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鹿児島のある病院。新たな医療デバイスの実用化に向け、臨床研究が行われている。

被験者の胸にマウス型のデバイスを当てると、モニターに、心音と心電の波形が同時に表示される。

加治木温泉病院 臨床研究担当・礒邊拓哉技師:これは“超聴診器”と呼ばれる機械です。

聴診器を超える“超聴診器”。正式名「心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器」という、このデバイス。

集音装置と電極がついていて、胸に当てるだけで、心音と心電を取得し、解析。心音を“見える化”して、モニターに表示する。いったい、どのように見えるのか。

これは正常な場合の心音と心電図。

一方、こちらは心臓に疾患を持つ人の心音と心電図。

AIが、心疾患特有の心音と心電のパターンを“見える化”し、診断をサポートすることを目指す。開発を行っているのは、鹿児島の医療系スタートアップ「AMI」だ。

研究開発の指揮を執る現役の循環器内科医・小川晋平CEOは、この超聴診器の意義をこう語る。

AMI 小川晋平CEO:聴診器が、(発明から)200年変わらなかったのは、それだけ優れた診療方法、診療機器とも言えるんですが、(聴診は)耳に頼るという点で、隣の診察室で大きな音が鳴っている時に、同じような診療・聴診ができるかというと、そういうわけでもありませんので。客観的にも“見えるような聴診の方法”の確立が必要かなと考えました。

さらに今、進められているのが、「AMI」が独自に開発し、すでに医療現場に導入されている、この遠隔聴診対応ビデオチャットシステムと超聴診器を組み合わせること。

より精度の高い診断が可能になるという。その実現に向けて、超聴診器は今、医療機器認可の取得と2023年の発売を目標に、全国のおよそ15の医療機関で、心音のデータ解析に関する臨床研究が進められている。

加治木温泉病院 遠隔医療推進室・川原翔太主任:視覚的な部分でも補えるという意味では、可能性を感じています。AIを使って、より確実に心臓の異常が見つけられるようになれば、みなさんがより健康的な暮らしができるのではないかなと思います。

AMI 小川晋平CEO:AI医療機器として、自動診断アシスト機能の実装をまず目指します。その先には、遠隔医療への応用を考えておりまして、さまざまなメディカルデバイスが連携することで、質の高い遠隔医療が実現できるのではいかと考えて、研究開発を進めています。

内田嶺衣奈キャスター:このニュースについては、デロイト トーマツ グループの松江英夫さんに話をうかがいます。スタートアップが開発した新たな医療機器ということですが、松江さんはどんなところに注目していますか。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:まさにこういったデジタル聴診器、こういったテクノロジーの進歩が、ゆくゆくはオンライン診療への普及につながる、これにわたしは注目しているんですね。デジタル聴診器は、例えば電子カルテとかデジタルツールとの相性もいいですし、データをエビデンスとしてとれるようになると、オンライン診療の信頼性の向上にもつながる、ここにも期待が持てるのではないかと思います。

内田嶺衣奈キャスター:そういったオンライン診療を今後、さらに広めていくためには、どんなことが重要になるんでしょうか。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:まさにこれは、テクノロジーの進歩と同時に、実は既存のルールを変えていく、このルール作りです。テクノロジーとルール作り、両軸でとらえていく、この辺の視点が非常に重要になってくると思います。実際、日本のオンライン診療は、アメリカとかヨーロッパに比べて、若干、普及が遅れているというところがありまして、背景にはいろんな課題があるんですが、その1つに経営上の課題、もっと言うと診療報酬をめぐるルールをどう変えていくのか。こういった課題があるんですね。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:実際にオンライン診療というのは、現在のところ対面型の診療に比べて、診療の報酬水準は低いというところもありますし、これを適用するルールも厳格に定められているので、なかなかお医者さんや病院にとっては、オンライン診療のための初期投資や環境整備をするところに、なかなか踏み切れない、結果的にオンライン診療の普及を妨げる、こういった結果にもつながるので、この辺のルールをどう変えていくかが、非常に大きな論点になっているんです。このような環境整備があって初めて、先ほどのようなツールがより普及していくんじゃないかと思うんです。

内田嶺衣奈キャスター:環境をより整えていくことが、テクノロジーの進化にもつながっていくということですね。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:まさにルールを変えていく、それによって環境を変えること自体が、先ほどのテクノロジーの進化そのものを加速させていく側面にもつながると思うんですね。実際に患者さんにとってもお医者さんにとっても、まさにこういうテクノロジーを作る側にとっても、こういったルールとテクノロジーの進化、この両軸を好循環化していく、これが、それぞれにとってハッピーになるような医療の革新につながるのではないか、こういった動きが加速することに、私は期待してみたいなと思います。

内田嶺衣奈キャスター:普段、仕事でなかなか病院に行けないという方や、病院数が限られた地域に住んでいる方など、オンライン診療が広まることで、便利に感じる人はたくさんいると思います。テクノロジーの進化を生かした環境づくりが早く進むことを願います。

(「Live News α」1月7日放送分)