員と上司の通信記録は2021年11月までの9カ月間に及び、このような雑用が繰り返されていた実態が明らかになった。

韓国メディアによると、李夫妻の自宅に届けられたのは牛肉以外にも寿司、鶏の水炊き、中華料理、フグ料理、ベトナム料理など。

男性職員は支払いの際、まず本人名義のクレジットカードで決済し、その後、道庁の法人カードで再び決済し直したという。事実であれば公金の私的流用にあたるが、こうした決済が10回以上あったといい「公務用カードでグルメツアー」(朝鮮日報)とメディアが皮肉るほどだ。
ちなみに男性職員に指示していたのは道庁の総務課職員の女性で、李候補が知事や市長になる前の弁護士時代から長年仕えてきた人物だった。

会見で記者から法人カードの流用を認めるか問われた金恵景氏はしばらく考えた末、捜査が行われているとした上で――

「真実が明らかになるまで最善を尽くして協力し、そしてそれに沿って結果が出て、応分の責任があるなら責任を負う」
と述べるにとどめた。

謝罪する尹錫悦候補の妻・金建希氏(2021年12月26日)

相次ぐ妻たちの疑惑と謝罪

候補者の妻をめぐっては、最大野党「国民の力」の公認候補、尹錫悦(ユン・ソギョル)氏(61)の妻、金建希(キム・ゴンヒ)氏(49)が2021年12月、経歴を詐称していたことを認め謝罪している。

金建希氏をめぐってはその後、インターネットメディアの記者との通話記録の一部が公開された。一部で問題発言があったとして本人も謝罪したが、そのサバサバとした物言いが逆に女性を中心に共感を呼び、自身のファンサイトの登録者数が激増する現象も起きた。

一方今回の金恵景氏の謝罪について、私的な雑用をさせられていたと主張する男性職員はKBSの取材に対し「誠意も感じられず、本質を突くわけでもない会見だった」とし「記者に代わって問い直したい」と反論。最大野党「国民の力」も「どの事実関係についても明らかにしていない。犯罪行為に対する的外れな謝罪」と批判している。

李候補の妻にかけられたこの疑惑が1カ月後に迫った大統領選挙にどのような影響を与えるか、韓国メディアは「未知数だ」としている。

テレビ討論会での4候補者(2月3日)

「五里霧中」「超薄氷」…見えない選挙戦の行方

3月9日の投票日が1カ月後に迫っても、有力候補の支持率は激しく競り合っている。最新の世論調査では――

・革新系与党「共に民主党」 李在明候補 37% 
・保守系最大野党「国民の力」 尹錫悦候補 36% 
・中道系野党「国民の党」 安哲秀(アン・チョルス)候補 13% 
・革新系野党「正義党」 シム・サンジョン候補 3% 
(2月11日 韓国ギャラップ) 

先の読めない展開に、韓国メディアも「五里霧中」「類例がない超薄氷」などと表現していて、調査のたびに複雑に変化する世論調査結果について時事評論家は「20年間世論調査を見てきたが初めて」と驚きを隠さない。
今後は尹候補と安候補で野党候補の一本化の成否が選挙戦の行方を左右するとの見方も根強い。

そんな激戦を闘う両陣営は言わば“なりふり構わず”の選挙戦を展開している。

ヒップホップに料理動画…“なりふり構わず”若者の取り込みへ

60代以上は「保守系」、40~50代が「革新系」を支持する傾向が強いとされる韓国で、勝敗のカギを握るのが無党派層の割合が高いとされる20~30代だ。激しい支持率争いを繰り広げる両陣営もこの若者世代の取り込みに必死だ。

城南(ソンナム)市長時代の都市開発をめぐる疑惑が尾を引く李候補。
若者の間でも悩みが多いと言われる薄毛治療の保険適用を公約に掲げたと思えば、子ども向けの番組に出演したり、夫人とダンスする様子を公開。時には国民の期待に応えられていないと土下座もいとわない。

公式YouTubeチャンネルで様々な姿を公開する李在明候補

一方、妻の経歴詐称で一時支持率を落とした尹候補は、自身の公式YouTubeチャンネルに自ら料理を披露しながら有権者と語らうコーナーを新設。前検事総長のお堅いイメージからの転換を図っている。

「ソギョル兄さんの飯屋」(尹錫悦候補のYouTubeチャンネル)

「史上初めての非好感度を争う選挙」

候補者や家族の疑惑ばかりが取り沙汰され、好感をもてる候補者がいないという意味で「非好感度を争う選挙」とも言われる今回の大統領選挙。「国家の未来のための生産的なビジョン論争は見られない」(Money Today)と韓国メディアも辛辣に批判している。選挙戦終盤で韓国の未来を語る政策論議が交わされるのか。11日には2回目のテレビ討論が行われる予定だ。

 

【執筆:FNNソウル支局長 一之瀬登】

一之瀬登
一之瀬登

FNNソウル支局長。東京オリンピック・パラリンピック担当キャップを経て2021年10月ソウル支局に赴任。辛いものは好きだが食べると滝汗。

記事 17