安倍の構想力、菅の実行力、岸田の聞く力

岸田政権誕生から3カ月が経った。「安倍には構想力、菅には実行力があったが岸田には聞く力しかない」などと揶揄する人もいるが、とんでもない。先月(2021年12月)行ったFNN世論調査での内閣支持率は66%と引き続き高い水準だった。岸田内閣は国民の支持を得ている。

FNN世論調査より(2021年12月実施)
FNN世論調査より(2021年12月実施)
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岸田人気の第1の理由は事実上のゼロコロナ対策だろう。外国人の入国を拒否し、一時は邦人の帰国も止めようとした。4日に見直しを表明するまでオミクロンの陽性者は原則全員入院だった。僕はゼロコロナに反対で安倍、菅両政権のウィズコロナを支持するが、どうやら多くの国民はゼロコロナの方が好きらしい。いい悪いは別にして岸田氏のゼロコロナは支持されている。

人気の第2の理由は、聞く力だ。邦人の帰国拒否は国土交通省の決定が国民に評判悪いと見るやすぐにひっくり返したし、オミクロン濃厚接触者の大学受験拒否も、同様に文科省の決定をひっくり返した。悪く言えば腰が定まらない、よく言えば柔軟、しかも機敏だ。

臨時国会の予算委員会では首相の低姿勢が印象的だった。謝罪したり反省したり。だが肝心なところは譲らず野党はやりにくそうに見えた。こういう人は意外に強い。

岸田首相の低姿勢が印象的だった臨時国会の予算委員会
岸田首相の低姿勢が印象的だった臨時国会の予算委員会

岸田・林コンビは決して「媚中」ではない

実は岸田政権安定のバックボーンは安倍政権の国政選挙6連勝による「数の力」と菅政権のワクチン一本足打法によるコロナの事実上の終息である事は皆が知っている。だから首相は安倍、菅両氏には頭が上がらないはずだ。特に安倍氏には。だから首相はいくつか間違えてはいけない政策がある。

岸田首相は安倍氏には頭が上がらないはずだ
岸田首相は安倍氏には頭が上がらないはずだ

たとえば対中政策だ。首相は北京五輪に外交使節を派遣せず米国に歩調を合わせたが「外交ボイコット」という言葉は使わなかった。これをもって「中国に対して弱い」という批判があるが、安倍政権でもたぶん同じことをやっただろう。首相と林芳正外相が「親中」あるいは「媚中」だと主張する向きがあるが、では8年8カ月の安倍・菅政権に比べてどの政策が具体的に親中あるいは媚中なのか教えてほしい。

「媚中」か? 林芳正外相
「媚中」か? 林芳正外相

首相の危なっかしい所はそこではない。複数の人から聞いた話を総合すると首相は国連の核兵器禁止条約へのオブザーバー参加に関心を示しているらしい。そもそも外相時代にオブザーバー参加を模索し、その時点では当時の安倍首相との調整の上、見送ったということだ。

政治的野心で判断を間違えるな

被爆地広島選出の首相は外相時代にはオバマ米大統領を広島に呼んだという実績がある。首相になってライフワークとして核廃絶を世界に訴えるというのは悪い話ではない。うまくいけば岸田首相の功績として讃えられるだろう。ただ核禁条約へのオブザーバー参加は世界に対して間違ったメッセージを送ることになる。

2016年5月オバマ元大統領が現職大統領として初めて広島を訪問
2016年5月オバマ元大統領が現職大統領として初めて広島を訪問

核禁条約の最大の問題点は核放棄の検証について具体的な規定がないことだ。だから日本が米国の核抑止を放棄しても周辺で核を持っている中国や北朝鮮も放棄するとは限らない。むしろ日本だけが丸裸になる危険性がある。

核の管理は「お花畑」的な理想論ではなく現実論で対処しなくてはならない。そうしないと国民の命は守れない。首相はそこをわかっているはずだが、政治的野心で判断を間違えないでほしい。

首相が万一、核禁条約にオブザーバー参加すればそれは安倍政権との明確な違いを打ち出すことになる。安倍氏からの独り立ちである。だが同時に安倍氏の支持を失うことにもなる。それは岸田政権の終わりの始まりになるだろう。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。